「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第十話
レーベン王城、王女は去っていく馬車をバルコニーから眺めていた。
「グリーン、帰ってしまいましたわ・・お父様も酷い、上手くいくと思っていたのに・・もう会えないのかしら」
「これで良かったのだと思いますよ」
正直俺はほっとしていた。顔には出さないようにしているが、内心はハラハラしていたのだ。なにせ俺は王女に惚れていて変な虫は付けたくないのだ。でも俺が王女と結ばれる可能性はほとんど無いのだけど。
「ロイド、またグリーンに会えるかしら?」
「特に会ってはいけないと言われたわけではないですよね。問題ないかと思われます」
俺はいつもの様に顔色一つ変えずに答える。王女は、雲一つ無い青空を眺めていた。
「二人で町に来るのは久しぶりだね」
ガラ町の中心街。ぼくはアリスとお洒落なカフェで食事をしていた。町に来てしばらく経つけど、こんなお店に来たのは初めてだった。ボックス席で、向かい合わせで座っている。
「本当に久しぶりだわ。夢でも見ていたみたいね」
アリスはそう言うとテーブル上の果実水をストローで飲んでいた。小さい口でくわえる姿はリスみたいで可愛い。
「今日のグリーンはご機嫌ね」
アリスはぼくを見て微笑んでいた。
「え?そうかな」
ぼくは自然と笑顔になっているようだ。気持ちが高揚してドキドキしている。今までずっと一緒にいたというのに。
「ねえ、何かさっきから誰かに見られている気がするんだけど気のせいかしら・・」
「え?・・そうなの?」
アリスに言われて初めて気が付いた。今日のぼくは、浮かれていてどうかしているな。周りの事が気にならなくなっているみたいだった。しっかりしないと。
「グリーン、以前キャンセルしたお客さんの所へ一度見に行った方が良いと思うんだけど。あれから随分経っているから」
怪我をして休んで・・あれから、だいぶ日数が経っている。最近バタバタしていたから忘れていたけど、お客様には急にキャンセルしちゃってとても悪い事をしたな。
「謝った方が良いよね・・それと」
ぼくはアリスと相談をして、予約をキャンセルしてしまったお客様に会いに行くことにした。
**
コンコン
ドアをノックした。一件目。きっと怒っているだろうな。ぼくはそう思っていたのだけど。
「こんにちは。この前は申し訳ありませんでした・・」
「あれ、グリーンさんじゃないかい。帰って来たんだね。ほらほら上がって」
少し腰の曲がった、年配のお婆さんだ。
「あの時は、びっくりしたけども。怪我しちゃ仕方あるまいよ。そういう事もあるさね。え?わたしかい?少し痛いけどもう治りかけてるよ」
ぼくはお婆さんの足に手をかざした。
『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』
「おお~。足が軽くなったねぇ。さすがグリーンさんだよ」
「お金は今回は要らないです。こちらの都合で断ってしまったので・・あ、そういば最近何か町で変わったことがありましたか?」
ぼくはお婆さんに、町の事を聞いてみることにした。
「最近変わった事といっちゃあ、グリーンさんがレーベン城に行ったって話さね。ガラの噂になっとるよ」
お婆さんはニコニコしながら教えてくれた。あれ?誰かに行くことを伝えてあったっけ?馬車に乗っている所を見られたとか、それくらいしか思い浮かばない。
「あ~もしかして・・」
アリスには思い当たる節があったらしい。
「マリリアにレーベン王城に行くことを言ってあったんだよね。もしかしたら、誰かに言ったのかも・・」
十分あり得る話だった。マリリアさんはギルド職員。そこから話が広がってしまったとしても不思議ではない。
「特に、口止めをしていたわけではないから」
町の人の視線はそういう事か。お城に行ったのは事実だし、別にいいんだけど。
**
二件目のお客さんの家を訪れてみた。
「グリーンの旦那、久しぶりだなぁ。怪我?もうすっかり治ってるぜ?まだ少し痛みがあるくらいか」
冒険者の男性で、無精ひげを生やしている。重症では無かったのが幸いだ。
「申し訳なかったと思います。無料でヒールをかけさせて頂いてます」
「そんなに謝る事でもないだろうに。無料なら喜んでやってもらうけどよ」
『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』
淡い魔法の光が、冒険者の右足を包み込んだ。男性は治っていく足をじっと見ている。
「なぁ、気のせいかもしれないが魔法の威力上がってないか?」
「え?」
「治り方が早くなっている気がするんだ。俺、何回か他の人の治療するところ見てたからな」
そういえば、ステータスちゃんと見てなかったな。後で見ておこう。
**
「ねえ、グリーンの魔法って成長しているの?」
教会への帰り道、アリスが尋ねてきた。
「うん。何回か使うと熟練度が上がるのかな?確かに最初の頃よりは、威力が強くなってる気がするけど」
ぼくもよくは分かっていない。ただ、最初よりは変わってきていることは確かだと思う。特に《《死にかけた》》あたりから急激に上がっていたのだ。もしかしたら、女神さまが特別に何かしたのかもしれない。
「明日も何件かまわろうか」
意外と皆優しくて、怒っている人はいなかった。あと何件かまわったら、教会の治療を再開しても良いかな。落ち着いてきたら、教会の近くに良い物件を探しに行こう。
「「あ~っ!」」
突然アリスが叫んだ。
「明日悪いけど、一人で行って来てくれないかな。教会の諸々の仕事やってなかったから、やらないとまずいわ」
ぼくの知らない教会のお仕事があったようで・・。そういえば、何日も教会を空けていたものな・・畑も放りっぱなしだったし・・。最近はアリスがいつも付いてきているので当たり前になっていた。一緒にいても特にやる事はないのだけど。
「そっか。アリスも頑張ってね」
治療のお仕事は問題ない。ただ一人で移動か・・。王城でロイドさんに、命を狙われているのなら複数で行動していた方が良いと言われていたのだ。
「まさか、昼間だし襲ってこないと思うけど・・」
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