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「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第一話

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

あらすじ
主人公グリーン15歳。父が亡くなり叔父に長年住んでいた村を追い出された。隣町の教会に行く事にした。昔父が、困ったときに助けてもらったと聞いていたからだ。夜、教会の中に勝手に入り長椅子で眠り込んだ。夢の中に女神さまが現れて回復魔法のスキルを貰う。教会のシスターアリスに助けられて教会で回復魔法を使い少しのお金を貰いながら商売を始める。隣町の治療院から妨害があったり、殺されかけたりするが何とか生き延びる。王城から招待されて王女を救ったことにより好意を持たれる。アリスと恋人同士になる。アリスに好意のある大神官に罠にかけられそうになるが無事に切り抜ける。王女からの好意を断る。グリーンはアリスと結婚する。


「「お前はこの村から出て行け!二度と戻ってくるんじゃないぞ」」

薄汚い叔父のギルは、ぼくを蹴とばした。いつも酒の匂いを漂わせている。暴力を振るわれ、ぼくは住み慣れた家を追い出された。

『ガシャ』

家の鍵を閉められる。
ぼくの名前はグリーン15歳、たった今住み慣れた家から追い出されてしまったところだ。ここはグラス村、生前父が村長をしていた村。

数日前、父が病気で亡くなり落胆していたところに・・突然ギルが家に来て、家を占拠してしまったのだ。
おそらく祖父の財産目当てだと思う。よく父にお金をせびっていたから。
ギルは以前からお金のことで良く揉めていた。

「これから・・どうしよう・・」

着の身着のまま、追い出されてしまったのでお金も何も無い。村にいたら暴力を振るわれるだろうし、居場所が無い。ぼくは仕方なく村を出ることにした。慣れない道を歩く。確か半日歩けば、隣町のガラに着くはず。

荒野を歩く。足が疲れてくる。休み休み移動する。腹が減ったが、食べ物は無くひたすら歩くしかない。足が棒のようになっても、まだ町は見えてこなかった。

日が落ちてきた頃、ようやく町が見えてくる。
町の家々の明かりがポツポツと灯り始めた。
ガラ町はグラス村よりも人が多くて、夜になっても人々が行き来しているみたいだ。
多くの人々は家路を急いでいるようだった。

「何処に行けば・・そうだ」

教会に行けば泊めてもらえるかもしれない。父が昔困った時、教会に泊めてもらったと聞いていた。教会の前に行くと、明かりも無くて真っ暗になっていた。

「もう人がいないのかな?」

扉が開いていたので、ぼくは勝手に中に入った。スタンドグラスから漏れる、月明かりが室内を照らしている。薄暗くて怖いけど、取り合えず寝られればいいや。教会内の木で出来た長椅子に手をかける。ぼくは、長椅子に寝転んで休むことにした。

「寝るだけだからいいよね」

朝になれば出て行けばいい。
何処に行くのかまだ決めていないけれど。とにかく今は体を休めたい。
体を横にして目を閉じると直ぐに眠りに落ちていった。


辺りが明るい空間。ぼくは霧の中のような場所に座っていた。

「ここは?」

「ここは貴方の夢の中です」

「貴方は?」

金髪の髪の長い女性が、純白のドレスをまとって佇んでいた。瞳は優しい緑色だった。

「ワタクシは癒しの女神ファンティ。グリーンさん大変でしたね」

「女神様?」

女神と名乗った麗しい女性は、優しくぼくに微笑みかける。

「ぼくを見ていたの?」

神様に会うなんて・・ぼくは死ぬのだろうか?
でも不思議と怖くは無かった。

「ええ、村を出た時からずっと・・そんな貴方にスキルを授けましょう。きっと役に立ちますよ」

淡い光の球《たま》が飛んできて、ぼくの体にすっと吸い込まれていく。

「使い方は・・その時に自然と分かるでしょう。くじけないで、頑張るのですよ」

ぼくは目が覚めた。ステンドグラスから光が差していて、もう朝の様だった。

教会の入口の扉が開かれて、外からの光が差し込んでくる。
誰か来たようだ。

「あら、どちら様ですか?」

訪れたのは青い修道服を身にまとった、教会のシスターだった。ぼくはこれまでの事情をシスターに説明する。

「それは・・大変でしたね。粗末なもので良ければ、食べ物を差し上げますよ。困ったときはお互い様ですからね」

シスターは笑顔で、ぼくを受け入れてくれた。
取り合えずぼくは、泊まる場所を確保できたようだ。

助けてくれたシスターはアリスと名乗った。
修道服で体形が隠れているが、細くて背が低くて幼い印象だ。17歳だと言っていた。

「助かりました~高いところが届かなくて・・」

「アリスさんはキレイ好きなんですね」

ぼくは泊めてもらったお礼に掃除を手伝っていた。天井の隅にはったクモの巣をホウキで取り除く。届かないならしなくていいのでは・・とも思ったけど。言わずに黙っておく。

次に教会の裏に出ると、畑が広がっていた。他に薬草と思われるものが植わっているようだ。

「手伝ってもらえると非常に助かります~」

アリスさんと一緒に、土に埋まっているイモを掘り出す。地味に大変な作業だ。
取ったイモは食卓に並べるらしい。そういえばアリスさん以外、人を見かけない。
もしかしていつも一人でやっているのだろうか?

「他に人はいないんですか?」

「以前は数人いましたが・・まあ、地味なお仕事ですしね。意外と大変だと分かるとすぐ辞めてしまって・・」

俯《うつむ》いて答えるアリス。教会は寄付金だけだとやはり生活が苦しいみたいだ。
強い突風が吹き荒れた。アリスの頭にかぶさった布が取り払われる。
金色の髪がさらさらと風で揺れ、ダークグリーンの瞳がよく見えた。

「女神様?」

髪の色と瞳の色が女神さまと同じに見えた。それと雰囲気が少し似ていたから。

「な、何をいってるのですか?そんな訳ないじゃないですか」

アリスは顔を赤くした。

「ご、ごめんなさい?夢に見た女神さまと似ていたから・・」


「そうだったのですね。夢で女神さまにお会いしたと、金髪はこの町では割と普通ですよ。急にそんなこと言い出すから驚きました」

女神に会った夢は荒唐無稽《こうとうむけい》だと思ったので黙っていたのだ。

「スキルですか・・ファンティ様は癒しの女神様ですから・・おそらく、癒し系のスキルでしょうか」

教会内で、椅子に座り話をしているとバン!と扉が開かれた。

「た、助けてくれ・・教会では治療をしてくれるんだろ・・」

入口には皮の鎧を着た青年が、壁に寄りかかっている。見ると流血がひどいようだ。
青年はずるずるとその場に倒れてしまった。

「大変!急いで手当しないと・・グリーンさん私、準備をしてきますから彼を見ていてください」

アリスが慌てて奥の部屋に入っていった。

ぼくは自分の手を見た。スキルが癒しの力ならもしかして・・。
ぼくは試しに、青年の右肩の怪我の部分に両手をかざしてみる。
すると、頭から言葉が紡《つむ》ぎだされた。

『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』

手のひらから淡い光が放たれて、青年の傷がみるみる塞《ふさ》がっていく。酷い傷は見た目は治ったようだった。ぼくは急に脱力感に襲われて床にへたりこんだ。

パタパタと、薬箱を抱えてアリスが戻ってきた。

「これから、応急の手当てをしますねって・・あれ?」

アリスは、床に座り込んでいるぼくと青年を交互に見る。

「もしかして何かしました?」

「多分、しちゃいました」

ぼくは、とんでもないスキルを手に入れてしまったみたいだった。


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