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「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第二話

この世界は回復魔法を使える人が少ないらしい。
聞いたところによると、数人の冒険者か王城か大聖堂くらいだそうだ。
だから通常は、怪我を治すのに薬草か値段の高いポーションを飲むしかない。
教会は裏庭で薬草を育てていて、緊急の時は治療をするらしい。
応急手当みたいな感じらしいけど。なので、ぼくのスキルはかなり貴重だった。

「回復魔法を使えたんですね。驚きました」

「先ほど話してた女神さまのスキルですよ。使ったのは初めてですからね」

「お金取りましょう!」

「はい?」

かくして、ぼくは教会で回復魔法を使って治療をする事になった。

「お金を稼いだ方が豊かになれますよ?」

「確かに・・そうですけど・・」

意外と、アリスさんは物欲主義みたいだ。
アリスさんはぼくの持っていた、聖職者のイメージとだいぶかけ離れていて、質素で慎んで生活してるとばかり思っていたのだ。ぼくの驚いた顔を見て、アリスさんは言った。

「そんな顔しないでください。私も一人の人間なのですから。たまには美味しい物を食べたいんです」

思い込みで人を判断するのは、良くないなと少し反省した。
それにしても、魔法を急に使えるようになったのには驚いた。多分、無尽蔵に使えるわけじゃない気がする。どのくらい使えるのかな?と思っていたら言葉が下りて来た。

「ステータス?」

目の前に文字が表れた。

グリーン 15歳 女神からスキルを貰った人族
スキル 回復魔法 初級レベル1
魔法 ヒール(5)
HP45/50
MP25/30

ヒールが回復魔法の名前らしい。後ろの数字は消費する魔力かな?魔力の量が決まっているみたいだ。他の文字の意味はよく分からないけど・・。

「どうしたんですか?空中を見つめて・・」

「えと、一日5人くらいしか診れないと思う。やりすぎると倒れちゃうかもだし」

「そうなんですね・・」

アリスさんはがっかりしているみたいだ。5人じゃ大した人数でもないし。
お金は一体いくらに設定するのだろう?

「銀貨2枚で。5人治療すれば、10枚になりますね」

銀貨二枚か・・安くは無いけど出せない金額ではない。妥当かもしれないな。

「重傷は断った方が良いかもしれないですね。治せないと困りますからね」

「え?でも、さっきの方けっこう重症でしたけど?」

あれ?そうだったのか?普段怪我人なんて見ないものな。
アリスさんは普段から見慣れているのかもしれない。
限界まで魔法使っても大丈夫かな?一回でだるい感じだけど。

「お金が入ったら、あそこと、ここと修理できますね~」

アリスさんはお金の使い道を考えているみたいだ。だいぶ資金難な教会みたいだな。

「あれ?ぼくの取り分は・・」

「・・えっと、半分こしましょう。つまり銀貨1枚で」

主導権はアリスさんに握られているようだ。
まあでも悪い話ではない。
着の身着のまま出てきてしまったせいで、お金を持っていなかったから。少し稼いでお金を貯めておいた方が良いだろう。

次の日教会の前に看板を立てた。
『怪我した方、回復魔法でキレイに治療いたします』
『一日5名様まで(銀貨2枚)』

「こんなのでお客様くるのかな?」

「多分大丈夫ですよ」

看板に気が付いた人が、立ち止まり読んでいく。数人が看板の前で話をしていたようだ。その後、去ってしまったが。

「まあ、そうそう怪我してる人なんていないよね」

そう思っていたら、教会の扉が開いた。エプロンをした小太りの女性が現れる。

「怪我人を治してくれるって本当かい?数日前、屋根から落っこちて大けがした人がいるんだけど」

「「はい。大丈夫です」」

「もしかして動けなくて寝てたりしていますか?」

「そうなんだよ。動けなくて困っていて、是非家に来てほしくて・・」

ぼくとアリスは、エプロンを着た女性に付いて行くことになった。
念のため薬箱も持って行くことにした。

町を歩くこと数分、一軒の家に着いた。家の中に通されたので様子を見ることにした。一応手当はされているみたいだ。

「家の主人です。随分と痛がっていて・・」

ベッドに筋肉質の男性が横たわっていた。寝ているようだ。
足を折っているみたいだけど、魔法で治せるのかな?
足に両手をかざすとまた、頭に言葉が浮かんできた。
ぼくは唱える。

『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』

淡い光が足を包み込んだ。

「わあ~」

アリスさんが感嘆の声を発した。

「初めて見ました。回復魔法ってキラキラしているんですね」

「え?シスター?初めてって・・」

ぼくはエプロンの女性に言った。

「包帯を外してみてください」

「は、はい」

女性は男性の足に巻かれた包帯を外していく。

「おおこれは凄い!元通りだね。有難うございます」

女性はぼくに、お辞儀して感謝していた。

「一応しばらく様子見てくださいね」

「では、これでお願いします」

女性が、ぼくにお金を渡してきた。銀貨3枚だ。一枚多い。

「ちょっと多くないですか」

「あたしの気持ちなので受け取ってくださいな」

一枚返そうとしたが、断られてしまった。


帰り道、体が少しふらついた。慣れるまでこんな感じだろうか?

「大丈夫?もしかして魔法を使ったせいで?」

「少し、体がだるくなるんですよ。昨日もそんな感じでした」

「そうだったんですね。良い事ばかりではありませんよね。言ってくれれば良かったのに」

「少し休めば良くなりますから・・」

「無理しないで下さいね。体調悪かったら中止にしていいですから」

アリスさんはぼくを支えて、一緒に歩いてくれる。ほんのりと花のいい香りがした。人の役に立つって良いものだな。体はだるかったけど、心は充実していた。

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