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「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第八話

明日には町に帰れることになった。今日は城下町レーベンに、ぼくとアリスとパトリシアが来ていた。パトリシアは普段外に出られないらしくて、最後の日くらいは、ぼく達と一緒に過ごしたいと無理を言って出てきたのだ。

「人が沢山いますわね~」

パトリシアは、街の様子が新鮮に見えるらしく興味深く眺めている。露店から、香ばしい良いにおいが漂ってきた。焼き菓子が売っているようだ。因みに、パトリシアは町娘に変装していた。

「あれ、食べたいですわ!ねえ、買ってきてくださらない?」

「じゃあ、一緒に食べましょうか」

ぼくは、頼まれてお店に買いに行った。他にも沢山のお店が並んでいて大勢の人で賑わっている。焼きあがるのを待って、丸い焼き菓子を三つ買って元の場所に戻ってきた。

**

「アリス?え、大丈夫??」

先ほどまでいた場所にアリスが倒れていた。具合が悪くなって倒れたのかと思っていたけど、寝てしまっただけの様だった。

「あ、あれどうしたんだろ私・・。あ、王女が連れて行かれそうになって邪魔しようとしたら眠くなって・・光っていたから、もしかして魔法かしら」

どうやら王女は連れ去られたらしい。

「アリスは念のため城に戻ってて!ぼくが探すから」

「多分あっちの方角に行ったと思うわ」

ぼくは血の気が引いた。ロイドさんは一体どうしたんだ?離れて見守っているはずだけど・・。考えている暇はない。とにかく急がないと!ぼくはアリスが指さした方向へ走りだした。


「ねえ、なにしてるの?」

俺は小さい男の子に話しかけられていた。家の外壁に立って、姫様を見ている俺を疑問に思ったのかそれとも暇だから話しかけたのか。

「仕事中だから、構わないでくれないか」

「?」

子供は苦手なんだよな。どうしたものか・・。ふと視線を戻すと、アリスがある方向を指さして、グリーンに何か話していた。王女はいなくなっていた。

「しまった!ぼうず、またな」

俺はアリスが指さした方向へ走り出した。一瞬のうちに攫《さら》われてしまったらしい。首都は人が多く、監視しているのが難しい。もう少し近くにいるべきだったか。町で人さらいがいるとは聞いていたが・・。変装をしていても、雰囲気は町娘とは違うからやはり目立っていたのだろう。

大きな麻袋を抱えた男性が視界に入る。不審に思われないように袋の中に入れたのだろう。狭い路地に入り、一軒の小屋の前に立った。男はノックしてドアを開けてもらい、中に入っていった。

「ロイドさん、いましたか」

「グリーンか、あそこの小屋だ」

そこは荒れ果てた廃屋に見えた。俺とグリーンは数メートル離れた場所から様子を伺っていた。

「ぼくが行きますから、その隙《すき》に助け出してください」

「それはだめだ、危険すぎる」

グリーンが、行こうとするので両手で肩を抑える。

「ぼくだから、相手も油断するし・・いざとなったら、回復魔法使えるから大丈夫ですよ」

俺の手を振り払い、グリーンは廃屋へと向かっていった。


ぼくの責任だ。一緒に露店まで行くこともできたはずだ。何故目を離してしまったのだろう。何とかしなくちゃ。追いかけたら、直ぐにロイドさんを見つけた。どうやら小屋の中にいるらしい。

「ぼくが行きますから、その隙に助け出してください」

自然と言葉が口をついて出た。怖くないと言ったら嘘になる。ぼくは力は無いけど、ロイドさんなら助けられるだろうから。

「ぼくだから、相手も油断するし・・いざとなったら、回復魔法使えるから大丈夫ですよ」

ぼくは弱い。だから相手も油断するはず。ロイドさんに止められたが、ロイドさんの手を振り払った。大丈夫。きっと上手くいく。

コンコン
ドアをノックした。

「あの~すみません。ちょっといいですか?」

ギイー

「何だ?今取り込み中だ。後にしろ」

ドアが開かれ、禿げた大男が出てきた。直ぐに男はドアを閉めようとする、ドアの隙間にぼくは足を引っ掻ける。

「何の真似だ?」

ギロリと睨まれる。

「商品を是非買っていただきたくて・・」

「はあ?商品だ?何もねえじゃねえか」

ガシャン!

小屋の窓ガラスが割れた。

「誰だ?」

「「どけ!」」

ぼくは突き飛ばされて、尻もちをついた。小屋の中から数人の男が出てきた。禿げた大男も外にいる。全部で3人のようだ。

「誰もいねえ。どうなっているんだ」

ぼくはその隙に小屋に入り込んだ。わらの上に少女がいた。パトリシアだ。気を失っているらしい。

「おい!お前何してる!」

ぼくは直ぐに禿げた大男に捕まった。腹を殴られるが、あれ痛くない?

「痛ってー。お前、何か体に仕込んでいるのか・・」

「いいえ?何も?」

今度は顔を殴られた。痛くない。これはあれかな。ステータスに記載されてた。防御魔法 障壁ってやつ。ダメージを受けないのかもしれない。

「何、無視してんだ!」

考え事をしてたら無視をしていると思われたようで、男は顔が真っ赤になっている。
ぼくは、男の急所を思い切り蹴とばした。たまらず大男はぼくから手を離した。相手が動けなくなっている隙に姫様を抱えて持ち上げる。

**

外ではロイドが男を二人倒していた。男たちは気絶しているようだ。

「え・・グリーン?」

ロイドが間抜けな声を出した。

「俺が突撃しようと思っていたのに・・助け出せたのか」

「んんん・・」

パトリシアが目を覚ました。

「姫様!」
「パトリシア!」

「あれ?ここは?わたくしどうしてここに・・」

「城に帰りましょう。グリーン、念のため回復魔法をお願いします」

『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』

手から淡い光があふれ出し、パトリシアの体を包み込んだ。ヒールという魔法は、怪我以外に体力回復の効果もあるみたいだった。人を運ぶのは意外に重くて、ぼくは自分にヒールをかけながらお姫様を抱えて行った。

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