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「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第十四話

「私も覚悟を決めないといけないわ!」

アリスは教会の中で決意をしていた。このままではグリーンがシルビアっていう女に取られてしまうかもしれない。グリーンは優しいから、突き放すことは出来ないだろう。一日中シルビアはグリーンと二人きりなのだ。しかも肝心のグリーンはシルビアの気持ちに全く気が付いていない。

「優しすぎるのも問題なのよね~そこが良いところなのだけど」

教会は珍しく信者さんがお祈りに来ていて、ファンティ様の像の前で跪《ひざまず》いていた。

「シスターどうかしましたか?」

思わず私が呟いてしまった言葉に反応し、女性の信者さんに心配をされた。今は教会の事に集中しないと。ああ、でも気になる!どうしたらいいのだろう。

「ファンティ様私は、どうしたらいいのでしょうか・・」

私も女神さまに祈りを捧げていた。

**

「そんなに心配なら、辞めちゃえば?」

結局私はマリリアに相談したのだが、身もふたもない事をマリリアに言われた。仕事帰り、近くのカフェでカウンター席に座って私は果実水を飲んでいる。隣のマリリアはお酒みたいだけど。

「別に、他の人が教会の事をすれば良いわけで、アリスは辞めても良いと思うよ?・・それともどうしても辞めたくない理由があったりする?」

「・・そうよね。私が辞めても他の人がやればいいのよね!ありがとマリリア、迷いが吹っ切れたわ」

私は早速、教会の本部に手紙を書くことにした。


数日後――。

「教会、辞めてきた」
「はい?」

診察中、アリスが診療所に来た。修道服ではない普段着だ。昼間なのでまだ教会でお仕事をしているはずなんだけど。

「教会辞めてきた。私も雇ってもらえない?」

アリスはニコニコしているが笑顔が怖い。シルビアさんと睨みあっている。火花が散っている気がするが・・気のせいと思いたい。

「えええ~~折角二人きりになれたのに・・あたしにも、少しくらい分けてもらっても良いじゃないですか」

「シルビアさん、そちらの方の治療お願いします」

「はーい」

ぼくは、とにかく目の前の怪我人を治療することに専念することにした。

**

「アリス、どういう事かな?説明してもらえると助かるんだけど」

治療所の奥の休憩室。お昼休憩の時間。シルビアさんには席を外してもらっていた。ぼくとアリスは長椅子で合い向かいに座っている。

「私、グリーンの事好きなの。そしたら、いてもたってもいられなくなっちゃって・・変だよね。教会も辞めてきちゃうなんて」

「そ、そうだったんだ・・・来るなら、前もって言っておいてもらった方が良かったかもね」

急に言われて驚いた。アリスってぼくの事好きだったんだ。嫌われているとは思っていなかったけど。

「あれ?でもアリス、君って住み込みじゃなかったっけ?泊まるところどうするの?」

「あ~うん。何とかなるかなって、取り合えず宿屋に泊まろうかな・・」

「よかったらここ泊まれば?部屋空いてるし。二階が居住スペースなんだ」

「え?いいの?」

今日からアリスがぼくの家に住むことになった。今までずっとぼくは教会に住まわせてもらっていたから、本当に軽い気持ちで提案したのだけど。


開店前の時間、ぼくはアリスと、シルビアさんに聞いてみた。

「お店の名前どうしようか。今更だけど」

「そういえば、決まっていませんね」

「グリーン治療院っていうのはどう?わかりやすいと思うわ」

アリスは観葉植物に水をあげていた。

「それ、そのまんまじゃ・・」

アリスはここで一緒に働くことになった。軽い怪我や体力回復などはシルビアさんが、大怪我はぼくが担当することになった。最近お客さんが増えてきたこともあり、アリスは待っているお客さんにお茶を出したりしている。お会計もアリスが担当だ。

最初アリスが来たときはどうしようかと思ったけど、今では来てくれて良かったと思っている。毎朝植物に水をあげているアリスにぼくは、思わず見惚れていた。

**

「あれ、シスター最近見かけないと思ったらこっちに来ていたんだねぇ」

待合所の椅子に座っているお婆さんが、アリスに声をかけた。

「すみません。教会は辞めてしまいまして、こちらでお手伝いすることになりました」

アリスはお婆さんにお茶を渡していた。

「夫婦水入らずでお仕事か。いいねぇ」

白髪交じりの中年男性が笑いながら言う。

「ち、違いますよ」

ぼくは慌てて否定した。夫婦って言われると何だか恥ずかしい。恋人でもないのに。ぼくとアリスは顔を赤くしていた。でも何だか悪い気がしない。
シルビアは杖を持ち、中年男性の足に必死に回復魔法をかけていた。

「グリーンさん、終了です・・」

「あれ、魔力尽きちゃったか。じゃあ奥で休んでいてね」

普通の人はあまり魔力量が無いらしい。ぼくの魔力量は一般の人よりも多いらしいとシルビアさんが言っていた。魔力が尽きると怠くなるし、酷くなると頭痛がしたりする。シルビアさんは奥のベッドで休んでいた。見た感じ5人くらいヒールをかけると限界みたいだった。

「私も以前は、回復魔法いいな~って思ってたけど意外と大変なのねえ」

アリスはシルビアさんにお茶を持って行った。最近は仲良くやっているようだ。町では魔力回復用のポーションが売っているらしい。飲むと少しは体調が楽になるかもしれない。値段が高いのでそれほど買えないものだけど。念のため数本買っておくかな。

「値上げもしないとなんだよね。いつからにしようか・・」

色々決めなきゃいけないことがあった。お店の名前と、値上げすることと、お店のレイアウト・・使いやすいように配置を考えないと・・。

**

「ここだよ。グリーン治療院は」

いつの間にかお店が、町の名物の様になっていた。人々が物珍しそうに店の外観を見て行く。普通のお店なんだけど如何してなんだろう。最初は人が集まってくるから驚いていたけど、最近では慣れてきた。

お店の名前を決めようとしていたら、お客さまが言っていた「グリーンの治療する治療院」が縮まって、「グリーン治療院」と呼ばれるようになってしまった。

「別にいいじゃない。グリーン治療院でも。分かりやすいし」

「そっか、それもそうだね」

親しみやすい名前ならそれでもいいか。結局アリスが考えた名前が定着しちゃったな。


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