SCP-511-JP「けりよ」及び「しんに」を考察する - あちら/こちらと尾を相食む蛇

今朝、SCP-511-JPの話が出て、改めて興味が出たので熟読・考察してみたわけです。や、実は結構前に読んではいたんですけど、「よくわからん」で終わってたので…
あ、この記事ですが、有料部分はありません。

一応説明するのですが、SCPっていうのはSCP Foundation(SCP財団)、SCPオブジェクト=自然法則に反した存在・物品・場所を取り扱う架空組織の名称であり、サイトの体裁を取った「オープンソースの都市伝説創作コミュニティ」です。「財団による、SCPについてのナンバリングされた報告書(記事)」「それにまつわる物語(Tale)」などで構成される。ここで説明してもおそらく煩わしいので、Wikipediaなどを読んで欲しい。

で、問題のSCP-511-JP。511はオブジェクトナンバー、「JP」は日本支部を意味する。日本支部のオブジェクトで有名なやつだと、「それ」を見た人間の認識を「ねこという存在(猫ではない)に監視されている」かのように改変し、同様の状態を感染(ミーム汚染)させる「ねこですよろしくおねがいします(SCP-040-JP)」などがある。

日本支部は日本支部あってジャパニーズホラー的な作品が多く、SCP-511-JPもまた、かなりそういった雰囲気を纏っている(同作者のSCPでは、Tale「無縁」、掲示板書き込みの体を取った「てうぷく」などがある。)「1993年7月22日に福岡県鞍手郡の民家で見つかったビデオテープ(住んでいた一家は失踪)」というものです。ビデオテープの異常性についての記述(見た人間が精神に異常をきたす)、そしてビデオテープに記録された映像・音声についての記述、音声ファイル、ビデオテープに添付されたヘタクソな手描きの文書(方言)、「福岡県鞍手郡(実在)」の民俗誌の抜粋、という内容で構成される。

そして、「オブジェクトにまつわる物語」として、「しんに」というTaleが投稿されている。こちらは最後までスクロールするとちょっとびっくりする画像が添付されているので注意。

ここから考察。

このビデオテープの記録は現実なのか?

なんとなく記事を読むと、ビデオテープの内容が漫然と頭に入ってきて居心地の悪い恐怖感を残す記事ですが、ビデオテープについてのタイムスタンプと、その他データをよくよく考察すると、おかしなことに気づく。

1989年 桜吹雪の映像(映っているのは真昼。AM13:50というおかしなタイムスタンプ)。ランドセルを背負った笑顔の少女。小学校入学?

1993年 母子の情景。皮田結名8歳の誕生日。一家失踪。皮田娘失踪当時8歳

1989年に小学校入学(6歳くらい?)で、1993年に8歳。ここ、時系列がなんだかおかしい。AM13:50とはいったい。

で、SCP-511-JPは「一家失踪した民家に残されていたビデオテープ」であるわけですが、記事には「一家」に存在するはずの父親が出て来ません。一方で、Taleの「しんに」には妻を失った剃頭の神主が出てきます。これはいったいどういうことなのか。考えてみたのですが、「ビデオテープの内容は封印された山神(≒皮田結名)の記憶」と捉えるのが自然なのではないか。

最初は神主が山神かと思ったんだれど、「しんに」の最後の画像を見るに、どうやら厳密には違うのではという気がしてきました。山神(≒皮田結名)で、神主=山神でもありうる、というのはどういうことか。

音声記録(ファイルタイトル:きご。忌語?)について

https://s.easyuploader.app/20210326173657_54303263.wav
発音が逆再生っぽかったので逆再生して速度を上げてみたのですが、「かわた」って言ってる気がする。他になんかあったら教えてください。

そのほかファイルタイトルについて

1. 一枚目の画像のタイトル(人形の首と何か):「じょうじゅうえくう」
成住壊空。色即是空と似たような意味。

2. 二枚目のランドセル画像のタイトル:「ごくわっく」
業惑苦。煩悩の原因である貪欲・瞋恚・愚痴の三惑と,その惑のゆえに生じる宿業(いわゆるカルマ),その業の報いとしての苦しみのサイクルを差す。これによって人間の輪廻転生が生じる。

3. 三枚目の手書き文書:「ふあん」
不安。安らかでないの意。浄土(=ここでは異界)に対する現世?
内容はたぶんこう

「いつも怒っていたのはあちらのことだったのに、そういって文句ばかり言うのは良くない。結局はかわたのゆなが犯された、腐ったと喚き散らして(以下二重傍線)なんで(ここまで)(書き損じ?)でも此方にくるのでしかたないと思う」

ここでのかわたのゆなですが、皮田娘ではなく「カワタ(被差別民)」の湯女、つまり、「こちら」=村落側に差し出された皮田シズを差すのではないか。

4. Taleのタイトル「しんに」
「ごくわっく」ときているので、「心のままにならないことへの怒り」を意味する「瞋恚」。ごくわっく、つまり三惑のひとつ。

5.「しんに」の添付画像一枚目、「のろい」
「のろい」はおそらく、そのまま「呪い」。ちょっと頑張って諦めたのですが、急急如律令(密教・陰陽道系の定番ワード、何かしらを使役する際に「はやくしろとにかくやれ」って意味)ってあるので、誰かに何かしら強制する内容なのだと思われる。
おそらく架空の漢字が使われていて(月編に朋など)、月編がたくさんあるので、番い(妻)の隠喩、この呪符によって呪詛=山神を捕らえる、現世に縛り付けるための呪術的な婚姻を成立させているのかな? って思ったけど、違うかもしれない。

ちなみに画像二枚目のタイトルは「しんに」。笑ってるけどキレてるっぽい。まぁソースコードに〇ねって書いてあるからな… とにかく怒ってるんだろうな…

皮田一家(?)に何があったのか

被差別民の娘シズは、山神を封じる儀式のために村落側の男に差し出され、流産。「水子地蔵を穢す」は不明だが、「賽の河原(=彼岸との境界)で水子地蔵を犯す」儀式によって異界の存在となった。ここで「皮田シズと娘の結名が睦まじく暮らす異界(A)」と、「剃髪の男が妻を失った時空(B)」が生まれる。ビデオテープに収録=封印されているのは前者、現実世界はおそらく後者。

1993年、シズは山神を封じるために、剃髪の男は失った妻を取り戻すためにそれぞれ儀式(ビデオ内の「引っ越し」「葬式」、Taleにおける取返歌の儀式)を行う。これによって時空Aと時空Bが接続されるが、何らかの理由で輪が断絶し、「山神」は封じられ、母子の記憶はビデオテープの中だけに残された。

『8』は輪の完全性を表す寓意で、実年齢ではない。SCP-511-JPの内容はすべて現実ではなく、桜吹雪でランドセルを背負ってほほ笑む皮田結名と、皮田シズの会話シーンは、丑三つ時に皮田結名が「現れた」瞬間を表すものなのではないか。

剃髪の神主は誰か?

ちょっとはっきり言えないんだけど(ていうか、この記事、「はっきり言える」部分は何ひとつないけど……)、山神は伝承によっては夫婦神とされている。「こちら/あちら」の寓意から推測すると、シズを娶り、死別した村落の男(画像ファイル「ふあん」の書き手)もまた、山神の一部となっているのではないか。
最初は封印された山神かなとも考えたんだけど、SCP-511-JPの記述の不自然な点として、「皮田一家」の父親が消えている。でも、ビデオにはどうやら「父親っぽい人物」が出てくる(「布団に寝かされ、目と口を大きく開いて笑う成人男性」)。

「あがんみまけばたまよびするにゃ、けりよけりよとつんぼがみ」
彼の御霊を魂呼びするなら、帰依帰依と聾神
あんなやつを魂呼びするな、かえれかえれと(同上)

亡き妻を呼ぶ儀式に「帰依」した結果、男は異界の存在となった。
ビデオテープの「ふあん」を見る感じ、皮田夫婦(夫婦なのか?)って良好な関係ではなさそうで(どうも強制性交-流産的な様相が見える)、ロクデナシ扱いされてるのは夫のほうではないかみたいな類推も生じる。皮田父は「水子地蔵を穢した」ことにより、悲嘆に誘きよせられた山神に呪われ、親子団欒からハブられた?
皮田父の行いは被差別民の扱いによるものか、儀式の一環だったかは定かでないけれど、記事内の記述における夫婦仲が良好だったというのは錯誤なのであろうと思われる。

この人間関係の不和、断絶、一度むりやり繋げられた輪が破綻している(鏡は背を向けられ、注連縄は焼き切られている)状況が「封印」として機能しているのかなと。
なので、ビデオテープの母子団欒に父親は出てこない。だが、呪われた父親も既に現世の存在ではないため、布団に寝かせられた男は「目を見開いて」わらっている。

村落側の仕打ちとしてはさあ来いー来いー来いー来いー来いー来いー来いー(穢された水子地蔵たち)こっち来んな(通路爆破)! しかも自分を呼んだママは悲惨な目に合わされていて憤懣やるかたない、みたいな感じでしょうか。残酷か。そりゃ山神様も笑顔でキレる。

成住壊空、生々流転、ウロボロス、その破綻

現実世界においては皮田一家の「一家失踪」の事実のみが記録として残されており(そして父親はどうやら生存しているが、人々の一般的な認識世界からは消えて境界の住民になっている)、幽世の事象の記録であるところのビデオテープは、見てしまったら精神に変調を来す。周辺の事象に接触した(ex.「しんに」の語り手)も異界の侵食を受けるらしい。

山神は、現世において、皮田シズ-村落の男(神主)夫婦、境界存在である片目の皮田結名の記録として残る(あるいは、記録された皮田結名という存在が「山神の痕跡」のようなものであり、実在していないのかもしれない)。その本質的な危険性は消えていないが、降ろされた山神が封印されたことで、ビデオテープの存在や皮田一家の失踪はいっけんすると無害(safe)な情報としてSCPの作中世界に残されている。……というのが、SCP-511-JPにまつわるおおまかなストーリーなのかなと思う。

オカルトや民俗学分野で有名な話として、「人間の片目を傷つけ神へ供することで、『神の使い』となる」という柳田邦男の学説がある。「かたわ」が山=神の世界と人の世界の世界の境界存在である、というモチーフは、最近のエンタメ作品だと「虚構推理」などで扱われている。まぁ、一足一眼の琴子ちゃんはどっちかってゆーとヒーローですが。アニメ一期終わっちゃったけど原作安定して面白いのでみんな読んで。


皮田結名は片目で満面の笑みを受かべている。

このSCPIP、一次資料とされるもののコラージュで構成された内容、非現実世界の描写、円環のモチーフなどなど、全体的にゲーム「SIREN」を思い出したりなどします(あれのモチーフは密教ではなく、隠れキリシタンだけど…)。
自分、実はビックリさせられても宗教要素が出てくると一気に怖くなくなっちゃうタイプだったりするので、人間しがらみファンタジーとして面白いなと感じました。拙者、人間しがらみファンタジーが大好き侍に候。いや、すごいです。えもい。

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