蝉が見ていた

失って、時間をかけてゆっくりと散る葉の姿を見ました 夏に


髪を梳き、とくに誰にも知られずに突っ立って沢庵を齧りつ


イヤホンのうねり 一緒にいるというのでもなく石となって黙って


火と水と金銭と夜 こうやってたしかにつながっているいつまで


如月に人はやさしい名を寄越しぬどうとでもなるひろごりの夜


君が身につけた笑まいの遠く何連のふるき物語とひびかう


白雪をはつか乱して人は去るしりとりの続きなんかを追って


何もなくてストローの袋を栞に 思いの骨なような気もして



(かばん2018年10月号より)

#短歌

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