かばん2019年4月号より

表情を一枚めくり手づかみにしないよう揺する給湯室

藤本玲未


ウィスパーをふつうの声よりよく拾う髪には小さじ1くらいの酢を

杉本モナミ


水色と青は混じりて清流に流るる儘の鳥の色かな

吉川満


また鍵を失くしてたたずむ踊り場でさらに何かがなくなってゆく

小川ちとせ


何を見て生きるか上げたスカートの足 雪の中冷たく映る

鈴木智子


行列は無音のうちにはじまって昼間は川のにおいがうすい

沢茱萸


なぜそれが淋しかったか分からずに夜の乳房に抱かれにゆく

河野瑤


だれひとり殺さない驟雨のなかにただ立たされている花の役

山下一路


平成が終はる わたしは排水口まはりの羽を拾ひつづけて

飯島章友


鳥籠をもって私に会いにきたすべてのお客さまに仕える

よろしくとお願いされて生きている昭和末期の日本語でした

藤本優実


まっとうな雪を見ている 睫毛にはやさしい角度でふれる約束

高橋彩


神の不在に気付きつるつるとした壁を拝んで帰る厚底

どうぶつとぶどう


限りなき波間で語る子どもたち 遠くと近くわからないまま

松山悠



体調の悪いときに印をつけた歌。このあといらいらしながら別の歌集を読んだら(いらいらしていたのはこちらの話で、ここに書いていることと関係ない)、頭に入ってくる/入ってこないその感じが、自分が平常心のときとちょっと違う感じがした。短歌の短さは読むのが難しくて、かんたんに読み飛ばしてしまう。修行のよう。

4月号は新入会員の方がたくさん。言いたいこと、書きたかったことが何となく分かり、自分のことばの組み立て方に絡み付いてくるようなところや、何か出てしまったなまなましさを感じるようなところ、そういう感覚とコンスタントに出会えることは貴重なことなんだなと思った。

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