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クリーン・エネルギー~“原子力”は夢だった

10年前に書いたホンです。
どうでしょうか? 
 
 

No.01 寺であずかる

 

朝。

幼稚園。

智美が走って出勤して来る。
智美は、24歳の幼稚園教諭。
 

教務員室。

智美「遅くなってスミマセン。
今日なんか静かねー。
近所の子供たち、まだ来てないの? 徒歩で来る子たち」

先生たち「今日から、休園になったの!」

智美「え! ちょっとなんで? 
園長先生、来てらっしゃる?」

先生たち「来てるわよ!」

智美「園長室まで、行って来る!」
 

園長室。

智美「園長せんせい、今日から休園って本当ですか?」

園長「本当だ。
原発の30キロ圏内に入っていることが、今日、分かったんだ。
あと100メートルのことだったんだがな」

智美「閉園ですか?」

園長「残念なことだが、閉園だ」

智美「子供たちは、どこで遊べばいいんですか?! 
どこで、お絵描きすればいいんですか?! 
どこで――」

智美、少し泣いている。

園長「兄の寺が、市内にあるので、しばらくそこで、子供たちをあずかろうと思っているんだが……。
幸い、バスも2台あることだし――」

智美「ホントですか?! 
はぁー、良かった!!」
 

幼稚園。園庭。
幼稚園児、10人が集まって来る。

啓一「いっ、せーの」
園児たち「たかさか幼稚園!」

No.02 ドライバーをもう一人

 

朝。

幼稚園。

園長室。

園長「ドライバーがもう一人、必要だな」
と独り言を言う。
 

教務員室。

先生たち「園長先生が、ドライバーを探しているんだって」

智美「だったら、ちょうどいい人がいます」
 

園長室。

智美「佐野さんです」

園長「智美先生は、はずしてもらえませんか?」

智美「わかりました」

退室する智美。おじぎをする。
 

園長「10年間、無事故無違反というのは、本当ですか?」

佐野「ハイ」

園長「いろいろなところから、引く手あまたでは?」

佐野「子供が、好きなんです!」

園長「それなりの給与しか出せないけれども、それでもいいですか?」

佐野「かまいません」

園長「じゃあ、明日から来てもらえますか」
 

廊下。

退室する佐野。

智美「どうだった?」

右手の親指を突き出す佐野。

智美「やったァ!」
 

教務員室。

先生たち「あの人、うちへ来るの?」

智美「ハイ!(やった付き合ってやろう)」

先生たち「“ハイ”の後、何て言ったの?」

智美「何でも無いですよ」

先生たち「本当に合格なの?」

智美「ハイ!(ゆくゆくは結婚してやろう)」

先生たち「ハイの後、何て言ったの?」

智美「何でも無いです!」
 

幼稚園。園庭。
幼稚園児、10人が集まって来る。

啓一「いっ、せーの」
園児たち「たかさか幼稚園!」

No.03 園長の兄の寺で

 

朝。

園長の兄の寺。

お堂で、あばれまわる子供たち。

智美「みんな、後で、公園に連れてってあげるから、おとなしくして」

武史が興味深そうに木魚を見ている。

智美「武史くん、木魚の上に座っちゃダメ! 
座るものじゃなくて、叩くものなのよ!」

木魚を、頭で叩く武史。

武史「イタイよ!」

智美「そういう意味じゃないの! 武史くん」

園長先生が、お堂に、やって来る――。

智美「園長先生、どうしましょう? 
子供たち、お寺で遊んじゃいますよ!」

園長「まあ、しょうがないでしょう…」

智美「お兄さん、黙ってないんじゃないですか? 
遊ばせずに、拭き掃除でも、させましょうか?」

園長「智美先生、まあまあ、そう言わずに…。
公園へは、早めに連れて行ってあげてくださいね」

智美「はい。わかりました――。
園長先生、庭にプレハブでもいいから、教室を作ってあげません?」

園長「それがいい! 
そうしましょう! 
さっそく、明日から、プレハブ作りに取り掛かかることにしましょう!」
 

幼稚園。園庭。
幼稚園児、10人が集まって来る。

啓一「いっ、せーの」
園児たち「たかさか幼稚園!」

No.04 普通の子供たち

 

走る幼稚園のバス。
マイクロバスではない少し大型のバス。

朝9時。

車内。

園児は、まだ、誰も乗っていない。

運転手の佐野と同乗の智美しか乗っていない。

佐野「どこから、30km圏内?」

智美「ちょうど、あの信号からです」

佐野「迂回しよう!」

右へ曲がるバス――。

智美「道が分かるんですか?」

佐野「昨日、地図に目を通しておいたからネ!」

智美「1度、目を通しただけで、覚えられるんですか?」

佐野「これでも“プロ”だからネ。
1度、目を通せば分かるサ。
次を左だな」

左へ曲がるバス――。

智美「すごい、すごいですね、佐野さん!」

佐野「ありがとう、ございます」

智美「2分後に、1つ目の待合場所に着きます」

佐野「突然、言わせてもらうけれど、園児のみんなを、『被災地の子供』として育て上げたくはないネ」

智美「私も、そう思います。
特別視しない、普通の子供たちとして、育てたいと思います。
園長先生も、そうおっしゃっていました」

佐野「大賛成!!」

1つ目の待合場所に到着するバス。
園児たちが、待っている――。
 

幼稚園。園庭。
幼稚園児、10人が集まって来る。

啓一「いっ、せーの」
園児たち「たかさか幼稚園!」

No.05 地震

 

乗せる園児たち、
全員を乗せて走るバス。

突然、横揺れがする――。

バスが横滑りし、ガードレールに当たって止まる。

「わーわー、きゃーきゃー」
騒ぐ園児たち。

智美「みんな、静かにして。遊園地の乗り物じゃないのよ!」

圭子「啓一くんが、くちびる噛んで血が出てる!」

智美「口なんて、すぐ治るから大丈夫よ。
みんな、大丈夫ね?」

園児たち「は~い!」

啓一「ば~い!」

佐野「智美先生のケータイ、ツイッター、見られる?」

智美「見られます」

佐野「震度、確かめて」

智美「ハイ」

ケータイを操作する智美。

智美「震度5ですね」

佐野「余震があるかもしれないな。
しばらく動かずにいよう。
園長先生に、15分、遅れるって電話して!」

智美「震度5だから、20分のほうがいいのでは?」

佐野「そうだな。そう伝えて」

園長先生に電話する智美。
声は聞こえない――。

佐野「タイヤが気になるな。
大丈夫かな」

智美「佐野さん、まだ、外に出て確かめないほうがいいですよ。
まだ危険です」

佐野「それはそうなんだが…。
やっぱり、確かめてくる!」

佐野、バスの外へ出る。

タイヤを確かめる佐野――。
佐野「パンクはしていないな、と。
ただ、傷が大きいな!」

バスの中へ入る佐野。

佐野「智美先生、待つのはやめて、すぐに行くことにする。
タイヤの状態がギリギリだ!」

智美「余震があると、危ないですよ」

佐野「しょうがないんだ。
行く!」
 

幼稚園。園庭。
幼稚園児、10人が集まって来る。

啓一「いっ、せーの」
園児たち「たかさか幼稚園!」

No.06 動物園デート

 

朝。

日曜日。

動物園の入口の前。

智美が人を待っている。

智美「あ、来た! 
佐野さ~ん、こっち!」

佐野「あれ、俺たち、二人だけ? 
『遠足の下見』じゃなかったの?」

智美「スミマセン…。
私が、だましたんです。
今日、一日、付き合ってもらえますか?」

佐野「そういうことか! 
いいよ! 
さあ、何から見る?」

キリン園の前。

智美「佐野さん、“シャーク号”の乗務を希望してるって、本当ですか?」

ゾウ園の前。

佐野「本当さ」

さる園の前。

智美「“ジェット号”のほうが安全では? 
“マイクロバス”は、危険だと思います」

ライオン園の前。

佐野「子供たちのためを思って、あえて危険なほうを選んだんだ」

白くま園の前。

佐野「それよりも何よりも、園長先生が、俺たちと同じ考えで、良かった――」

爬虫類館の中。薄暗い――。
二人とも小声になっている。

智美「『被災地の子供』として、育て上げたくはないってことですか?」

佐野「そう」

売店の前。
二人、ソフトクリームを食べている――。

智美「私たち、デートしているのに、結局、園児たちの話ばかりしてる――」

また、動物園の前。

佐野「そうだね。
園児たちの話ばかりだね。
でも、それでいいんだよ!!」
 

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