オールスター・ブレイク

万年最下位チームの敏腕キャッチャー・兵頭卓磨が、
オールスター休み中に密室殺人事件を解決する。

オープニング曲には山下達郎さんの「ノスタルジア・オブ・アイランド(part1)」を! 

画面、"1"の大写し。スコアボードだ! 
ズームバックしていく。
先攻の得点は10点だと分かる。
大差をつけられて負けたのだ。
テロップ、流れて――。


Vol.1 球場内事件

野球場。前半戦最後の試合が終了する。

選手のロッカールーム。
選手A「また、卓磨さん、オールスターの代表、はずれたぜー」

選手B「まだ、セカンドにらくらく投げてるし、
    パ・リーグでは、ナンバーワン・キャッチャーだと思うんだけどな」

選手A「最下位チームのキャッチャーじゃなきゃ、絶対、選ばれてたぜ」

選手B「しっ、卓磨さん、来たぜ!」

選手A「卓磨さん、ナイス犠牲フライでした!」

卓磨「負ければ意味ないよ!」

シャワールーム。
シャワーを浴びている卓磨。
「前半戦、負け試合で終わったな。
 どうでもいいけど、アイツら、また俺の噂してたな」

ロッカールーム。
卓磨、着替えを終えていて、
「一平、いつまでグズグズしている、帰るぞ!」

一平、ロッカーの扉を閉めながら、
「はい」と返事をする。

廊下を、卓磨と一平が歩いている。

一平「卓磨さん、何か“叫び声”がしません?」

卓磨「するな。近くだな」

一平「この部屋ですネ」

卓磨「“助けてくれ”と言ってないか?」

一平「鍵が中から、かかってます!」

卓磨「守衛、呼んで来い!
   いなきゃ、鍵、奪って来い!」

一平「はい」と言って、走って行く。

卓磨、ドアの中へ向かって、
「大丈夫か? 今、ドアを開けてやるからな!」

一平が、守衛と走って来る。

一平「間に合いましたか?」

卓磨「遅い! たぶん、もう中で死んでる!
   一平、お前、一塁まで一体、何秒で走れるんだ?!」

守衛「間に合いませんでしたか――」

卓磨「警察と救急車、呼べ。
   ケータイくらい持ってるんだろ!」

一平「ハイ」

卓磨「サイレン、消して来てもらえよ。野球も『商売』だからな」


Vol.2 卓磨の推理

夜。

午前2時。
卓磨の自宅。かなり広いマンションである。

卓磨が、固定の電話をかける。

一平の部屋。ワンルームマンションである。
携帯を取る一平。

卓磨「夜遅く、悪いな。
   寝てたか?」

一平「いいえ。
   オールスター第一戦を録画してたのを観てました」

卓磨「今日は、食事にでも行ってたか?」

一平「その通りです」

卓磨「結婚するそうだな?」

一平「ハイ! 来年の1月に結婚します」

卓磨「おめでとう!」

一平「式には卓磨さんも呼びますよ!」

卓磨「ところで、
   前半戦の最終戦、お前、先発だったか?」

一平「違います。
   4回の裏に藤堂さんの代打で出ました……」

卓磨「その後、守ったか?」

一平「はい、試合終了まで“ショート”を守りました」

卓磨「分かった。
   じゃあな。
   フィアンセによろしく伝えてくれ」

電話を切る卓磨。

首をひねる一平。

朝。
洗面所。

ヒゲを剃る卓磨。
手を止めて、
「うーん」
と唸る。

夜。
風呂場。

浴槽につかる卓磨。
「うーん」
と唸る。

昼。
居間。

テレビを観る卓磨。
番組の途中でリモコンで切り、
「うーん」
と唸る。

卓磨「“一平”だ。
   一平のアリバイが、
   成立しない!」


Vol.3 競馬

電話する卓磨――。

卓磨「一平、明日の休みに競馬を見に行かないか?」

一平「いいですよ。
   何故そんなこと急に言ってくるのか、わかりませんけれど…」

卓磨「俺たちが、この時期、競馬を見れるのは、
   オールスターのときぐらいだろ!」

一平「なるほど」

競馬場。

卓磨「馬が走っているのを見るのは、いいな! 
   ストレス解消になる」

一平「そうですネ」

卓磨「最終レースだけ、賭けないか? 一平」

一平「賛成です。そうしましょう!」

最終レースが始まる。馬が、もう走っている――。

卓磨「勝ってくれー」

一平「勝ってくれー」

卓磨「頑張れー」

一平「頑張れー」

卓磨「ゴールだ!
   俺は、負けてしまった! 
   一平は、どうだった?」

一平「勝ちましたよ。
   ツイテますよ」

卓磨「そのままツイテるといいな、一平…」


Vol.4 コンタクト・レンズ

競馬の帰りの電車の中で――。

卓磨「一平、お前、コンタクト・レンズをしてるんだったな?」

一平「どうかしたんですか?」

卓磨「どうやら俺の右目が悪くなってきているみたいなんだ!」

一平「そうですか」

卓磨「キャッチャーで、眼鏡はかけたくないからな」

一平「確かにそうですね」

卓磨「一平、どこの病院でみてもらった?」

一平「K中央病院です」

卓磨「俺も、そこに行ってみる」

K中央病院。

医師「眼の撮影が終わりました。
   今度、レンズを取りに来てください」

卓磨「分かりました」

車を運転する卓磨。

卓磨「これで耳も悪くなったら、終わりだな、俺。
   そうか! 
   耳が悪い人でも、
   携帯のバイブ機能を使えば、着信したのが分かるんだ! 
   分かったぞ。
   一平のトリック!」


Vol.5 一平のトリック

室内練習場で。
卓磨と一平しかいない。
二人の声が響いている――。

卓磨「一平、お前のトリックが分かったぞ。
   整備員さんを殺しただろ?」

一平「はい」

卓磨「銃の引き金を、携帯のバイブ機能を使って引かせたな!
   “ワイヤー”か何かでつなげて。
   何台使った? 携帯」

一平「8台です」

卓磨「アリバイも成立しないぞ!
   藤堂の代打で出るまでは、
   お前は、球場内を自由に動けたわけだからな」

一平「…………」

卓磨「動機は何だ?」

一平「整備員さんに、
   『お前、一生、まともに打てないだろうな!』
   って言われたんです」

卓磨「それだけか?」

一平「それだけです」

卓磨「それぐらい無視しろ! "プロ"だろ」

一平「"無視"できませんでした」

卓磨「一平、今、お前の犯罪が成立した」


Vol.6 卓磨が打撃練習を開始する

室内練習場で。

卓磨「携帯電話が“凶器”だとは! 
   よく思い付いたな。
   とんだ“文明の利器”だ」

一平「卓磨さんが、気付くとは思いませんでした」

卓磨「俺を馬鹿にするなよ! 
   これでもキャッチャーを長くやってきてるんだ。
   考える“ちから”ぐらいあるぞ!
   俺は刑事じゃなくて、野球選手だから逮捕はできないけれど――。
   自首しろ!
   みんなのためになる!
   お前のためにもなる。
   名遊撃手になるんじゃなかったのか?
   オフに結婚するんじゃなかったのか?
   お前、何てこと――」

一平、膝をついてうずくまる。

グラウンド。
後半戦初日の打撃練習。
「カキーン、カキーン」と打撃音が鳴り響いている。
卓磨、スタンドに何発も入れている――。

打撃音だけ残って、
画面が真っ暗になる。

打撃音も消えて、
山下達郎の「高気圧ガール」が流れ出す。

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