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さよならスズ

うちの猫は17年前、飛行機に乗ってやってきた。

耳が垂れているスコティッシュホールドという品種の猫がどうしても飼いたいと言っていたら、ブリーダーに詳しい友人がここがいいと教えてくれたのが大阪・岸和田のブリーダーだった。そこで最初はキジトラの子を譲ってもらうはずが、その子は病気がちということで、何度も引き渡しが延期になった。病気がちの子を渡すと猫も飼い主も苦労する。そのブリーダーが「この子なら丈夫」と代打で紹介されたのが、スズだ。

スズは大阪空港から飛行機に貨物として載せられ、私は羽田空港に迎えに行った。猫を飛行機で届けると聞いて驚いたが、新幹線で何時間もかけて連れてくるよりは負担が少ないのかもしれない。いずれにしても、スズは元気に東京にやって来て、うちの猫になった。

ちなみにこの写真は、スズがうちに来てすぐの頃。スズの写真はたくさんあるけれど、私が撮ることが多かったから、私がスズが一緒に写っているのはほとんどない。

スズと出会ったあとに、私は記者から本の編集者へと仕事を変え、結婚して、引越しをして、息子が生まれた。

息子のベビーベッドを買ったら、我が物顔で寝転んだ。
私が自宅で本のゲラを読んでいると、ゲラの上に乗ってじゃまをした。息子が宿題をしているとノートや教科書の上に座ってじゃまをした。

私が忙しくしていても、猫力を発揮して癒してくれた。酔っ払って深夜に帰ってきたら、家族はみんな寝ていても、スズはごそごそと出てきて出迎えてくれた。

そんなスズの腎臓機能がだいぶ落ちているとわかったのは、1年以上前のこと。腎臓食のキャットフード(これが結構高い)を日々食べさせて長生きしてねと話していたけれど、少しずつ病気は進行していった。

そして今週に入り、食いしん坊だったスズが突然好きだったキャットフードもほとんど食べなくなった。それでも水は飲み、動いていたけれど、日に日に衰えていく。毎日動物病院に連れていったけれど、なかなか状況は厳しかった。そして金曜の夜、とうとうスズは息を引き取った。

ペット用の火葬をしてくれるところをネットで探して電話をかけたら、翌日には火葬設備を備えたワゴン車で来てくれた。火葬してもらっている最中、10歳になった息子は天を仰ぎ、「スズが天国に行けますように」と泣きながら祈っていた。息子によると、「ママに怒られて泣いているときに、隣で慰めてくれたのはスズだけ」なので悲しすぎるそうだ。

10年前はベビーベッドを取り合っていた仲だけど、スズは最期、息子に命の大切さを教えてくれたね。ありがとう。さよならスズ。


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