デジタル・ミニマリズム

『ディープ・ワーク 大事なことに集中する』のカル・ニューポートの新刊『Digital Minimalism(デジタル・ミニマリズム)』は、30日間のデジタル・デトックスの正しい実行方法など、コントロールできなくなったあなたのデジタル、スマホ生活を、こんまりメソッドのように断捨離する方法を教えてくれる。

でもこの本で一番ためになるのはデジタル・ミニマリズム哲学を理解することこれができれば、これからのデジタル生活でも二度と迷ったりしない。

スマホ時代のテクノロジー使用哲学

デジタル・ミニマリズムとは、あなたにとって重要な価値を高めるごく少数の最適化された活動にのみオンラインの時間を集中させ、それ以外へは進んでは手をださないことを選ぶ、デジタル・テクノロジーの使い方の哲学。

便利な技術やアプリがでてくると、とにかく取り入れてみようというデジタル・マキシマリストの考え方とは対局をなすものです。

デジタル・ミニマリストの考え方が、近年のスマホ使用で特に必要とされるのは、テクノロジーの中にはカジノのスロットマシーンのようにあなたをつかんで離さず、ボロボロにしてしまうものがあるからです。

デジタル・ミニマリストへの道

このコラムを読んでくれている人の中には、もう既にスマホの通知をオフにしたり、寝室をスマホ禁止の場にしたり、またスクリーンタイムなどのアプリも使ったりして、使用を制限しようとしている人も多いのではないでしょうか?

しかし、はやくも2017年にアメリカのコメディアン、ビル・マーが彼の番組でも警告しているように「SNSは現代のタバコ。ニコチンのかわりに”いいね”中毒に」。自分の意思だけで状況をコントロールするのは難しいのです。

デジタルとの付き合い方を根本的に変えたいのであれば、それには哲学に裏付けられたテクニックが必要。カル・ニューポートが、自ら「デジタル・こんまりメソッド」と話す、リバウンドしないデジタル・ミニマリストへの変革の方法と基礎となる考え方を紹介します。

ステップ 1. 30日間のデジタル・デトックス

まず、それがなければ仕事や生活が成り立たないレベルで必要なアプリやサイトを見極め、30日間それ以外は使わないようにします。多くの人は、SNSや隙間時間に観ている動画アプリなどは、なくても仕事はできますよね。

最初の一週間から10日間は、これまで常にやっていたことが急になくなるので、アクセスしたいという衝動にひどく襲われるかもしれません。

幸いなことにこのネットアクセスへの禁断症状は麻薬とは異なり、手に入らないからといって髪をかきむしったりすることはありません。しばらくは手持ちぶさたかもしれませんが、ステップ2もうまく使えばすぐにその新しい状況に慣れます。

ステップ 2. できた時間で余暇を楽しむ

ソファでだらだらとSNSや動画をみるのをやめることで、取り戻すことのできた時間=余暇は、自分が大切にしたい興味のあることに使います。読書や、書道やスポーツ、木工やら楽器の練習といった昔ながらの余暇活動に使うことのできる時間が、急にまた戻ってきたことに驚くかと思います。

カル・ニューポートが『デジタル・ミニマリズム』の執筆のために、30日間のデジタル・デトックスを試してみたいボランティアを募集したところ、せいぜい10数人だろうというカルの予想に反して、なんと1600人もの人が応募したそうです。

その中で、すこし年配の人たちは、スマホ以前の時代に楽しんでいたようなアナログの趣味に戻ったわけですが、それが今では新しいテクノロジーによって、もっと楽しく有意義なものへと変革していることにも気づきます。

例えば図書館では、今では書籍の他にも電子ブックや映画のストリーミングサービスなども提供しています。Youtubeは人気のユーチューバーの動画をザッピングすることにも使えますが、なにかを習得したいと思った時に、無料の入門者向けビデオがこんなに充実しているところは他にはありません。

物心ついた時から、スマホを見つめ続けることが当たり前だった子供や若者の場合は、それから離れることで、まったく新しい体験に出会うことができるでしょう。どうぞ一緒に手伝ってあげてください。

ステップ 3. 価値のあるデジタル技術を最適化した方法で

デジタル・ミニマリズムの哲学とは、デジタルを捨ててアナログへ戻ろう!ということではありません。それは馬鹿げています。でも私達は何のためにそのアプリやテクノロジーを使っているかを、よく考える必要があります。

30日間のデジタル・デトックスに成功したとしても、このステップ3をよく考えて実行しなければまた以前と同じ状況に戻ってしまうことは確実です。

ここでは、自分にとって大切な価値を高める技術のみ使用することを決めますが、それだけではなくその技術をどのように使うかの方法もじっくり考え、さらにもっといいやり方はないかと、常に最適化を目指します。

仕事のためにSNSを使っている人も多いと思いますが、その場合、例えばインスタグラムで特定のアカウントをチェックすることが仕事で必要なら、時間を決めてその行為を習慣化するやり方がいいかもしれません。

友達の近況を知りたければ、毎日スマホでSNSをダラダラとスクロールする必要はなく、毎週土曜日の朝にその友人のタイムラインをチェックすればいいだけの話かもしれません。でもそれよりも、様子を知るために週末に電話したり、お茶に誘うこともできますよね?

大切なのは、新しいテクノロジーの使用が自分で大切にしている価値をさらに向上させるための一番最適なアクションであるかどうかをよく考えてから、使い始めるということです。

スマホを時計代わりに使うたびにSNSのチェックもしてしまっていた19歳の学生は、このデトックスで生まれてはじめて腕時計を買いました。時間をチェックするだけであれば、時計があればそれでよかったのです。

SNSと絆について

Facebookでいいね!をするだけでは、残念ながら意味のある絆はそこでは育めないようです。SNSをこれからも友人とのコンタクトを保つという理由で使っていくなら、いいねや♥をクリックするだけよりも、伝えたいことをコメントとして書くだけで交流が異なったものになるでしょう。

いいねは、友人との絆のためにFectbookが考えてくれたものではなくて、私達にもっとサービスを使ってもらうにはどうするか?を、Facebookが考え試行錯誤する中で、定着してきたものでしかないのです。

先に書いた1600人のデジタル・デトックスの体験では、ほぼ全員がスマホからSNSのアプリを削除しました。また約半数の人はデスクトップでのアクセスも含めて、SNSを使うこと自体をすっかりやめてしまったという結果になっています。

本を読む喜び

さて、上にまとめたようなメソッドを習得するだけであれば、私が今書いているようなコラムや、カル・ニューポート自身がメディアに寄稿した記事を読んだり、本人が出演しているポッドキャストを聴くだけでも十分かもしれません。下のビデオでは、著者本人が3分でわかりやすく説明しています。

しかし、一冊の本を読むということは、それとは異なる醍醐味がぎっしり。

『Digital Minimalism』は二部構成で第一部は、上に書いた現代のテック企業といいね中毒の説明から始まり、そこから30日間のデトックスでデジタル・ミニマリストへの道をガイドする、という内容になっています。

続く第二部は、デジタル・ミニマリストとしての暮らしをよりよいものにするための、さらなるアイディアや提案、基本的な考え方に関する記述です。

ミニマリストになる方法を手っ取り早く教わりたいだけであれば、この部分は読む必要はないと言えなくもない。でもこの全体の3分の2を占めている第二部が、本に深みを与えています。

ソリチュード

私が特に魅力を感じたのは「自分と過ごす(Spend Time Alone)」ことについて書かれた章。

ソリチュード(Solitude)という言葉は、孤独と訳されることも多いけれと、私がしっくりくるのは「自分ひとりと過ごす時間、その状態」。

カル・ニューポートは本書の中で、レイモンド・キースリッジとミカエル・エルヴィンによる「Lead Yourself First」という本からソリチュードの定義を引用しています。(これもまた読みたくなるような本です!)

この本のソリチュードの定義は、置かれた周囲の環境がどうであれ、他の人の思考や創作物の影響をうけることなく、自分自身の考えや経験にフォーカスしている状態のこと

人里離れた山奥でたった一人でいても、Youtubeをみているような状況はソリチュードではないし、混んだ電車の中であっても、頭の中でなにかについて深く考えているような状況は、ソリチュードな状態と言えそうです。

そしてスマホがこの世に登場してから、私達はソリチュード欠乏症に陥ってしまった。

退屈で手持ちぶさたな状況の持つ力 -「自分に起こった出来事を反芻して理解しようと試みたり、ぼんやりとした思考の中でこれまで結びついていなかったもの同士の関連性が突然ありありと目の前に現れたりという、いわば退屈の力」も忘れてしまった。 

この自分との時間は、私達がよりよく生きていくためにはなくてはならないものだと思います。

iGenの憂鬱

自ら進んでソリチュードを選択する意識高い系の人(『デジタル・ミニマリズム』には『森の生活』のソローの話も、くり返しでてきます)はおいておくとしても、少し前までは、誰もが好むと好まないにかかわらず「自分ひとりとの時間」を結構たくさん持っていたはずです。

サンディエゴ州立大学の心理学の教授、ジェーン・トウェンジは、現代の”iGen(iジェネレーション、1995年から2012年にうまれた世代)”とその前の世代であるミレニアム世代までを比較した時に、一番顕著なのはその精神の健康状態にあると指摘しています。

iGenがそれまでの世代と比べて、ひどく精神的疾患に悩まされているのは、スマホでの常時接続が当たり前の世界で育ったことと無縁ではないだろうとの見解を述べています。彼らは、ソリチュードを経験する機会にこれまで恵まれてこなかった世代と言い換えることもできるでしょう。

余暇とお稽古ごとの持つ力

この他にも「余暇を取り戻せ (Reclaim Leisure)」、というタイトルの章も読んでいて心がおどります。余暇には受動的なインプットではなく、アクティブに体を使って時間をかけないとできないお稽古ごとや手仕事をすることを薦め、ニューポートは大学の教授らしく、学期や四半期ごとに趣味の分野で達成したい計画も作ろう、とも提案しています。

この箇所を読み進めていて、ずっと私の頭の中で像を描いていたのは、去年日本で映画をみて、その後原作本も読んだお茶のお稽古のお話、『日日是好日』。

日本には「お稽古ごと」という、ソリチュードと社会性と身体性の、すべてが揃ったすばらしい余暇の形態がありました!

(近年、ウェルビーイングのためにはコミュニティに属するなど社会的関係の重要性が指摘されていますが、この本でもソリチュードの大切さと同時に、人との関係を保つことの重要性も、もちろん指摘されています。ただ、SNSがそれにかわることはないでしょう)

トウェンジ教授が、iGenとしてアメリカのティーンの問題を浮かび上がらせたように、私の住むスウェーデンでも若者の精神的疾患が恐ろしいほどの勢いで増えています。同じようなニュースをまだ日本からきいたような気がしないのは、統計の問題か?時間の問題?それともこの「お稽古ごと」の効用なのでしょうか?

ともかく、日本に比べるとずいぶんのんびりした北欧で読んでいても、腑に落ちるところ満載の『デジタル・ミニマリズム』。はやく日本語の翻訳もでて、多くの人がこのデジミニ哲学に触れる機会ができるといいなと思います。


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