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鎌倉よりエシカルソーシングの香り

こんにちは。香りのコミュニケーターHIROです。

国土の3/4が森林の日本は緑豊かな大地といっても過言ではない。世界でもトップクラスの森林国。世界の森林を見てみると農業開発や未秩序に行われる過剰伐採が原因で、毎年約730万ヘクタール、日本の国土の約1/5相当の森林が減少している。一方、日本の森林蓄積は安定している。その中でもスギは、戦後に植林した人工林の蓄積の半分以上に達しており、本州北端から屋久島まで自生する。また北海道各地にも広く造林されており、 主に材木や防風林として活用されている。しかし、そのおよそ4割が手入れが必要な状況である。

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日本には屋久島の縄文杉を始め著名な杉もあり、秋田杉や吉野杉のようにブランド化されている杉もある。スギをシンボルとしている自治体が83団体もあり、神聖な木として扱われている一方で、花粉症で名高いスギは厄介者扱いでもある。

スギの認知度向上への取り組み

特有の芳香を有し、杉樽に貯蔵することによって日本酒に香りをつけたりすることもある。また、葉は乾燥して線香*1に用いたり、材木としてのみの利用だけでなく、私たちの生活のなかに利用されている。

ここ最近の試みとして、スギの良さを伝えようと各自治団体や森林組合が取り組んでいることがあるー間伐スギの再利用。たとえば、和器、和精油、チップ化して食用として姿を変えて私たちの生活を支えてくれる。

*1 近年では林内からは葉を収集するのに手間がかかることから、枝葉を持ってくる人々が減り、線香での利用は少なくなったとも言われる。

その香りの出所はというと、ヒノキやヒバと同じく、元々スギは製材所のオガクズを原料として精油採取をするのが一般的だった。しかしながら、オガクズからはスギ材の精油はほとんど採取できなかった。その理油は多分に収率が低いからなのではないかと思われる。そこで、東京大学で教鞭をとった後、秋田県立大学でスギの葉の香りを研究した谷田貝教授は木材の間伐の際に使われない枝葉を利用して精油を抽出。「スギの葉」は爽やかなシトラスの香りがしたそうだ。

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しかし、ヒノキやヒバの葉の精油採取は行なわれていないようで、谷田貝教授によると、これは林内からは葉を収集するのに手間がかかるためである。一方、スギ葉の場合は、林地所有者が伐採木を持ちだす際に葉も持ち出しており、また香りの良いことで抽出されると思われる。よって、現在では、スギの精油は枝葉から抽出するのが主流となっている。

鎌倉のスギ

この春、鎌倉杉の精油に出会った。最初のひと嗅ぎは「甘い」、これが第一印象だった。

一般的にスギの香りと言われているスキッとした香りは感じられなかった。前述の枝葉とは異なる部位、主に木部から抽出しているとのことだった。丸太を砕いてチッパーにかけ蒸留できるチップ状にしてから精油を抽出。香料会社の元同僚にも試香してもらったところ、「パウダリー」との印象を受けたようだ。また、サンダルウッドにも似ていると言う。

現在、一般に入手できるスギ精油は、枝葉を水蒸気蒸留したもので、森の香りで知られるαピネンが豊富なモノテルペン炭化水素を主成分としたグリーンで樟脳を連想する針葉樹特有の香りだ。一方、鎌倉杉は木部から水蒸気蒸留しており、ミドルノートに軽い樹木の香りのδカジネンがふんだんに含まれ、ベースで重圧感のあるT-ムーロロールが検出され、樽酒を連想するスギ材の香りが特徴と語るのはCedar Farm代表の長島氏。

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この和精油が生まれた背景だが、鎌倉ロゼクール代表の宮地氏が鎌倉で間伐されていた杉が焼却されていることを知り、精油として再利用できないかと試みた。蒸留後の木部だが、これも再利用。蒸留後のチップをサシェや防腐効果もあるため植物を育てるプランターに活用しているとのことだ。

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鎌倉杉の香りを蒸留している宮地氏だけでなく、鎌倉市では家庭や業者から排出される植木の剪定材も一括に集め堆肥、チップにしてリサイクルしている。

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鎌倉のスギが間伐される理由

戦後の木材不足の日本では、早く育つ資材としてコストパフォーマンスのよかったスギの木の植林が奨励され、人工植林が盛んになった。しかし安価な外国資材の流入で国産の木材の需要が落ち込むと林業従事者も激減した。結果的にスギ林を管理しきれないという状況に陥り、「放置される人工林」が増加した。

日本各地にこのような収穫期を迎えても伐採されない状態の山があるという。この人工林の放置は大きな災害を引き起こす可能性もあり、深刻な問題となっています。 そこで、林野庁は林業従事者を増やす対策をとり、林業用の高性能重機の積極的導入や、ドローンなどを活用した「スマート林業」に取り組むなど、人手をかけずに済む人工林の管理方法を全国の森林組合に紹介し、放置される人工林の減少に向けて取り組んでいる。

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鎌倉山もそんな林の一つで、自然災害や人的被害を防ぎ、鎌倉の里山保全が課題だった。そんななかボランティア団体と行政が協働で活動する市民運動「里山継承プロジェクト」として2011年より林の手入れをしている。毎年11月から2月の間にボランティアによる間伐がなされる。間伐されたスギは土砂防止のため丸太に利用されたり、焼却*2して炭にする。炭は土壌改良に役立つと同時に災害時の備蓄燃料になる可能性が期待される。自然との共生が目的だ。

*2 現在は間伐材を炭にしていた機関・企業が休止している。

既に焼却という方法で、炭化しリサイクルされていたが、他のリサイクル方法で鎌倉の杉の再利用をと手を挙げたのが、宮地氏である。現在、間伐スギの炭化は休止中だが、精油抽出、また樹木の一部で作った燃やせる使い捨て和器としても活用され、そして使用した和器は廃棄せず、ダイオキシンが発生しない炉で焼き炭にして山の樹木の手入れに使用。山に戻すエコシステムを構築している。

限りある資源「鎌倉杉」

景観を守る目的で間伐されている鎌倉の杉は、今では人口植林はされていない。そのため、いずれは入手不可能な資源になるかもしれない。

間伐される鎌倉の杉の量も毎年、その年の計画によって変わる。現在、5キロのチップから抽出できる精油は15mlだけだ。この限りある香料を安定的に、永続的に供給するのは難しい。それでも鎌倉山の貴重な樹木を再利用し、使い倒すためだけに抽出された、エシカルにソース(消費)された鎌倉杉の精油に、一時(いっとき)は日本の政治の中心だった鎌倉の自然と時代の移り変わりを感じる。

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今日も香り満ち溢れる素敵な一日を!

画像:鎌倉ロゼクール、http://www.takeno-hana.com/、http://www.aroma-easter7.com/、https://news.livedoor.com/



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