#全恋 マガジン vol.7 用がないということ。 〜田中泰延からの手紙〜
世の中のほとんどのことには、用がある。
製鉄所を作るのも、荷物を運ぶのも、麺を茹でるのも、
全部、用があってやることだ。
稲田万里に出会った時、
この人とは用がない、と思った。
なにかの仕事で一緒に儲けようというのでもない。
なにかの知識を二人で共有しようというのでもない。
なにかの意見を互いに交換しようというのでもない。
ただ、彼女には、
どこにも置きようがない魂だけがあった。
私は、魂の置き場所を作ろうと思った。
私は、いまでも結局、
稲田万里に用がない。
文学は、用のないことをする。
小説は、屁の役にも立たない。
だが、
用のないことは、魂に用がある。
1980年、ソングライター・シンガーである伊藤銀次が、
一人のプロデューサーとして
ある若きミュージシャンを見出した時の言葉を贈ろう。
「佐野元春は、僕の夢だ。」
稲田万里は、僕の夢だ。
田中泰延
ひろのぶと株式会社 代表取締役社長
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