ピトンという人物の救済について~映画プリキュアミラクルユニバース感想~

・この先現在公開中の『映画プリキュアミラクルユニバース』のネタバレを含みます。ご注意を。





 3月17日の『映画プリキュアミラクルユニバース』最速上映を見た私は困惑した。今までそれなりにプリキュアも、プリキュアの映画も見てきたが、『分からない』という感想が出てきたのは初めてだった。
 何故自分がそう感じたかは明白だ。私にはどうしても今回の映画オリジナルキャラクターであるピトンが理解できなかったのだ。

 ピトン。彼はミラクルライトのひよっこ職人であり、その自分の立場に不満を感じている。彼はプリキュアに憧れていて、彼女たちの力になりたいと思っていたのだ。
 だが正直な所、彼の人格は相当アレだ。ひよっこ職人であり、周囲から認められていないせいで不満を抱えてるとはいえ、ミラクルライトの仕上げ工程を足で行う子だ。

 そんな中、突如その仕上げ工程でトラブルが起こり、彼の住む惑星ミラクルは闇に覆われ、彼は1人逃げ出し、ミラクルライトでプリキュアを呼ぶ。
 そしてひかるちゃん達と出会い、交流を深め、宇宙を闇で覆うとする宇宙大魔王を倒し、彼はミラクルライトの職人として成長し認められる。

 大雑把に話させてもらったが、これが今作の大体の概要である。そう、今作の実質的な主役はピトン君だ。
 成程、確かに一見プリキュア映画の基本的ストーリーに思える。プリキュアと出会う事で映画オリジナルキャラクターが救われ、成長し、物語は終わる。

 だが個人的な感想を言わせて頂ければ、彼は成長も救済もされていない。そしてそれこそが私の今作の『分からない』という感想。要は不満点の中心なのだと思う。

 先にも述べさせてもらったが、ピトン君の性格は相当アレである。劇中、彼の行動でプリキュアの仲間側のキャラクターとして少し異常なくらい理解できない行動があった。
 それを説明するために、映画本編の重大なネタバレをこの先行います。繰り返しとなりますがご注意を。








 惑星ミラクルが闇に覆われ、ピトン君に呼ばれたスタプリ、ハグプリ、プリアラのプリキュア達はその周辺の惑星にバラバラになる。その中でピトン君は最初、ララちゃん、いちかちゃん、ひまりちゃん、あおいちゃん、シエルちゃん達と共に、鳥型の宇宙人のいる惑星に到着する。

 住民たちの暗い様子を不思議がるララちゃん達。それに対してピトン君は語る。この星は元々明るく、活気のある星だったのだと。
 その言葉を聞いたいちかちゃんはキラパティをオープンし、住民たちのためにスイーツを作る。そしてそれを食べて住民たちは笑顔を取り戻す。その光景を見ていたピトン君にララちゃんは自作のスイーツを差し出した。

 私が、いやおそらく皆さんがプリキュアを愛する理由がこのシーンにはある。おそらく従来ならここで心を通わせ、改心するきっかけとなるはずだ。
 だがミラクルユニバースは違う。次のシーンで惑星ミラクルの警備部隊がララちゃん達を包囲し、捕獲する。

 そしてピトン君はそれを見捨てて逃げ出すのだ。「やはりこいつらは駄目だな」と捨て台詞を残して。

 私にはこのシーンが理解できなかった。ララちゃんから「逃げて!」と言われるわけでもない。助けようと奮闘するわけでも、逃げる事をためらう訳でもない。

 ただ、本当に見捨てて逃げるのだ。

 彼の行動を弁護するならば、序盤スタプリのメンバーの暴走で惑星ミラクルが闇に覆われるのを止められなかったという事情はある。だから彼は自分が呼び寄せたプリキュアを「ウソッ子のプリキュア」と思い、信頼していない。

 だが彼は見たはずなのだ。たった今、プリキュアがプリキュアである力の源を。その時一瞬、私にはピトン君がララちゃんと心を通わせたように見えたのだ。
 この瞬間、今までただ好感度の高くない人物であったピトン君が、私の目には「道徳心や倫理観に問題がある人物」に映った。だからこそ彼がミラクルライトを作ろうとした時、異常が起こったのだと思った。

 だが違った。ミラクルライトが異常を起こした原因は宇宙大魔王の策略であり、彼自身に原因は無かった。

 そしてそれこそが今作におけるピトン君最大の不幸だと私は思う。

 かつて、プリキュアを陥れようとした映画オリジナルキャラクターはいた。例えば『ASNS2』のグレル、『人形の国のバレリーナ』のつむぎちゃんが挙げられるだろう。(どうでもいいですが私は『人形の国のバレリーナ』がクッソ好きです。)
 彼らは自分の中の闇の誘惑に負け、プリキュア達をピンチに陥れた。だがプリキュア達と出会い、触れ合う中で自分の行動を後悔し、プリキュアに救われ、グレルは自分の闇を受け入れ、NS3でエコーの妖精となるまでに成長し、つむぎちゃんは再びバレリーナとして立ち上がる。
 同様の過程を経たキャラクターは他にもいる。ダークドリーム、オリヴィエとサラマンダー男爵。ニコちゃんやマシュー、クマタもそうだろう。

 彼らに共通するのは「自分の負の部分」が「世界の危機」と密接に絡み合っている事だ。だからこそ彼らは後悔する。悔いる。そしてそこにプリキュアは手を刺し伸ばす。

 だがピトン君は違う。先にも言った通り、惑星ミラクルの異常はピトン君とは基本的に無関係だからだ。惑星ミラクルの異常を解決するためには、彼は「自分の負の部分」を正す必要が無かったのだ。

 彼は現状唯一のミラクルライトを作れる職人であり、この事態に立ち向かえる唯一の人物ではある。だからこそひよっ子のままではいられない。彼には一刻も早く一人前のミラクルライト職人になってもらう必要がある。
 確かに筋は通っている。ミラクルライト職人として「成長」してもらう必要がある。

 だがしかしそれだけだ。驚くべきことに、今作では「ミラクルライト職人としての成長」は、彼自身の人格、ララちゃんを見捨てた酷薄さを悔いて反省する事とイコールではない。

 終盤、彼は「プリキュアの力になれない」事を悔やみ、涙を流す。繰り返すが「プリキュアの力になれない」事をだ。彼自身の人格の問題点を悔いてるわけでは無いのだ。
 そもそも、彼自身は「プリキュアの力になりたい」という想いを元々持っていたのだ。だからこの終盤に至るまでに彼が起こした精神的な変化は『スタプリをプリキュアとして認めた』というただそれだけにしか過ぎない。
 そして事態は解決してしまう。彼の抱える負の部分は放置されたまま。

 私はピトン君を不幸だと思う。可哀想と言ってもいい。

 彼は事態を解決してしまった。周囲から認められてしまった。彼自身の負の部分を反省することなく。
 グレルやつむぎちゃんの様な精神的な成長、救済を彼は得られなかったのだ。それなのに彼は周囲から認められる。一人前として扱われる。私はこれを不幸だと思う。

 そして、これはいわば「プリキュアの無力さ」に繋がりかねない。
 ミラクルユニバースというプリキュア達が集まる一大イベントの中で描かれたのは、ピトン君の人格に何の影響も及ぼさなかったプリキュアの無力さ。これは何の冗談なのだろう。

 最後に一言言わせて頂けるなら、私はやはりピトン君に救われて欲しいと思う。立場や周囲からの賞賛ではなく、彼自身の人格の問題として。
 だってそう思わなければ彼があまりにも可哀想じゃないか。憧れのプリキュアと出会い、周囲から認められ。でも実際は何一つ変わってはいない。

 だがおそらく彼が救われることは無い。映画というコンテンツで話が完結している以上、ピトン君の救済が描かれる事は無い。

 しかし、それでも私はピトン君が救われて欲しいと思う。

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Curehulk

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