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オートバイの話

20代のほとんどをYAMAHA SR400 というオートバイに跨って過ごした。
生活の中心はオートバイで、遠くまで走ればそれは旅になった。
日帰りツーリングがテント泊になり、果ては3ヶ月ほどかけて全国を周ることになる。オートバイを買ったときには想像もしていなかった。

時々考える。なぜオートバイで旅に出たのか。
漠然と「楽しいから」だったのだが、客観的に考えると辛いことばかりだ。排気ガスを吸い、雨が降れば濡れ、日が照れば目まいするほど暑く、肌は焼け、寒さに震えて道に迷いその日の宿が見つからないこともあった。
でもそのすべてを楽しめた。実に奇妙だ。

冷静に興奮するとでも言うのだろうか。
見知らぬ土地を走っていると一瞬心が空っぽになり、その瞬間感じている全てに心が満たされる感覚を味わうことがあった。

この感覚を味わえる喜びが大きかったのではないだろうか。
車には無いむき出し感。自転車には出せないスピード。
そうした魅力と不便さを兼ね備えたオートバイだから味わえたであろう感覚。
それを肌で感じた結果、旅の道具としてオートバイを選び、今でも選びたいと思っている。

威厳を持って佇む岩木山。
細い山道を抜け、眼前に広がった日本海。
圧倒的な存在感を持つ日本アルプスの山々。
甘い匂いに包まれた東紀州。
どこまでも緑広がる九州の大地。
雲霧に包まれた屋久島の山々。
自然の風景は偉大だ。
日本中の景色の美しさや匂い、人の暖かさを知った経験は何にも変え難い。

SR400を数年振りに動かすつもりだ。
今しか見られない景色を見られるだけ楽しめたらと思う。

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