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生粋のバンドロゴマニアそしてアートディレクターとして働くわたしが、バンドロゴを淡々と語る Vol.1

こんにちは。hiroponでございます。

わたしは事業会社でアートディレクターとして働いたり、個人でメタルバンドのアートワークやロゴの製作、イラストの製作などの創作活動を行っています。
今までのわたしの作品は以下より見ることができます。

昔からわたしはメタルなどエクストリームな音楽が大好きです。
絵を描くことが好きだった少年時代、そのような音楽を通してさまざまなバンドのロゴやアートワークなど作品のクリエイティブにも関心が広がり、わたしのデザイナーとしてのキャリアに繋がっていきました。

現在も音楽のクリエイティブを見て、所感を残したり、デザインの分析をすることが習慣になっています。
闇の青春時代から続くそれは、もはやマニアの域といってもよいでしょう。

Twitterでその内容を投稿したところ、とても好評いただいているので試しに過去の内容をnoteで記事としてまとめることにしたのです。

ロゴをただ見た目の美しさで語るだけではなく、アートディレクション視点で俯瞰する内容を書けたらと思っています。
ただつらつらと書いているだけなので、もしそれはちがうよ!などあればコメントで教えてくださいね。

それでは参りましょう。

Emperor

まずはノルウェーのブラックメタルバンド、Emperorのロゴです。

洗練された装飾性の非常に美しいロゴです。

ブラックメタルの代表格的なポジションのバンドです。
ブラックメタルはトレモロリフによる荒々しさや流麗さでバンドそれぞれの世界観があるのが特徴です。
特にEmperorはクラシックの要素など、新しい要素をブラックメタルにどんどん取り入れ、壮大な世界観を展開しブラックメタルの可能性を押し広げたバンドであると思います。

ライブ映像のが音源より音質がいい(ブラックメタルあるある)

そんな大ベテランのロゴは昔から変わらず同じものが使用されています。
作者はLord of the Logosとして有名すぎるChristophe Szpajdel氏。

大きな特徴とすごいところとして、ほぼ書体のみのシンプルな要素で美しい左右対称の形状を作っていることでしょう。
余計な装飾を用いず、文字の形状のみで構成することは至難の技です。
最初のEMと最後のERの精密なパズルが合ったかのような左右対称さはもう見事で言葉がありません。

左のMの一画目を右ではRの縦線として利用している。

メタルバンドらしく邪悪な翼を広げたような強いシルエットでありながら、余計な装飾が無く、美しい文字の線のみで構成されたそのあしらいはバンドの出す音と共に冷酷で慈悲のないブラックメタル世界のイメージを生成します。

ブラックメタルにも様々な種類がありますが、代表的な特徴として、メロディックデスメタルの文脈のゴリゴリの激しい表現にクラシカルな旋律の美しさが合わさっているものがあると考えます。
そのらしさをグラフィックで表現する際、トゲトゲさのない流麗な線というのが今回の手段となっているのです。

またベースの書体も欧文のブラックレターを下地としているので、欧文カリグラフィの美しさとヨーロッパの文化感を感じることができます。
Mの曲線がまさしくそれで非常に線が美しいですね。

さらにこのロゴは中央に位置するEが、中央ゆえに単体で左右対称になるようなエンブレムの形状になっています。
真ん中が邪眼のようになっているのがいいワンポイントになっていますね。
このEのみを抜き出してグラフィックに展開するなど、装飾が少ないゆえに汎用性も抜群に良いのです。縦長のバナーでの見栄えも抜群です。

エンブレムに展開したもの

最初からどこまで意図して設計されていたかは不明ですが、20年以上経った現在でも使用されていることは、そのロゴのクリエイティブとしての洗練された素晴らしさはもちろん、ブレずに活動を続けてきたEmperorというバンドの強さの表れであるでしょう。

Touché Amoré

続きまして、アメリカのポストハードコアバンドの雄、Touché Amoréのシンボルマークとして用いられていたものです。

ミニマルなシンボルマーク

ハードコアという文脈ながら、激情さやさらにどこかインディーロックさのある暖かい音や世界観が特徴を持っています。

ギターのNick Steinhardtがアートディレクターとしてバンドのクリエイティブを担っているので毎作品ごとに優れた一貫性があります。
ロゴも含め、彼らのクリエイティブは一般的なハードコアらしさとは離れたグラフィック表現が特徴です。

アートワークがまとめられた書籍が発売された。
アナログな印刷表現を愛するような暖かなグラフィック表現が特徴。

さてロゴを見てみますと、中央から放射線状に伸びた線たちによって、光の差す先に至る道のようなモチーフが構成されています。

最低限の線だけでそんな情景を構成してしまったのがすごいのです。

  • 中央の線を中心で終わらせることで下部分の2線で道であることを示す

  • 横線1本で光の放射線と地平線の表現を両立させる

  • さらに遠近法的な破線にすることで奥行きを表現する

要素を足すことなく引き算の考え方で形状を構成されているのがわかります。
そのように要素をミニマルに徹することにより、具体的な情景を描きながらシンプルなシンボルマークとしての強度を保っているのです。

そしてそのシンプルさは彼らの特有のグラフィックの平面表現との親和性が高く、ハードコアバンドでありながらその枠に囚われないモダンで文化的な独自の路線をより強固なものにしています。

そしてそのモチーフもシンプルなだけではなく、暗闇から光に向かって進んでいくような彼らの曲で語られる世界観を象徴しており、言葉の意味通りシンボルマークとなっているのです。

象徴としての表現とグラフィックによる「らしさ」のイメージコントロール
この2つを両立した非常に素晴らしい例だと思います。

見え方をコントロールするという考え方

今回はバンドロゴを例に色々書きましたが、
デザインには「なんとなくかっこいい」というものは存在しません。
細かなあしらい、書体の選定、レイアウト、全ての要素に背景や意図が存在します。
それらの集積でクリエイティブを構成し、「らしさ」を表現するのです。
対象をどのように見せたいのか?どんなイメージを持ってもらいたいのか?
「らしさ」という観点で見え方をコントロールするのがアートディレクションの役割だと思っています。

青春時代をメタルやハードコアバンドの探索に捧げたわたしの闇の人生ですが、そこで、これは「デスメタルさしさ」や「この時代のニューハードコアらしさ」というようなインプットをずっと行っていたのでしょう。

現在のアートディレクターとしての仕事に繋がっている気がして、何が転ずるかわからないなぁと不思議に思います。

おわりに

さて、今回は以上になります。
このようなバンドロゴ分析(エッセイ?)のストックが山のようにありますので、機会があればnoteで記事にしていこうと思います。

わたしのTwitterではメタルロゴをゆるいイラストにリメイクしたり、創作イラストを投稿しています。よかったら覗いていってください。

それではまた。

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