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太郎の思い出(第1話)

それは転校間もない、小学校1年生のことだった。

太郎は慣れない環境で輪の中に入ろうとしていた。父の仕事の影響で引っ越しばかり強いられていたため、少しでも早く友だちを作り、仲良くなりたい、その一心だった。

人に合わせて入れば、それなりに親しくなれるはずだ。とばかりできるだけ相手の話に耳を傾け、聴くことに努めた。心の中では違うと想っても、それをおくびにも出さず、がまんした。その甲斐もあって、数人だがわずかばかりの友だちもできた。

だがその友だちはどちらかと言えば、クラスの外れもの。劣等生だった。周りに合わせ、学校の校風になじめる生徒たちは優等生。一方なかなかなじめず、苦労していた太郎たちはダメレッテルを貼られていた。

その元凶は新米女教師の三村にあった。担任の三村は体育会系教師。ちょっとでも言うことを聴かないとみるやお仕置きと称して信じられないことをする。太郎にはできそこないだからアホ太郎、いつも遅れてくるはじめくんにはビリ目、何をやってもダメなマサオくんにはダメ男、というふうに差別とも言えるレッテルのニックネームを付け、生徒全員に知らしめた。

それだけではない。太郎たち三人はいつも三村に目を付けられていた。ストレス解消の格好の餌食となっていた。ペンテルの太字油性マーカーで、顔に大きく「×」点を書く。太郎たちは授業中好奇の目にさらされ、辱めを受ける。

休み時間になってようやく解放された途端、外の手洗い場へとまっしぐらに走り出し、せっけんを泡立てほおをごしごしとこする。何度も何度もこすり、べっとりと付いた黒の罰点はだんだんと薄くなっていく。ようやっとのところで消えたかと想うと、次の授業のチャイムが鳴る。消えた三人は妙な仲間意識を持ちつつ、席へと座るのだった。

……つづく

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