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VC Finance/ Exit場面でのVC間や起業家・VC間の利害対立 Part 4(投資家間)

優先分配条項がもたらす投資家や起業家のインセンティブの歪み問題。今回は「複数投資家間」でのエグジットの利害対立を見てみましょう。
本記事は下記記事の続編です。

本記事で前提とする優先株式は2つあります。それぞれ以下の通りです。

本記事の優先株式
 ①シリーズA優先株式
  投資額:$2M
  投資家の持株割合:20%(全クラスが普通株式へ転換したと仮定した場合)
  転換条件:投資家の選択により普通株式に1:1でいつでも転換可能
②シリーズB優先株式
  投資額:$4M
  投資家の持株割合:20%(全クラスが普通株式へ転換したと仮定した場合)
  転換条件:投資家の選択により普通株式に1:1でいつでも転換可能

シリーズA・シリーズBの優先分配権がプロラタの場合

複数回のラウンドがある場合、複数クラス間の優先分配権の優先順位をどう設定するかが議論されます。

その設定の仕方の一つが、プロラタです。
優先分配権をプロラタで設定すると、M&Aでの総分配額が当該複数クラスの優先分配権の合計額に満たない場合、当該複数クラス間の分配は、それらのクラスの(典型的には)優先分配権の割合に応じてなされます

具体的には、以下のグラフをご参照ください。
(このグラフは、シリーズA優先株主とシリーズB優先株主が最も自己の分配額が大きくなるよう適切なタイミングで普通株式への転換を行う等、合理的に行動した場合の、各クラスの株主への分配額を示しています。)


M&Aでの総分配額が$6Mに達するまでは、シリーズAの優先分配権($2M)およびシリーズBの優先分配権($4M)の割合に応じて、分配額が両クラス間で按分されています。これが、プロラタによる優先分配権の具体例です。

このグラフでは、$6Mから$12MのレンジでシリーズAもシリーズBも分配額がフラットになっています。そのため、このレンジにおいては、シリーズAもシリーズBもいずれも、M&A価額の増加に無関心になります。

他方で、$12Mから$20Mのレンジでは、シリーズAは普通株式に転換し、分配額が比例的に伸びていく一方で、シリーズBは普通株式の転換を行わず、分配額は変わりません。そのため、このレンジでは、シリーズBはM&A価額の増加に無関心だがシリーズBは価額の増加にインセンティブがある、という投資家間のインセンティブの歪みが生じます。

シリーズBにシリーズAに対する優先権付きの優先分配権がある場合

優先権付きの優先分配権は、他のクラスの優先分配権に先立って当該クラスの優先分配権の価額に達するまで当該クラスに優先的に分配を行うものです。

具体的には、以下のグラフをご参照ください。
(前グラフ同様、以下は、シリーズA優先株主とシリーズB優先株主が最も自己の分配額が大きくなるよう適切なタイミングで普通株式への転換を行う等、合理的に行動した場合の、各クラスの株主への分配額を示しています。)

M&Aでの総分配額が$6Mに達するまでは、先にシリーズBにその優先分配権($4M)相当の分配が、次にシリーズAにその優先分配権($2M)相当の分配がなされています。これが、シリーズBのシリーズAに対する優先権付きの優先分配権の具体例です。

優先権の存在ゆえに、$2Mから$4Mのレンジで、シリーズAはM&A売却額の増加に無関心だがシリーズBはM&A売却額の増加にインセンティブがあるという歪みが生じています。
また、$4Mから$6Mのレンジでは逆の歪みが生じています。

このように、優先権の存在は、優先権の影響を受けるレンジの投資家間のM&A売却のインセンティブの歪みを生じさせます。

いずれか一方のシリーズにのみ優先分配権に係る参加権がある場合

どんどん複雑になってきたのでごく簡単な指摘に留めます。この場合は、参加権がない方のシリーズが普通株式への転換を行うまで(上記ではM&Aでの総分配額が22M超に達してシリーズBが普通株式への転換を行うまで)、各シリーズの投資家のインセンティブは歪み続けます


当たり前だけど重要なことー普通株主への動機付け

もう一つ、当たり前だけど重要な点を指摘しておきます。

いずれのグラフでも、M&Aでの総分配額が全シリーズの優先分配条項の累積金額($2M + $4M = $6M)超になるまでは、普通株主(起業家)には売却のインセンティブは全くありません

そのため、投資家が「この会社はホームランにならないし優先分配額だけ回収して手仕舞いしよう」と考え、現に$6Mでの購入希望者が現れたとしても、普通株主は間違いなく反対します。

それによって売却提案が阻止されたり、売却提案を巡って法的紛争になったりするリスクも高まります。こういった場合には、優先分配の一部を放棄して普通株主への分配に回すなどの、普通株主にインセンティブを与える交渉が投資家・起業家間で必要になります。

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