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さよならサンダーバード

今日はちょっと前職の鉄道に関する地元の状況についての雑感です。


北陸新幹線の敦賀延伸

私が住んでいる福井県では、先月北陸新幹線が敦賀まで延伸開業し、しばらくお祭り騒ぎ状態でした。福井駅の新幹線駅と商業施設オープン、駅西側の再開発ビルのホテルオープンなど、東京福井間が乗り換えなく、乗車時間も3時間を切るという、ある意味地味な地域の、歴史的悲願達成ということです。

新幹線の代償:並行在来線

国鉄後の新幹線整備については、政治主導で地方部の不採算路線が建設され、東北上越の新幹線も国鉄の債務増加への影響が大きかった、という理由で(これが本当かどうかは検証が必要です)、整備投資については、整備される地方負担も含めた公的財源の制限(毎年国の予算は750億程度です)、完成後の並行するJR路線については経営を切り離し、地域(基本県単位)の第3セクター会社を設立してそこに任せる、という方針が平成から令和の30年以上採られています。

国鉄の末期、負債問題については以下の書籍が参考になります。これを読むと、地方路線の赤字問題や東北・上越新幹線の建設が経営を傾けた、などの通説がいかにあやふやかがよくわかります。絶版本ですが書名で検索すると東京大学のリポジトリにあるPDF版がサーチ結果に上がってきますので、それで読むことも可能です。


北陸に北陸本線がなくなった

そのため、3月16日の新幹線開業と同時に、北陸3県内の「北陸本線」はすべてJRの経営から切り離され、北陸本線は主に滋賀県内の米原から敦賀までしか存在しない状態になりました。新幹線認可の条件が、この状態を自治体が了解すること、となっているので、はるか以前から当然予想されたことではありましたが、福井と元々関係が深かった関西地方からの往来は実は不便になってしまうということになっています。

というのも、新幹線で東京まで、これまでは米原か金沢で乗り換え必要だったものが乗り換えなくて良くなった反面、福井と大阪間は敦賀での乗り換えが不可避になり、さらに運賃も上がってしまうという現実が発生しています。

敦賀駅ホーム

ハード以上のソフトの課題

運賃制度

新幹線特急券は在来線特急券より割高です。ただ、これは時間に対する対価なので、しょうがない面があります。しかし、福井敦賀間は確かに時間半減した反面、敦賀以遠、京都大阪までは乗り換えのために、時間短縮効果がほぼありません。

加えて、3月16日までは、新幹線から在来線特急に乗り継ぐ場合、在来線特急料金は半額となる扱いがなされていましたが、これが廃止されました。また、繁忙期以外に設定されていた往復でのいわゆる「とくとく切符」もなくなってます。これらは、Web予約利用の場合の割引設定などがあるため、というのが一応の説明なんでしょうが、これがまた大問題です。その理由は後ほど。

在来線特急の実質値上げ策としての全席指定化

もう一つ、3月に全国的な動きとしてあったのが、在来線特急の全席指定化です。ガラガラでも指定席料金を払わなければなりませんし、座れない場合もです。空いてる場合はとりあえず座ってるししょうがないな、で済むかもしれません。しかし盆暮など、予約が取れないがとにかく乗ってみた、という従来の使い方で乗った場合、席もないが特急券には席料も含まれているという内容には、商品として疑問です。混雑する、駅、券売機、窓口などでイライラが募る上に、車内での購入時、また窓口でも指定とれないなら「特急券売れない」ともし言われたりした場合のトラブルも、人事ながら心配になります。

実際の体験

Webからの予約

今日、新大阪に業務上の用事ができたので、JRを使っていくことになりました。前日にWebから切符を予約して、移動当日券売機で発券しようと、いつものつもりで取り掛かったら、いきなり予約でつまづきました。乗り換えは1回、福井-敦賀が新幹線にはなりましたが、敦賀-新大阪までは湖西線サンダーバードという、学生時代から何回乗ったかもうわからないくらいのルートです。

つまづきの原因は、新幹線は自由席、サンダーバードは指定席という組み合わせです。指定-指定の組み合わせであれば、画面遷移のデフォルト通りで問題なく行くのですが、福井敦賀間は25分もかからないし、かがやきでなくつるぎを選べば自由席もある、ダイヤはちゃんとサンダーと接続されている、ということでまずそれが第一希望。

帰りは時間が正確にはわからないので、乗車券のみ買っておき、新幹線はまた自由席でという買い方を試みました。窓口であればこの希望を伝えればすぐ発券できる組み合わせです。

ところがこれがWeb(e5489)になると難しい。リストからの駅選択だとそもそも自由席の選択ボタンが出てこない、駅名をウィンドウに入力して検索をかけると、自由席も選択肢に出てくるという謎仕様。そこまでは分かったんですが、敦賀からの指定席を取ろうとしたら、つるぎ接続を想定する時刻のサンダーが検索結果になぜか現れず、もう疲れてそこでWebは諦めて、寝てしまいました。

駅券売機発券もかなわず。。

前日のWeb予約では予定する切符が買えなかったので、移動日当日に福井駅で購入すればいいかということで、福井駅券売機での購入トライ。窓口は少し並んでいたので、券売機でいいかと思い、券売機で敦賀新大阪間の指定券のみの購入を試みるも、ここの画面も新幹線中心に入り口メニューも大幅変更で、やはり敦賀からの特急指定の画面への行き方がわからず。往復乗車券と新幹線の自由席特急券往復を選択し、画面遷移しているうちに決済まで行ってしまい、指定席特急券は買えずじまいでした。時間もないのでしょうがなく、もう敦賀で買えるか、最後の手段はサンダーの車内で買おうかということで新幹線改札から乗車してしまいました。

結局、敦賀駅乗り換えは基本JR改札内なので特急券が買える券売機も窓口もなく、サンダーの車内で空いてる席に座って車掌さんが来るのを待って、指定席特急券を購入しました。その間、「指定席特急券をお持ちでない方は乗車できません」と何回もアナウンスがかかるので、正直、気分の良いものではありませんでした。また、敦賀から峠を越えて湖北に至る区間はトンネルも多く、昔から携帯電話の電波がないところです。今もその点は変わらず、車内でカードで決済しようとしたら、「電波がないのでカード使えません」と言われるオチも。

ハードとオペレーションの良さを殺す経営、政治と政策

前職が鉄道会社で、地方の小さい会社ですが、福井で3番目に利用者がある駅の高架化整備はじめ、多くのハードづくり、新幹線との共同工事(施工者は同じ鉄道運輸機構)もやってきました。そこでいつも思ったのは、鉄道のハードに関しては日本は超一流です。また、現場のオペレーションへの配慮もものすごいものがあり、日本中の主要駅はバリアフリーガイドラインに完全準拠して整備されています。階段での転倒事故すら管理者である鉄道会社の責任となるため、設備の安全だけでなく、スムーズな移動に関する配慮も徹底しています。

また、現場の社員も、お客様の大切な時間と料金を預かりますので、それこそ10秒、10円も蔑ろにせずに働いています。

敦賀はじめ北陸新幹線の駅も非常によく考えられたものであり、その点については素直に感動するのですが、今回(実はその前に敦賀、米原経由で静岡への出張もありました)乗り換えが面倒だと言われている敦賀乗り換えをしてみて、切符の設定のまずさ、Webと券売機のユーザー体験にかかった時間と結果を考えると、正直、プライベートだったら、あるいは帰省時期やGWなどにはもう在来線特急は使いたくないと感じました。

JRという会社の経営

そもそもの問題は切符、特急券設定という経営上の問題で、これは全国のJRで全席指定が基本としたことです。北海道でも便数減、廃線のうえの全席指定化というもはや意味不明なことをやってます。素直に値上げか季節ごとのダイナミックプライスにしてくれた方が、需要の平準化と売り上げ増加という点でよほど良かったと思います。

なぜこういうネットワークと経営になるか:政治の問題

さらになんで敦賀乗り換えや全国ネットワークであるJRがぶつ切りになっているのか、というのは鉄道をめぐる政治と政策が根本原因です。

ハードと現場は一流、経営は??というのは、バブル後の日本企業の典型(あるいは旧日本軍)とも重なります。そういう企業は破綻し、外資に吸収されていきました。さらに政治と政策に関しても、胸を張れるような歴史的時期すらなかったかもしれません。

確かに日本の鉄道技術、ネットワークは大したものだと思います。ただし、今の全国の状況や、自分の限られた体験からは、特にJRのネットワークの将来が明るいとは思えません。またこの「一流」は日本の社会風土の中でこそで、海外では全く通用しないものでしょう。経営にあたる方はどう考えているか、果たして自分で切符を買って乗車したことがあるのか、そんなことが気になってしょうがない大阪行きでした。

広大な敦賀駅乗り換えコンコース

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