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痴漢に遭ったら声はやっぱり出ない。

自分は男なので痴漢に遭ったことはない。ぼんやりしているせいなのか周りでその様な場面に遭遇したこともない。ただ痴漢に遭ったらびっくりして声が出ないとよく聞くがこれについては一度似た様な経験をして本当にそうだなと思ったことがある。
長崎に住んでいた頃市内の路面電車の車内で起きた。季節は夏。夏なので半袖にスラックス。半袖のシャツはスラックスの中にしまい腰のベルトが外に出ている服装だった。車内で立っていた。そのベルトをいきなり掴まれたのである。後ろからだった。ギョッとして振り返ると杖を腕にぶら下げた高齢のおばあちゃんだった。しっかり両手で自分のベルトを掴んでいる。と、次の瞬間には隣の男の人のベルトに移動した。移動したというか同じ様に隣の人のベルトを両手で掴んで電車の出口に向かっていた。そのときにやっと声が出てきそうになったが出さなかった。ベルトを掴まれた瞬間は何が起きたのか分からなくてちょっとしたパニックに陥っていた。心の中ではうわぁっ!?と叫んでいたがその叫びは声にはならなかった。おばあちゃんの仕業と分かって少し落ち着いたときには叫ぶタイミング(といったものがあれば?だが)を失していた。次の駅で降りるのだろう。杖をついて車内を移動してはバランスが取れずコケるから仕方なく(?)他人のお世話になって出口に向かっているのは見た目にも明らかだった。なので隣の人も何も声を出さなかった。叫びもしなかった。自分と同じ。少し遅れたタイミングで自分と同じ様にビックリし状況を理解して黙ったまま事の推移を見守ったのだろう。それにしてもたくましいおばあちゃんだった。あんたのベルトをほんの少し借りるよ。なあに人様に迷惑かけているわけじゃないさ。ちょっと近くの人の手を貸してもらう代わりにベルトを掴ませてもらって杖代わりにさせてもらうだけなのさ。また会ったときにはよろしくね。そんなつぶやきというか言い訳が聞こえてきそうな後ろ姿だった。


痴漢に遭ったとは言えないが痴漢に遭ったら声が出ないのは本当だろうなという経験をした。長崎のたくましいおばあちゃんのおかげで。
昨日は74回目の広島原爆記念日だった。明後日8月9日は長崎原爆記念日。


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