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李稻葵 中国経済の新たな成長ポイントはどこにあるのか? 2015

 李稻葵(リー・ダオクイ 1963-)は清華大学を卒業したあと、1992年にハーバード大学で博士号取得。香港科技大学を経て清華大学教授。ここでは以下を要約する。いわゆる中国経済悲観論に対して、中国経済はなお成長できると主張している。

李稻癸《中國經濟的新增長點在哪兒》載《新常態改變中國》中和出版,2015年,88-93

 購買力平価でみて日本、韓国、台湾の一人当たりGDPは米国の70%程度だとする。これらの経済体は米国の20%程度に到達してから8%以上の成長率を保って70%程度に到達した。現在、中国は20%程度。これらの先行の経験からするとこれからしばらく、中国は8%以上の潜在成長力をもつだろう。
 かつ中国は大きな国内市場という大国経済の優位性、また中国経済は追い越し型(趕超型)であり学習型経済であり、第三に80年代末の日本とはちがって体制を創新する原動力をもっている。
 こうした分析からすれば中国の現在の困難は一時的であり、適切な措置をとれば、経済成長率の下降に備えることができる。
 現在の中国経済減速は伝統的な成長してきたところ(点)が勢いを失う一方、新たに成長するところがなお勢いを得ていない(未完全爆發)ことによる。まず不動産は都市住民の需要をある程度満足させ、金融改革の進展により不動産投資よりリスクの低い金融投資に資金が流れたことで、これまでのような成長が困難になっている。また輸出は、中国経済の拡大により、この中国経済の成長と同じ程度に成長する輸出先を見つけることはもはやむつかしい。中国自身の労働コストの上昇、利率の上昇の影響はいうまでもない。
 中国で今後の成長するところは3つある。
 一つは民生、公共消費型のインフラ投資である。高速鉄道、地下鉄、都市インフラ、防災、農村のごみ処理・下水処理、大気の質量改善、公共住宅建設など。
 第二は環境投資である。高汚染,高エネルギ―消費の設備を、効率のよい、低汚染、低エネルギー消費のものにとりかえるなど。
 第三は国民消費である。現在GDP45%前後の水準を今後5年程度で50%超まで引き上げるなど。
 これらの中で短期的に伸ばせるのは、公共消費型の投資である。
 現在地方政府はその財源を銀行からの借り入れに頼っている。しかし銀行の貸付は3年以下であり、10年以上の長期投資に向かない。地方政府は返済の圧力から、土地開発に過度に依存している。他方、銀行は地方政府からの圧力を受けて、中小企業へは高利貸付になっている。
 中国の国民貯蓄率は50%を超えているが貸付利率は6%以上。アメリカの国民貯蓄率は15%前後で貸付利率は3~4%である。なぜこうなのか?どうすればいいのか?システムを変える必要がある。
 まず国債の発行量を増加させ、GDPに占める国債の発行量を現在の15%から50%程度にまで引き上げる。国債の収入で国家開発会社や国家開発銀行などを設立する。こうした組織体に投資建設を担わせる。
 第二に地方政府を債務を中央政府が保証する公開された債務に置き替える。こうして地方政府の監督メカニズムを改める。
 第三に資産証券化方式などによって、銀行の貸付残高を現在のGDP比130%から100%に引き下げる。これは銀行の金融リスクをさげ、貨幣発行により経済成長を図る方式の解決にもなるだろう。

    なおここで述べられている新旧の成長するところの交代の問題は、以下でも述べられている。李稻癸《什麽是中國與世界的新常態?》載《新常態下的變革與決策》中信出版社,2015年,15-19。金融制度に関する提案の部分はつぎにように書かれている。「これと関連するのは、中国経済は国民貯蓄率は高止まりしている(高企)なので、目下200%前後のGDPに対する債務比率はさらに高くてもよいということだ。レバレッジ比率が下がることは当面起こらないだろう。高貯蓄率が高いレバレッジ率を伴うことは合理的で、重要なことはメカニズムである。政府担保の長期債務がもっと多くあることの必要性は高い。」同前p.17 投資家の資金を、地方政府が直接吸収する。そして銀行は、企業融資にシフトする。そうした組み立てが考えられているように見える。  

#李稻癸    #インフラ投資 #国債 #資産証券化


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