見出し画像

(非金融法人の)過剰債務問題への接近方法 FSB DP 22 Feb. 2022

Approaches to Debt Overhang Issues of Non-financial Corporates, FSB Discussion Paper Feb.22, 2022 

 まず2007-2008年の金融恐慌によって深刻化した過剰債務問題が、まだ十分癒えない間に、COVID-19 世界的なパンデミック(感染症の世界的大流行)により(2020年2月2日 ダイヤモンドプリンセス号の横浜着岸)、世界各国で債務問題が一段と深刻になったという認識。この認識をまずはこのレポートで確認したい。つまり過剰債務問題が依然継続している。そして2022年に入って以降は、ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月24日開戦)により世界経済の混乱が広がっている。このような世界情勢のもとで、落ち着いて議論を進めることはなかなかむつかしい。中長期的に確かだと思われることを基準に議論を進めるしかない。(福光)

背景 公共当局による通常とは異なる政策対応は、COVID-19 pandemicの経済的放射能汚染を制限する鍵だった。迅速でとても大規模な政策対応は、現実の経済と金融システムへのショックのマイナスの効果を和らげるのに役立った。世界的な金融恐慌以来増加する対応能力とともに、これらの手段は、とても長い景気後退と、システムテックな金融恐慌とを防止するうえで、重要だった。これらの手段は、とても長い景気後退とシステミックな金融恐慌とを防止するうえで重要な役割を演じ、金融機関には、より多くの情報が利用可能となるように、法人と事情の生存可能性を判定する時間を提供した。経済と会社とが回復し始めると公共当局は、潜在的に過剰な企業の債務が原因となって引き起こす問題に取り組むことが期待される。2021年1月に印刷された、金融安定委員会(FSB)のレポート「金融安定の視角から、COVID-19 Pandemicから学んだ教訓についての報告」は、債務過剰問題をFSBの注意が保証された大きな政策問題の一つとして提起し、かつ、FSBが債務過剰問題を扱う可能な接近法(方策)を研究中であることを示唆した。この論文の目的は、COVID後の環境の下で過剰債務問題の現実的範囲について公衆の見解を集めること、そして金融当局と、金融機関、リストラの専門家、借り手を含む外部の利害関係者と間で、過剰債務問題からの円滑な転換を支持するのに効果的な、政策的アプローチと市場の慣行とについての対話を容易にすることである。この論文は、方策の特定の組み合わせを推奨することを目的としていない。(中略)

要約 公共当局の通常とは異なる政策対応は、COVID-19パンデミックの経済的放射能汚染を限定する鍵だった。同時に(直接そして貸付保証という)大量の公共信用供与は、非金融会社に前例のない債務水準をもたらした。いくつかの法治圏においては債務水準とともに現金保有が増加したが、パンデミックの間、GDPのポジションに対する諸国の集計された純債務は一般的に増加した。この背景のもとでFSBは、2021年4月のCOVID-19支援手段についての報告で、過剰債務を長引く政策支援から生じ得る重要なリスクと認識した。
 法人と個人起業家の過剰債務は、①過剰債務下で生存可能な法人による過少投資、②生存できない法人に資金供給することでの資源の誤った配分、③起業能力の喪失による低生産性、を通じて、法治圏の経済回復に障害を生み出しうるし、金融の安定性にリスクを課しうる。広汎な債務不履行と、債務支払い能力が欠如するリスクがあり、加えて、貸し手の健全性と主権者との間には分離しがたい内的関係がある。
    健全な金融制度は、過剰債務問題に注目する場合、重要であり、逆もまた真である。金融の提供者として金融機関は、債務のリストラ問題で、システム全体で過剰債務問題を解決するうえで、借り手についてのその豊富な情報用いることで重要な役割を演じている。同じ通貨の裏側では、金融仲介機関は、過剰債務の負の経済効果により、顧客の成果や信用ポートフォリオを通じて影響を受けている。それゆえ金融当局には、過剰債務問題から金融安定リスクが現実化することを防止するうえで、金融仲介機関がこの問題の解決の一部であるように動機付ける役割がある。
   この論文は過剰債務問題を3つの角度から見ている。①COVID-19の環境における法人の生存可能性をいかに評価するか。②生存できる会社の債務の適切な時点でのリストラと資金再調達をいかに容易にし動機付けるか。生存できない会社の退出をいかに容易にするか。③小中規模の企業、微小会社にとくに注意しつつ、債務リストラの二ーズを持つ多くの会社をいかに取り扱うか。(中略)

本文 2.金融の安定性にとっての含意
 法人そして個人起業家の過剰債務は,3つの長期問題を引き起こしうる。①生存可能な法人の過剰債務が引き起こす過少投資。②生存不可能な法人に対する誤った資源分配。そして③起業能力喪失による生産性の喪失である。経済学者たちは、これらの問題、特に最初の二つの、会社とより広い経済の成長と強力な回復にとっての有害な影響について、長い間、議論してきた。
 過剰債務が引き起こす過少投資。過剰債務という用語の標準的定義は、非金融法人に生じる過剰債務の重荷に言及している。過剰債務は、法人にとってプラスの現在価値をもつ投資のため貨幣を再調達する誘因を減少させる。というのは、これらの投資からの収入のほとんどは、現在の株主や新たな投資家に対して支払われるのではなく、既存の債権者が保有する債務の支払いにつかわれるであろうからである。そこで過剰債務は過少投資を導き、そして経済の産出と生産性の落ちこみをもたらすのである。
 生存不可能な法人に対する資源の誤った分配。その資産の清算価値が継続体としてのその価値より高いとき、会社は生存不可能とみなされる。清算されていない生存不可能な会社は、他の会社が事業機会をつかむことを妨げており、新たな会社の参入に抵抗しており、人やその他の資産を捉えている。(そのすべてが)より低い総投資あるいは経済成長につながっている。状況の緊急性が急激な支援を必要としたのであるが、大量の政策パッケージが生存不可能な法人の維持につながったかは懸念となるだろう。大きな信用保証の国々では、信用の再配分は少なかった。COVID-19後の時期において、生存不可能な法人への潜在的資源の誤った分配の問題はより重要な課題になる。なぜなら地球規模の構造変化は、より早く意味のある資源の再分配を求めるからである。(中略)

4.債務リストラと生存可能な会社への新たな貨幣の供給
4.1   概観
 依然として経済的に生存可能なビジネスモデルを持つ困窮会社は、適切なバランスシートのリストラを受けるべきである。このことはより広い経済にプラスの影響があるが、債権者側の長期的な利害でもあるべきだ。しかし正しい方法と慣行を欠いては、このこと(リストラ)は起こらず、銀行の低い収益性、低い投資と生産性、そして金融安定リスクにつながるだけである。(中略)

Box.4  選択された債務と半株式(hybrid)の道具
二重転換債doble convertible debt   
 投資家に対して転換債は、保有債務をあらかじめ定められた株数に交換する取引所へのオプションを与えている。所有者は発行会社の株価が上昇すると利益がでる。転換債はその会社の株式価格上昇に参加する機会を提供するので、通常の債券より低いクーポンレーートで発行されうる。
 二重転換債は、その所有者に債券を固定された価値で債券を株式転換することを許す二番目のオプションを含んでいる。株価が下落すると転換債保有者はより多くの株式に転換する権利をもつ。最終的に十分低い価格では、保有者は、その企業を支配する印に十分な株数を与えられる。
状況依存債state contingent debt 
 状況依存債務(貸付)条項により、元金と利子の返済が、経済の状況と結び付けられている。産業あるいは事業自身が不利な状況があれば、支払いは自動的に停止され、あるいはかなり削減される。(中略) 
優先株preferred equity
   
優先株はダイルーション(株式の権利の希薄化のこと)を伴わない、高価であるがしかしノンリコースの資金調達方法を提供している。優先株の所有者は配当の受け取りと清算時において、普通株の所有者に比べてずっとまさった位置を占めている。(中略)

Box 6 債務偏向の法人税への着目。法人株式への割り当て。
 法人所得税制は一般的に会社債務への利子の控除を許しているが、株式への報酬は税控除できる費用ではない。資金源泉の間の税制の扱いの非対称性は、株式を資金源とする場合の資金コストを増やし「債務偏向」を生み出し、さもなければ選択された水準を超えて債務の使用を励ましている。この債務偏向は、より高い債務不履行リスク、債務支払い能力の欠如、そして景気循環での変動制を高めている。実証的文献は、非金融企業と債務偏向との関係を確認している。
 債務偏向に取り組むための一つの可能な方法は、法人株式への割当体制ACEである。このACE体制の下では、債務のコストの控除と並行して、会社は株式に対する帰属報酬を法人所得税ベースから控除できる。株式への帰属報酬は、法人の長期債務のへの平均利子と等しくなるだろう。原則においてこの税制は、金融選択を歪めないし、投資の最適水準にも影響しない。(以下略)(訳注 この議論は債務と株式との理論的差異を無視しているので違和感がある。株式に出資するということは自己資本に出資する、つまり経営リスクを負担するということであり、利子と同じになるというのはおかしい。)(以下略)


main page: https://note.mu/hiroshifukumitsu  マガジン数は20。「マガジン」に入り「もっと見る」をクリック。mail : fukumitu アットマークseijo.ac.jp