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Foreign Exchange 為替相場 

(2023年8月19日校正済)
為替相場を考える前提
 
為替というと為替手形のことを指す。あるいは為替を使った送金のことを指している。
 為替手形は、送金に際して、現金を送る代わりに銀行から振り出される証書であり、受け取った側はそれを地元の銀行に持ち込むことで換金できる。要するに送金の手段である。電信為替は、相手の口座に直接入金するもの。銀行はこの行為に対して、手数料を受け取る。
 これに対して為替相場は、異なる通貨間の交換レートのことを指している。為替の需給、つまりは通貨の需給で決まると考えればよいが、その需要がどこから出て来るかをまず考える。輸出入で考えると、沢山輸出している国、つまり交易で黒字である国の通貨が求められる。また通貨価値が安定している国の通貨求められる。日本の円については
1)日本は世界最大の対外純資産国である。利子・配当の所得収支が貿易収支に代わり、日本の経常収支はなお黒字である。しかし2022年については、ウクライナ戦争による資源価格高騰の影響などで、貿易赤字が急拡大。加えて欧米ではインフレを抑えるため、金利を引き上げる動きがあり、為替は大きく円安に振れた。
2)日本化。米欧も低インフレ・低金利へ移りつつある。その結果、円為替の動きがかつてに比べて小さくなっている。

為替相場についての二つの主要な学説
以下の二つがある。短期的には金利平価説。長期的には購買力平価説のあてはまりがよいとされる。
1)購買力平価説(PPP)purchasing power parity theory 物価水準で均衡すると考える。つまり物価上昇の早い国の通貨が弱くなり(交換レートが不利になり)、弱くなったところで均衡する。
2)金利平価説 (IRP)  interest rate parity theory 金利が示す期待収益率で均衡すると考える。金利格差が開くと金利が高い国の通貨が強くなる。金利格差開く ドル高(円安)進む。より高い金利で運用できるドルの投資対象としての相対的魅力が低下して相場はドル高になったところで均衡する。低金利の通貨を売って、高金利の通貨に乗り換える動きをキャリー取引という。この動き自体が、相場を変動させる。
 この金利平価説の応用で以下にように解説される。
日銀の金融緩和(金利引下げ)政策・米国の景気回復(物価上昇懸念 米での金利引き上げ)⇒日米金利格差拡大⇒ドル高(円安)(なお円キャリー取引carry trading 円を売って高金利通貨を買うもこの情況に関係がある)
日本の景気回復・米国の金融緩和(金利引下)政策⇒金利格差縮小⇒ドル安(円高)

輸出入額と為替の推移(2017-2022) 金額:億円 為替は1ドルあたり円 
暦年 輸出額(a) 輸入額(b)    (a)-(b)     経常収支 TTS     TTB 
2017   772,535    723,422       49,113    227,779    113.19   111.19
2018   812,263       800,998       11,265    195,047    111.43   109.43
2019   757,753       756,250         1,503    192,513    110.05   108.05  
2020   672,629       644,851       27,779    159,917    107.82   105.82
2021   823,526       805,903       17,623     215,363    110.80   108.80
2022   987,688     1,145,124   -157,436    115,466     132.43   130.43    
    資料 貿易収支と経常収支は国際収支総括表(財務省 億円)
    為替相場は年間平均値(三菱UFJリサーチ&コンサル)
    本資料は2023年8月19日に旧資料に代えて挿入

 第二次体制後 ブレトンウッズ体制とよばれる国際協調体制のもとで、各国の為替相場は事実上釘付けpeggedあるいは固定されていたfixed。しかし1970年代初頭から変動floating為替相場体制に次第に移行し、現在は変動相場制になっている。この移行時期と、国際的な金融取引の急速な拡大時期とは重なっている。為替相場の理屈としては、長期的な動きを説明するものとして購買力平価説purachasing power parityがある。この考え方では通貨の購買力が均衡するところに為替相場が収束する。各国のインフレ率がマイナスの、経済成長率がプラスの影響を与える。短期的な動きを説明するものとして金利平価説interest rate parityがある。この考え方ではより高い金利を得ようとする裁定取引arbitrage transactionsが、金利を均衡させるところで為替相場を収束すると考えられている。

2019年7月末の米国の金利引き下げとその結果 
 米国の10年半ぶりの金利引き下げ(2019年7月31日パウエルFRB議長) 本来は米株高要因だがパウエルが長期利下げ局面入りを否定したため、米株価はかえって下がりそれにつれて日本株下落 米株下落からリスク回避の円買いも進んだ(株安・円高)。こうした場合、日本側の対抗措置として金利引き下げが問題になる。 

一般的に為替と企業業績との関係は
 たとえば円高は企業収益を下押しする(ドルで収益を得ても円で評価すると目減りする。また国内製品の場合は、ドルでみた製品単価が上昇して売り上げが減少する。)。⇒その結果、業績悪化・株安となるとされている。株安は個人消費の落ち込みにつながる。このように為替と株価には連動性interrelationがみられるとされてきた。(しかし企業は海外現地生産・原材料などの現地調達進めており為替感応度は低下している。外貨収入で外貨支払いを相殺する操作(marry)も進む。電機・建機など強い競争力のある分野では円建て決済もすすんでいる。)

リスク回避risk aversionと為替相場 
 他方でリスク回避が強まると、ドルや円などリスク回避時に選好される通貨が強くなる。このような選好は、ドル安・円安の動きを相殺することが知られている。その結果、アメリカの金利引き下げに対して、日本が金利を後追いで実施しても、リスク回避の問題が起きると、円買いが起きて、円高という結果になることもある。
⇒「ドル高・円高」有事のドル買い・リスク回避の円買い 

少ない日銀の更なる金融緩和余地
 米FRBが今後金利引き下げを継続した場合、円高を避けるため日銀も追加緩和(例 短期政策金利の引き下げ 長期金利誘導目標の引き下げ 国債、ETFなどの買い入れ拡大 買い入れ対象の拡大など)に踏み切るか否かについて関係者野意見は分かれている(異次元緩和が始まってから日米の金利が同時に下がる初めての状況で関係者も先を読み切れない)。しかしもともと低金利政策を行ってきた日本は、更なる金融緩和余地に乏しい。
 また更なる金和は副作用が大きい一方、実行しても大きな効果は期待しにくい。超低金利が続いたことで、地方銀行の体力は損なわれ(平成25年2013年4月量的質的緩和政策 平成26年2014年10月追加緩和決定 平成28年2016年1月マイナス金利政策決定 2月同左導入:円高防止策だったが実際は金利低下と円高が同時進行 平成28年2016年7月ETF買い入れ拡大(3兆から6兆へ) 平成28年2016年9月長期金利を0%程度に誘導へ 平成29年2018年7月長期金利変動容認幅の拡大+フォワードガイダンス 金融機関の収益悪化 銀行株価下落懸念 リスク回避)、投資家の運用も厳しい(年金などの運用に打撃)、市場規律・価格形成にゆがみなどの副作用がでている。すでに超金融緩和の副作用が出ているなかで、さらにそれを深掘りすることはこれらの副作用を拡大する恐れがある。要するに、低金利で日銀が政策対応で取れる余地はほとんどないのが現実だ。
 加えて米中対立、英国の欧州連合からの離脱、令和元年2019年10月からの消費税率引き上げ(8%から新聞・食料品を除き10%へ なお前回の引き上げは平成26年2014年の5%から8% 消費税は平成9年1997年に5%で導入)など、波乱要因(リスク要因)は山積みである。金融緩和措置をとっても、リスク回避からの円高となり、追加緩和の意味をなさない展開も懸念される。米国の追加緩和が米景気を押し上げ、両国の株価を押し上げる展開、円安・株高が期待される展開ではあるが、そうならない可能性も高い。

ジャパニフィケーション(日本化)
 欧米では、金融緩和を続けても物価が上がらないことを日本化:ジャパニフィケーション(あるいは低成長・低インフレ・低金利の罠に落ち込むこと)というようになった。物価とか金利は、経済システムの体温計だった。財政出動余地が乏しかった日本は、過度に金融政策に頼って、デフレから脱出しようとした。その結果、その副作用として、これらの体温計を壊してしまったのではないか?ということが、そろそろ議論されてよいのではないか。
 この罠からの脱出の道は、まず金融緩和措置の継続拡大でないことは明らかだろう。現代貨幣理論MMT: modern monetary theory(通貨の発行権を持つ政府はいくらでも債務を拡大することができるとする議論)を健全財政の立場から否定するのは、財政支出の効率性という観点からも正しいと考えるが、デフレ脱却への有効な道が見えないことにある。
 また穿った見方をすれば、政府は日銀に超低金利政策をとらせて、国債費負担を軽減する「金融抑圧政策」を実行してきたともいえる。巨額の国債残高にもかかわらず、日本の財政が破綻しないのは、政府が意のままに中央銀行を操り、超低金利政策を実行させているからである。MMTを批判する政府・日銀も、財政の節度についてMMTと同様に甘やかしているように思える。ではこの政策は間違っているのだろうか。

米国が金利を引き上げた場合
 今後、米国の景気が回復して、逆に金利を引き上げる局面では、多額の国債を抱えた日本は、安易に金利を引き上げられない。すると金利格差が広がり、為替は円安になる。そして日本が低金利政策から抜け出れないとすれば、円安局面が長引く恐れがある。他方、株価は企業業績の改善により株高になることが見込まれる。

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