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朱山坡「天色已晚」『朔方』2014年第2期

  2014中國短篇小説排行榜  百花洲文藝出版社 2015,pp.104-110(『朔方』2014年第2期原載) 著者の朱山坡チュー・シャンポー 1973- は南京大学中文系卒 広西省玉林市在住の作家である。食糧難の時代に肉を買ったことにまつわる思い出は、多くの中国人にとって強烈だったようで例えば以下の記述を参照。
 「肉を買う」趙平『私の宝物 泣き虫少年のあの日の中国』連合出版2017年1月pp.56-76

    この短編は「僕は3ケ月17日肉を食べていない。僕の3人の兄も2人の妹も同じだ」という衝撃的なフレーズで始まる。86歳の祖母の誕生日だというので母は僕に6元を持たせて、3斤(1斤は0.5kgなので1.5kg)の肉を買いに行かせた。必ず3斤だよ(必須是三斤!)、と母は念押しする。肉屋は僕の心の中では町の中で最も重要な場所だ。肉屋と細い道をはさんで映画館があり、肉屋の盧大耳がその切符も売っている。僕はお金がないので映画の音を聞く。この映画の音を聞くのも久しぶりだ。映画は日本の『伊豆の踊子』だ。この映画館はほとんど新しい映画は上映されない。僕は音を聞くうちに、どうしても主人公の女性を見たくなり、映画館に潜り込んでしまう。ところが盧大耳にみつかり、さんざん叱られる。盧大耳と言い争ううちに、僕は入場券代として2元を払ってしまう。そして王様気分で映画を見たはいいが、すでに冬の夜は早く暗くなり、3斤の肉を買うめども立たず僕は途方にくれてしまう(我不知道如何是好。擡頭一看,天色已晚。)。肉屋はすでに閉店準備。僕は思わず大泣きする。その時、盧大耳が声をかける。3斤!4元でいいよと。僕はにわかに信じられなかった。「いらないのかい、なら俺が持って帰るよ、俺もしばらく肉をたべていないんだ。」僕は4元を彼の手に置くと大急ぎで家路についた。兄や妹が村の入り口ですでに待っているに違いない。祖母もまた横たわってお腹を伸ばして待っている。

コメント:3ケ月ブリに肉を買う思い出があり、なぜか日本の古い映画が、繰り返し上映されている情景がある。3斤はそれなりの量だが、久しぶりということがポイントだ。その肉を家族で分け合う生活があり、肉屋の店主とのやり取りがある。肉屋は、主人公の手許金が不足している事情を呑み込んで「4元でいいよ」と声をかける。大家族が、主人公が、肉の包みを抱えて帰ってくるのを待っている。日はすでに暮れかけている。
   それでもう一つの「問題」はこの小説の中で上映されていた「伊豆の踊子」。実は何回も映画化されているので、そのどれが上映されていたのか?これは関心を呼ぶ点である。今の段階では、はっきりしないが、追って明らかにできればと考える。
    参照 外国文学名著導読55 伊豆的舞女 無涯猫

#天色已晚     #朱山坡   #中国短編小説 #中国文学

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