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かんぽ生命の不適切販売

かんぽ生命が不適切販売問題で揺れている。
かんぽ生命の不適切販売 東洋経済2019/07/19
かんぽの不適切販売問題(まとめ)西日本新聞2019/07/14
かんぽ保険料二重徴収 日経ビジネス2019/07/11  2016年頃から横行
過重なノルマに現場は限界 西日本新聞2019/07/10
かんぽ不適切販売問題 女性自身2019/07/10

 一見この問題は、2017年10月保障性商品(貯蓄性の商品と違って払い込んだお金に比べて回収できるお金が必ず少なくなる保険商品)の販売が始まって以降の乗り換え販売に伴う問題に見える(高齢の顧客には利益がない、保障性商品を契約させたり、既存の貯蓄性商品から乗り換えさせる問題)。しかし以下の東洋経済の記事が問題にしているのは実に2013年に発生した事件。つまり保険契約をめぐるトラブルは相当前から発生しているのではないか?またその背後にあるのは、郵便局の過酷とも思えるノルマ営業である。これは自爆営業として10年以上前から指摘されながら、放置されている問題である。自爆営業は郵便局員が自腹でノルマを達成する行為だが、高齢者などの客を強引に損をさせてノルマを達成する営業は、今度はノルマと損失をその義務とは無関係な顧客に転嫁する行為(具体的には高齢の顧客に強引に十分な説明をしないまま、顧客に利益がない保障性商品を勧めたり、既存の貯蓄性商品をそれより不利な保障性商品に乗り換えさせたり、乗り換え契約より営業報酬が高い新規契約に見せかけるため期間を二重化させたりなどの行為)だといえる。もともと郵便局にあった、時代錯誤のブラックな体質=ともかくノルマを達成しなかれば、雇用を継続しない、あるいは昇任・昇格もない、といった鞭を使うやり方が、かんぽに持ち込まれたのではないのだろうか。

郵便局員の呆れた不正 東洋経済2018/11/19
自爆営業 Wikipedea

 ところで今回の事件の発端になったと思われるのは2018年4月24日付けの以下のNHKの報道である。問題の背景に営業マンのノルマ、営業報酬の問題、営業研修の在り方の問題などが関係していることが、この時点でも報道されている。しかし依然として郵便局におけるノルマに頼った運営が改められていないという告発が続いている。問題は個々の郵便局員にもあるが、営業研修の在り方、内容、営業報酬の在り方などを、顧客志向の視点で徹底的に見直さなければ、郵便局の再生はないのではないだろうか。営業地盤が限られている地方では、高齢の顧客に強引に販売する問題が起こりやすいと考えられる。郵便局の業務はそもそも、郵便業務がネットに置き替えられてゆき構造的に赤字に陥る問題があり、利益を金融業務に依存している。とはいえ地方では、営業地盤は限定され露骨に縮小しつつある。そこに旧態然としたノルマを掛ければ、問題が生まれるのは明らかだ。問題が民営化という方向から生まれていることも明らかだ。ではどうすべきなのか。
 そもそも営業採算に合わなくなっている郵便事業をどうするかの議論が必要だろう。電子メールや携帯が普及したたなかで郵便事業は、そもそも維持する必要がなくなっている可能性が高い。ゆうちょ銀、かんぽ生命についても、民間金融機関と十分競合できるかは、疑わしい。他方、郵便局を社会のインフラとして残す議論については、郵政民営化法の議論でも確認されたように一定の社会的合意がある。郵便局の業務をスリム化し財政的に自立させることはもちろん必要である。民間企業(銀行や宅配便業者を含め)や官庁などの窓口、社会全体の基盤(社会インフラ)として再生するべきではないか。

NHKクローズアップ現代 郵便局が保険を押し売り2018年4月24日

 なお、かんぽ生命の不適切販売については、日本郵政保有の「かんぽ生命」株売り出しが2019年4月に行われたことから(4月4日発表 4月23日実施1億3667万株 売出価格2375円 2015年11月の上場時6600万株売出 売出価格2200円より大規模)、情報開示が適切であったかも問われている。かんぽ生命株はその後、不適切販売問題の報道が続いたこともあり、8月2日の終値は1739円と低迷している(郵政民営化法では、日本郵政が保有する金融2社株をできる限り早期に処分することとされている。2019年4月の売出はこの方針に沿って日本郵政のかんぽ生命についての持ち分を89%から64%に引き下げるもの)。
 日本郵政ではこの売上を、政府が保有する日本郵政株の買い取りにあてるとのこと。日本郵政をめぐる政府保有株については、郵政民営化法で下限を3分の1超と定めている。政府は日本郵政株の持ち分を現在の57%超から郵政民営化法に定める下限まで売却する方針だったが(2019年4月発表)、年内の売却は困難になったとみられている(政府は日本郵政株をこれまで2015年11月の上場時、2017年の9月と2回売出。2019年秋の売却は3回目であった。)。
 日本郵政をめぐっては、2019年4月から、ゆうちょ銀の預入限度額(この規制は、ゆうちょに対して置かれている規制で民間金融機関にはない。このため、ゆうちょはこの規制が負担になっている主張している。預金保険制度上の一般預金等について一金融機関ごとに元本1000万円とその利息、決済用預金については全額という保険限度額とは別物である。)が、金融庁および民間金融機関の反対を押し切る形で1300万から2600万に引き上げられた(このような預入限度額規制は民間金融機関には置かれていない。)。ゆうちょの預入限度額引き上げは、2016年4月の1000万から1300万への引き上げに続くもの。この規制緩和には、日本郵政の経常利益の過半をゆうちょ銀が稼ぎ出しているなか、民営化を進め、できるだけ政府保有日本郵政株を高値で売るため、ゆうちょ銀の経営環境を改善する問題が絡んでいると思われる。2019年秋、政府保有日本郵政株を民営化法下限まで売却することは、この限度額問題にもみられる官製金融批判を和らげるためにも必要であったが、今回兄弟会社かんぽ生命の不適切販売問題で実現が困難になった形である。 

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