區慕彰     羅文華《中國銀行業發展史  由晚清只當下》香港城市大學出版社2011年pp.47-51

p.47 中国銀行の前身である、清末の1905年に設立された大清戸部（財政部）銀行は中国で最初の政府関係（官方）銀行である。1908年に同行は大清銀行に改組され、1911年に大清銀行は全国で最大規模の銀行となり、その役割（功能）は相当程度当時の中央銀行であった。
　1912年2月に溥儀が退位し清朝は正式に滅亡し、大清銀行もこれに伴い、改められた。中華民国が成立後、孫中山が臨時大総統のとき、臨時政府財政部総長の陳錦濤は、孫中山、袁世凱及商股股東の同意のもと、大清銀行を中央銀行の権利をもつ中国銀行に改組した。（中国銀行は）国庫の代理をし、紙幣（鈔票）を発行する特権を持ち、かつ当時の交通銀行と共同して中央銀行の職能を履行する。
　1916年に袁世凱は軍費を集める（籌集）目的で、中国銀行と交通銀行に兌換停止を命じた。すなわち両本店は市民に向けて紙幣を白銀と交換することに同意しない（不准）と。この命令はたちまち大波を起こすものであった。幸いにも当時海外留学から帰国した若き銀行家、26歳の張嘉璈（字公權）と34歳の陳光甫は、兌換停止は中国銀行の信用を破産させるだけでなく、すべての中国の其の外の銀行の名声（聲譽）にも打撃となり、
p.49  中国金融業が外国銀行の束縛から離脱（擺脫）することはとても困難になってしまうと考えた。そこで上海中国銀行の若い管理者たちは、兌換停止命令を固く履行せず、併せて訴訟を算段して（香港の司法覆核：司法審査と似たことをして）袁世凱の命令の執行を引き延ばして、また上海滙豐銀行など外資銀行や当時の社会各界の支持を獲得し、上海中国銀行の危機を回避せしめた。このあと張嘉璈はあちこちに商股を勧誘し、同年のうちに商股が官股を超過した。1923年になると中国銀行は張氏の指導の下、基本的に商辦銀行になり、北洋政府の統制を離脱した。
　袁世凱は帝政復活を企図したものの、民心を得られず、反対を受け、1916年3月（帝を称して100日後）帝政の解消を宣言し、そのあと憤死してしまった。その後、中国は政治的に混乱した時代に入った。1927年に蒋介石が南京で国民政府を組織すると、中国銀行は再び政治の嵐（風雲）に巻き込まれた（捲入）。
     国民政府成立後、中央銀行の設立が定められた（擬定成立）。その準備過程で、時の財政部長宋子文は、陳光甫の建議により、中国銀行を改組して中央銀行とすること、条件は新銀行の名称は「中央銀行」と必ずすること、政府の股份は商股より多くなることーを一旦思索決定（考慮）した。この条件は中国銀行の張嘉璈により婉曲に謝絶され、新設の中央銀行は別途設けられることになった。
　1928年に国民政府は中央銀行を別に設けた。最初の中央銀行総裁は当時財政部長の宋子文であった。宋子文は開幕式で、中央銀行設立の目的は三つあると述べた。(1)全国貨幣制度（幣制）の統一。(2)全国の金庫の統一。(3)国内の金融の調整。
   中央銀行設立と同時に、国民政府は「中央銀行条例」を公布（頒佈）し、中国銀行を「政府特許の国際為替送金銀行（国際匯兌銀行）」に改組し、国庫事務の一部の代理に責任を負わせ、併せて官股に500萬元を加えてもとの商股と併せて2500萬元とした。この時商股は80%をなお占めた。総経理が責任を持つ体制を実行させ、基本はなお資本主義発展に向かわせた。改組後の国際匯兌銀行（すなわち中国銀行）はなお張嘉璈が総経理にあたった。その細心の注意を払った経営のもと、中央銀行は経営の営業成績の各項目で等しく国内銀行で首位であり。中央、交通及びその他銀行のはるか先を行き、税関（海關）や郵政局と前後を争うこと（并駕齊驅）ができた。
p.50　中国銀行の十分な（雄厚）実力と絶えず拡大する領域（版図）は蒋介石に欲望（覬覦）を引き起こさせた。金融独占を実行するため、国民政府は中国銀行を統制するしかなかった。そこで1935年に南京国民政府は再度中央銀行に改組を実行し、官股を1500萬元増やし、同年の金融公債発行をもってこれにあて（撥款）もとの股と合わせて4000萬元とした。国家財政部は役員（董事）を派遣、当時財政部長の孔祥熙（上海四大財閥家族の一つ。山西の生まれ。蒋介石は連襟女性兄弟の夫、つまりその妻宋靄齡は蒋介石の妻の宋美齡の姉）は宋子文を会長（董事長）に任命し、総経理の職は宋漢章に担任させた。中国銀行に22年在職した張嘉璈は免職され、鉄道部の部長職に移された。米国大統領のWoodrow Wilson(威爾遜)はかつて次にように述べた。「すべての偉大な企業家はなにか理想がどこでも流れているものだ。」張嘉璈の行為はこの話をまさにこの話を証明している。1976年5月、張嘉璈はインタビューを受けた時、話しがこの転職に及んだときに次のように述べた。「財政当局は銀行を国庫にしたいとし、私は銀行は銀行、国庫は国庫としたいとし、この点で意見が合わなかったことが、私が中央を離れた最大の原因だ。」国民政府は成功した、中国銀行はこの時の改組により、南京政府の活動（運作）に組み入れられ（納入）国庫となった。国民政府が1949年敗戦により台湾に逃れるまで。
   張嘉璈を引き継いだ中国銀行会長の宋子文は、また素晴らしい背景（大有來頭）があった。その父は牧師で豊かな商人であり、孫中山に従う革命の支持者であり、その本人と長姉宋靄齡の主人である孔祥熙、次姉の主人である孫中山、妹の主人である蒋介石の関係は密接であった。蒋、宋、孔、陳はまた国民政府の四大家族と呼ばれた。
　宋は若くして上海聖ヨハネ（約翰）大学に学び、のちに米国に赴きハーバードで経済学修士、コロンビア大学で博士を取得した。またかつてニューヨークNational Banking Corporation(花旗銀行)で見習いを経験。そこで一般の人々は宋の財政経済観念は孔に勝ると考えていた。孔は山西の票号（送金為替を主業務）の出身で、現代の財政経済にはほとんど理解がなかった。宋子文は中国銀行の会長を引き継いだのち、分支店を厳格に管理し、各行の資金を調整（調動）し、併せて業務計画（方案）を定め、基準（標準）を定めた。このほか宋子文は銀行の内外業務の発展を特に重視して、国内に多くの分行を設立するとともに、併せて1936年6月そして1937年7月にシンガポールとニューヨークとそれぞれ分行を設立した。
p.51　宋子文の特殊な身分と厳格な経営管理により、彼が中国銀行を指導している間に、中国銀行の業務は顕著に向上した。しかし実際の成長速度は通貨の膨張速度にはるかに及ばなかった。1942年から、中国銀行は中央銀行の後塵を拝するようになる。1944年に孔祥熙は宋子文に代わって中国銀行会長になり、宋子文は中央銀行総裁に昇任した。
　宋子文は1943年に『Asian Wall Street Journal』でその資産は7000万米ドルと推計され、米国のGeneral Motors(通用汽車)やDu Pont(杜邦公司)に投資しており、すでにグローバルな金持ち（首富）だと報道された。長期にわたり要職を歴任し、巨額の富を形成したが、宋子文は長年国民党の汚職腐敗の代表の一人と非難され続けた。米国の政治作家のムーア・ミル（墨爾米勒）が公に述べたところでは、蒋介石はかつて米国政府に約束通り援助金が中国に届かないと質問したときに、トルーマンは中国政府の不正（貪污）を指摘し、これとトルーマン本人そして米国政府は全く無関係だと指摘した。
　1949年に中華人民共和国が成立後、宋子文は香港を経て米国サンフランシスコに隠居した。駐米大使に任ぜられた胡適の彼に対する評価は「子文は長所も多いが、ただ我慢（耐心）がない。」1971年宋は小さな宴会のおり、誤って鳥の骨をのどにつまらせなくなった。享年77歳。
　宋子文の財産問題は、遺産分割書によれば、彼の名義の流動資産は100萬米ドル、不動産価値が約400萬米ドル。（この数字から）多くの学者や歴史専門家は、宋子文が中国の官僚（官場）に無理解であった、人間関係が悪かった、いわゆる宋子文が公金を汚職して巨富をなしたとの言い方、これらの多くは政治上の誹謗によるものと考えている。2004年に宋子文の米国税務管理局の保存資料（檔案）が公開され、米国のフーバー研究所がこの資料により知りえたところでは、宋子文は中国のため米国に対し軍事財政援助を求め心を尽くしている（殫精竭慮）。宋子文の日記の中で台湾中国銀行会長の職務を離れるときつぎのように記している。「外界における私への誹謗はまったくあたっていない。国家民族への責任のため。ただ心はそこにあった（淡然處之）。」（大陸の）新華網は2008年12月5日「宋子文の真実　清廉に公務を務める　国家の富強を抱負として」なる文章を発表した。

中国銀行史　1912-1949
新中国建国以前中国金融史