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中国現地法人の出口戦略と撤退実務 2014

    『中国現地法人の出口戦略と撤退実務』(前川晃廣)2014。この本は一般的な出口戦略(事業からの退出方法)。きんざい(金融財政事情研究会)の2014年発行。発行当時、おりからの日中関係悪化を反映して時宜にかなった本だと妙に感心した。
 ただ著者によると、外資に対する様々優遇措置が2008年前後に一斉になくなっている。2008年1月1日施行の企業所得税法により企業所得税率は25%になった。これまでは33%の基本税率が外資系企業は15%に優遇されていた。高度新技術事業に15%という優遇は残ったが毎年の申請と審査が必要。さらに2008年からは二免三減制度もなくなった。これは黒字化してから2年間は税率をゼロに減免、3年から5年までは税率を15%の半分の7.5%とする優遇措置だった。このような中国側の姿勢の変化も、出口戦略が求められる理由であるようだ(2章4項)。
 出口として、解散・清算、破産・清算、出資持分譲渡、実質減資の4つがまず並べられている。しかしよく読むと、破産・清算では人民法院が介入、債務(普通破産債権)の3割カット、180日以内に終わらせるルールなどが存在する(その結果、破産にすると取引先の日系企業にも迷惑が及ぶ)。ために実際に選択する企業は少ないとのこと。また中国では減資は原則禁止されているとのこと(債務超過を消すための増減資は例外的に認められる)。つまり4つの中では解散・清算と出資持分譲渡が現実的な選択肢であることが分かる(1章1項から5項)。
 しかし解散・清算であれば経済補償金をもらえる従業員からは、出資持分譲渡は歓迎されない、とのこと。とはいえ出資持分譲渡には、特別な許認可は不要で、土地使用権が値上がりしている場合、投資額より高くなるなど、メリットもあるようだ。
 解散・清算は、経営年限が満了になった場合(経営年限は土地の使用権の年限に根拠があり、中国では土地は使用権なので無形資産に計上され定額償却されているとのこと 2章1項),董事会および株主会で解散の決議をした場合、法令により解散を命じられた場合、可能。決議は独資企業(外資だけが出資者の企業)は問題がないが、合弁の場合は期限の3年前から合弁の相手と話し合いを始めた方がよい(合弁期日の半年前に決議必要)。ただし清算に際して、従業員に対する経済補償金の支払いが必要になることには注意が必要(2008年の労働契約法で明確化、見えざる負債と呼ばれる)(2章2-3,6項)。
 参考になったのは、労働者が納得して労働契約解除に応じる「合意解除」にいかに持ってゆくか、という実務家らしい説明の部分(4章14項以下)。地元の労働局とも相談し、経済補償金を割り増しするなどして、すみやかに労働契約解除に持ち込むこと(労働局の仕事を減らすので労働局にも歓迎されること)が説明されている。清算にあたっての従業員奨励福利基金、労働組合費などへの気配りも指摘されている(4章31-32項)。
 中国で解散して撤退するとき、残余財産を持ち帰れないという日本のマスコミの一部の報道があるが、合法的に処理を進めれば、残余財産を持って帰ることができる(2章2項末尾)。
 以上のほか、企業の合併・分割、営業譲渡・資産譲渡が説明されている。
 本書における、出口戦略の問題は、企業の撤退時の記述として普遍性もある。また2008年を起点とする税制上の外資優遇措置の廃止の説明、あるいは土地使用権の会計上の処理の話も大変明快で参考になった。本書が提示する海外進出は、行きっぱなしではなく、そもそも出口もにらむものという感覚は貴重だ。

    (外資に対する優遇する形で、外資を国内に引き入れる政策が終わってゆくということだが、2008年に出てきた問題は、国内の企業所得税が33%、外資への優遇税率15%を改めて、企業所得税率25%に一本化する所得税法案である。2010年12月には外資企業に対しても都市建設維持費、教育付加費徴収が宣言されて、これで内外企業の税制は統一されたとされる。)

#外資優遇 #中国 #土地使用権 #二免三減 #経済補償金

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