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取引所改革

 幾つかの論点がある。一つは日本取引所G(=2013年1月発足 金融商品取引法ー金融庁が所管)と東京商品取引所(東京工業品取引所が農産物取引を引き継ぎ東京商品取引所発足)を統合しようというお話(総合取引所構想)。これは繰りかえし議論されながら実現してこなかった。とくに大阪取引所としては、商品をも扱い企業のリスクヘッジの場としての取引所の意義を訴えたいところ。当期利益は2018年3月期。

      日本取引所G  東京商品取引所   参考 東京金融取引所
資本金    115億円   19億8900万円       58億4465万円
従業員数  1093名(連結) 84名(連結)        84名
当期利益  50,604百万円  △790百万円        106百万円

 注目は東京商品取引所が財務上は完全に赤字となっていることだ(2015-17年度3期連続赤字 18年度も赤字見込み)。誰もそう書かないのだがこれは救済合併であり、本当は、経済産業省幹部の責任が追及される情況ではないのだろうか?連続赤字は、事業会社であれば、事業の存続の可否を考えるべき段階ではないのだろうか?逆に証券取引所と一体になれば、赤字経営は解消されるのだろうか?
   総合取引所のお手本のシカゴマーカンタイルは、世界のデリバ市場で取引高1位、商品のほか株価指数先物を扱う。同2位のインターコンチは傘下にニューヨーク証券取引所を収める。世界の取引所はデリバティブ市場で競っており、商品取引をそのメニューに加えることはこの競争上メリットがある。・・・これが公式の説明だが、実態は行き詰まった東京商品取引所の救済が狙いではないのか?ところが東商取(経済産業省)はなお生き残りを考えているため、問題はこじれている。
  2019年夏にもTOB方式で日本取引所Gが東商株を100%取得するとのこと。二つの取引所の規制が一本化すると、参加業者にすれば、参加資格が一つで済み参加コストを節約できる。証券取引と連動する商品取引もあることから、両者の取引の拡大、新たな投資家の形成につながることも期待されている。しかし東商取(経済産業省)の側は大部分の取引を東商取に残し、電力先物などを入れてエネルギー関連の取引を強化する方針で、商品先物取引法のもとでの取引の継続を主張している。そうなると、東商取は独立性をたもったまま、日本取引所G傘下に加わるだけになる。たしかに東商取の赤字問題は消えて、経済産業省の責任問題は消えるが、果たしてこれが意味のある取引所改革だろうか?
  一般の株式投資家にとって意味がある取引所改革として、今注目されるのは、救済合併の総合取引所構想ではなく、東証の一部市場へ内部の昇格基準厳格化(2部・マザーズからの場合 時価総額40億以上と直接上場の250億以上に比べ拡大に緩いことを見直す)の動きだろう。現在は、昇格基準に差があるため、多くの企業が2部…マザーズなどにまず上場後、内部昇格の緩い基準(時価総額20億・10億以上)を使って1部昇格を目指している。この結果、1部企業に小粒な企業が目立つようになっている。この緩い基準は、東証が一部上場を餌に、2部・マザーズに新興企業を呼び込む「戦略」をとった(2002年)ためとされる。一部=優良大企業という前提ではこの状態の是正、1部昇格基準厳格化は好ましい。
 しかし基準の強化が、新規上場数を押し下げるリスクはある。世界的なカネ余りの中で資金はファンドからも入手できる。上場はかえって経営の自由度を下げ、経営判断のスピードを下げてしまうと言う意見もある。すると基準の強化は、上場を避けようとする傾向に拍車をかけるのではないか?
 厳格化は好ましいのだが、現在1部に居る企業にすると将来的には選別され1部から排除されること(あるいは1部の中で選別が行われること)に抵抗があるという問題もある。またTOPIX(現在は東証1部全銘柄で構成)の構成銘柄をどうするかとも関係する。いろいろ考えると、関係者の利害は複雑で、この話=厳格化は簡単に進まないかもしれない。
 なお取引所の改革で、一般の投資家にも意味があるのは、マザーズ、ジャスダック、東証2部の3市場を成長企業向けと中堅企業向けの2市場に再編するお話。こちらは1部昇格基準厳格化に比べ、誰も傷つかないし、市場の簡素化にもつながるので、まとまるだろう。

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