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敵対的企業買収hostile takeovers

 経営者に敵対的な、つまり現在の経営者を追い出そう、といったタイプの買収を敵対的買収という。注意されるのは、敵対的買収をすれば、経営陣がそれに対抗することほか、退陣について巨額報酬を要求することになるので、結果として、買収金額が上昇しやすいということ。また公開買付takeover bids:TOBで目的を達成しようとすることが多い。
 ところで買収金額は、買収対象企業の規模が大きくなれば当然増える。かつてはそのことが、大きな企業を買収から守っていた。そのことが成り立たなくなったのは、LBO(借金による企業買収 leveraged buyout)が一般化したからである。LBOという買収手法の登場によって、買収対象の企業にとり規模の大きさは必ずしも、買収の防壁にならなくなった。
 LBOという手法が登場する一つの背景は、買収でカネもうけをたくらむ買収ファンドと呼ばれる資金運用手法の拡大である。こうしたファンドが、金の出し手の一つになっている。また一般の金融機関も今や企業買収資金の有力な出し手である
 こうしたファンドなどからの借入れは結局、買収された企業の債務となるので、利益を急激に高めることを買収された企業は迫られる。人員の削減など、経費削減策が買収後、展開されることがしばしばあるのは、買収の手法が関係している。
 これに対して、経営陣承知の上の買収を友好的買収friendly takeoversという。現経営陣が買収側に入るものを、MBO(management buyout:MBO 経営陣による買収)というが、MBOは友好的買収の一つだといえる。経営陣はこの場合、買収ファンドなどに頼るわけだが、買収ファンドは短期的に利益を上げて資金を回収するのが普通であり、買収後、経営陣と経営方針で対立することがある。
 とくに親会社が子会社を再編するような場合、子会社の経営者が、MBOという手法で親会社株を買い取り、独立することがある。上場している会社が、非上場化のために、MBOという手法で市場の株を買収することもある。
非公開会社の場合は、株主への利益還元を気にしないで、投資に資金を振り向けるなど、経営の自由度が高いことが非上場化の一つの理由として知られている。

日本では敵対的企業買収はまれだった
 日本での大手企業同士の敵対的企業買収は2006年に旧王子製紙による旧北越製紙への敵対的買収が初めて。しかもそのときは三菱商事が北越の第三者割当増資を引き受け、企業買収は成功しなかった。2019年3月、伊藤忠がデサントに対して敵対的買収をしかけ成功したことは、日本で大手企業間敵対的企業買収が成立した初めての事例として注目されている。

伊藤忠によるデサント買収
 2019年1月31日伊藤忠が5割高のプレミアムでTOBを実施して、デサントへの出資比率を3割から4割に引き上げることを発表。2月7日デサントが反対意見を表明、敵対的TOBであることが明確になった。TOBの期限は3月14日。3月15日伊藤忠により結果が発表された。
 結果は、伊藤忠の持ち株比率は3割から4割に上昇(買い付けを限定)。しかしほかの株主からの賛成を加えて議決権の過半を確保する情勢となった。伊藤忠では、デサントに対し、社長をはじめとする役員の入れ替え(社長は伊藤忠出身者に交代。役員構成を6-2-2から2-2-2に変更)、経営方針の見直しに進む方針(その後6月20日の株主総会で役員人事は実現)。
 伊藤忠とデサントの間では経営方針をめぐり長年対立が続いていた。昨2018年8月デサントがワコールと提携したあたりから、伊藤忠ーデサントの亀裂が深まり、伊藤忠はデサントに断らず、デサント株を買い増しするようになっていた。そしてついに一方的にTOB実施を宣言することになった。
 今回の買収について、伊藤忠が完全買収を目指さず40%までの中途半端な買い増しをしたことは巧妙である(重要事項に対する拒否権は確保)。完全買収でないことで買収に対する批判を少し和らげ、他方で少ない追加投資で実質支配をねらったともいえる。なにより確実にTOBが成立する水準を想定したとも考えられる。
 またデサントは、敵対的TOBに対して、ファンドの力を借りてMBO=非上場化、ホワイトナイトを探して第三者割当増資などで対抗することもできたが、なお反対意見を表明する以上のことはせず、争わなかった(そもそも2018年12月に、デサントがMBO構想を伊藤忠に示したことで伊藤忠側の岡藤社長が激怒し、敵対的TBOに進む判断をしたとされる)。とはいえ業態の違いを無視して単純に比較すると、伊藤忠の売り上げ4兆8380億円にたいして、デサントの売り上げは1424億円(2.9%)。今回の敵対的TOBは、言うことを聞かない小さな会社を、大会社が力づくでねじ伏せた印象は否めない。これは、今後の伊藤忠のビジネスには長期的にはマイナスだろうか?あるいはプラスに働くのだろうか?
  
 なお伊藤忠―デサント問題と並行する形で、ヤフーとアスクルとの対立も注目された。両者の対立は直接には、アスクルのネット通販事業「LOHACO]をめぐるもの。ヤフーは同事業の業績改善を名目に同事業のヤフーへの譲渡をせまった(2019年1月)。これをアスクルは拒否。2019年8月2日、ヤフーは(45%出資)はプラス(11%)と組んで、岩田社長と独立社外取締役の再任選任案を否決した。これは一見大株主の数の力を使っただけのように見えるが、岩田社長だけでなく3人の独立社外取締役まですべてを数の力で再任に反対したことは極めて異常だ。自分たち以外の株主への配慮を欠いている。また独立取締役が指摘したように、大株主であるヤフーがアスクルに対して事業譲渡を求めたが、この取引がアスクルにとって不利である場合、その行為はヤフーの株主であるという自身の立場と矛盾している(利益相反になっている)可能性が高い。ヤフーが今回行った、社長だけでなく独立社外取締役の再任までをも拒否する荒療治は、企業ガバナンスの基本を無視するもので遺憾だ。

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