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徐偉新 等《中國新常態》2015

 新常態new normalについては2014年5月以降の習近平の発言により、中国は新たな経済状態に対応せねばならない、という経済面での文脈で使われることが多い。
 しかし新常態には、政治・思想面に重点を置いた説明が今一つある。以下は徐偉新 等著《中國新常態》人民出版社,2015年, pp.1-125からの抄訳。徐偉新は中央党校副校長で全体の調整を行ったとのこと。10人の実際の執筆者の名前が巻末にある。参照 p.124 本書は党員向けの教材だと思われる。

p.1 はじめに:新常態の中国特色社会主義に向けて歩め
 党の十八大(十八回党大会のこと 2012年11月8日から14日開催 訳注)習近平同志を総書記とする党中央は、全党全国人民を団結させ導いて、多くの新たな歴史的特徴のある偉大な闘争を進めるなかで、固く決心して中国特色社会主義の道路を歩み、中国特色社会主義理論体系をさらに豊富にし、中国特色社会主義制度を不断により完全にし、新たな歴史の起点において、中国特色社会主義を堅持発展させ、中国特色社会主義の新局面を切り開き創造した。
 ”二つの前になかったもの”:中国特色社会主義新常態の問題の先にあるもの(導向)
 党の十八大以来、中国特色社会主義事業はまた新たな困難な(爬坡過坎  坂道を張って上り難所を超える)重要な段階に入った。党の直面する改革発展の任務の重さは前例のないもので、矛盾リスク挑戦の多さもこれまでにないものであった。中国特色社会主義新常態は、まさに(既是)問題が逆に推進し生み出したもので、また問題を解決する過程で深化したもので、またわれわれの党が主体的に問題に対してきた問題であるとともに、困難に立ち向かい、怠ることなく探索した実践の結晶である。
p.2  (1) 転型昇級で"中等所得の罠"を跨いで進む
(中略)
 目下、わが国のGDPは一人当たり6000米ドルの水準を超えようとしている。関連する研究によれば、国家というものはこの段階に到達すると、もともともっていた発展に有利な点(優勢)を次第に失う。労賃の面では低所得(収入)国家との競争になすこともなく陥り、また先端技術の研究製造の面では高所得(富裕)国家との競争になすこともなく陥る。もはや低所得であることで中等所得に進む発展モデルは繰り返すことは不可能であり、又抜け出ることも困難であり、経済成長の停滞と低迷(徘徊)にとても簡単に陥る(很容易出現)。それゆえもとの粗放型経済発展モデルを抜け出て、転型昇級に努力し、発展の新たな路を作り出すことは、”中等所得の罠”を跨いで進む鍵である。党の十八大以来、我々が経済の正常(健康)発展を促進し、経済新常態を形成し、歩んだのはまさにこの路である。
p.3 (2) 内外で努力して(内外兼修)”ヘロドトスの罠”を避ける
 "大国の興隆(崛起)は必ず戦争を招く"。古代ギリシアの歴史学者ヘロドトスは述べている。「戦争を避けらえなくしている原因は、アテネがますます力量が巨大(壮大)であることと、またこの力量がスパルタに恐怖を生み出していることにある」。(これは)”ヘロドトスの罠”とよばれる。一つの新たに興隆する大国は、当然、現存の大国に挑戦することになり、現存の大国もまたこの脅威(威脅)に対応する(回應)、かくして戦争は避けられなくなる。今日我々は名称とその実際ともに(名副其實的)まさに興隆する大国であり、これは人々の憂慮(擔憂)を引き起こす。·2014年1月22日《世界郵報》創刊号のインタビューを受けて、習近平総書記は述べた。「我々は皆”ヘロドトスの罠”に陥ることを避ける努力をするべきだ。強国は中国を中国を適当に利用して覇権を追求するべきではない(ここの中国語原文は少し変で直訳では”強国は中国を適当に利用せずに覇権を追求できる”となる。そこで少し意訳した。訳注)、中国はこのような行動の原因を作らない。」(そして)我々は自身に独特の和平発展の道を進むべきだと強調した。
 党の十八大以来、我々は単独で(一手抓)国防軍を建設し、一つの隊伍を組んで党の指揮に従い、戦争に勝てる(能打勝仗),作風の良い人民の軍隊を建設しようと努力してきた。外交工作を単独とし、大国のイメージを作り上げ、国際関係を上手に行い、国際責任を履行する。内外で努力して、和平発展の新たな路を歩み始めねばならない。
 (3) 双輪駆動(改革と法治の両輪を進めることを指す 訳注)で大国のガバナンス(治理)をより完全にする
   新中国成立から60余年、とくに改革開放から30余年、中国経済社会は快速発展し、我々は数十年の時間を用いて西欧の数百年の工業化発展道路を完走し、時空圧縮式発展を実現した、その目で見えるとおりである(成就有目共睹)。しかし快速発展と同時に、我々は一連の矛盾と問題を蓄積させた。貧富の矛盾、労資の矛盾、都市と農村の矛盾、幹部と大衆の矛盾などの矛盾が日増しに表面化(突出)、生態環境悪化、
p.4   腐敗蔓延、貧富格差(差距)拡大、階層固定化などの問題も日増しに顕現化(顯現)、人々の請願(信訪)案件,集団騒擾(群體性)案件はますます多く、西欧で数百年間に続々出現した問題がわが国では一挙に登場した(集団中顯現出來)。
   これらの問題はすべてシステムの問題(系統性的問題)で、システム的に考える必要があり、システムの方式によって解決できるものである。根本的には、このような問題を解決するには、改革が待たれるし(靠改革)、また法治が待たれる。それゆえに、党の十八届三中全会は改革の全面深化を提起し、党の十八届四中全会は法によって国を治めること(依法治國)の全面推進を提起した。改革の全面深化と依法治國の全面推進とは、車の両輪にように、(そして)鳥の両翼のように、国家のガバナンスシステムとガバナンス能力現代化を実現する密接不可分の二つの過程である。(この)双輪駆動を通じて、中国特色社会主義国家のガバナンスの新たな路を努力して歩み始めよう。(中略)

p.27  わが国の発展は今(仍處於)重要な戦略機会(機遇期)にある。我々は信ずる心を強めて、現在のわが国経済発展の段階の特徴から出発して、新常態に適応し、戦略上は平常心態を保持する(習近平)。
 2014年5月に習近平総書記は初めて(このように 訳注)”新常態”を提起した。11月には北京で開会されたAPEC会議で系統だって”新常態”について論述した。さらに12月に招集された中央工作会議において、わが国が経済発展新常態に入ったこと、経済発展新常態を主体的に把握し積極的に適応する必要があることを強調し、新常態は党中央指導にとり経済発展さらには国家の政務を行う上で(治國理政)の新理念となった。(中略)
p.28  経済発展の総量、数量からみて、わが国経済発展は「速度転換期(增速換擋期)」にはいった。我が国の経済成長はもともとの10%前後の高速成長段階から次第に年平均7%前後の中高速成長段階に移る過渡にあり、7%前後の平均成長は今後の一時期の経済成長の常態になる。経済成長の規律がわが国経済成長速度の転換を決定する。我が国経済のカサ(体量)は巨大で、経済成長は 
p.29  国内外資源、環境、労働力などもろもろの圧力と挑戦を受けている。10%前後の高速成長はすでに不可能であり、必要でもない。成長の調整、緩慢化はすでに必然的であった。
   経済発展の質から、(すなわち)効果と利益からみて、わが国の経済発展は”構造調整の陣痛期”に入った。こう言わねばならない。この数年わが国はずっと経済構造調整を推進してきたが、この仕事(任務)はまだ未完成である。産業構造方面では、生産能力の過剰が深刻(厳重)であり、低級(低端)産業は昇級を急いでいる(亟待升級)。地域(区域)の構造方面では、地域発展の態勢が不均衡で、一部の区域は空洞化の困難に直面している。(生産)要素構造方面では、人口ボーナスは次第に小さくなり、人口高齢化は勢いを増し、生産要素コストは上昇している。まとめるなら、長期累積的構造性矛盾ははっきり表れており、構造調整も当然なされねばならない(勢在必行)が、”陣痛”も免れ難いところである。
 マクロ調整の方向は手段からみると、わが国経済発展は”前期刺激政策消化期”に入っている。誰もが知るように2008年の国際金融危機のマイナスの影響に対応して、わが国政府が実施した4兆は内需と産業振興などをけん引した、包括的(一攬子)刺激計画であった。客観的に言って、この刺激政策はわが国経済経済を迅速に高いレベルに上げて安定するのに(企穩回升)重要な作用を発揮した。また世界経済にはバラスト(壓艙石)の役割を果たした。しかしどのような政策も二面性がある。この刺激政策が伴った通貨膨張の圧力は大きく、金融資本はバブルに向かい(脫實向虛),地方債務が膨張し、産業発展畸形などの後遺症は、後期のマクロ調整の難度を増加させた。
(中略)

p.42  国家のガバナンスシステムとガバナンス能力の現代化は一種の全く新しい政治理念であり、我々の党が社会政治発展規律に対してもつに至った新たな認識を示すものである。それは改革開放30余年来のわが国現代化建設成功経験に対する理論総括であり、政治現代化の重要な現象(表徵)であり、(同時に)またマルクス主義国家理論にとって重大な創造(創新)である。
(中略)
            民主発展新実践
  人民民主は社会主義の生命であり、中国共産党が高く掲げる旗幟である。党の指導を堅持し、人民を主人とし(当家做主),法により国を治め様々なことを統一し(依法治國有機統一),社会主義民主政治制度化、規範化、序列化(程序化)を推進することは、国家のガバナンスシステム(治理体系)とガバナンス能力の現代化において、当然あるべきことがらである。党の十八大以来、習近平同志を総書記とする新たな一届中央指導グループは、
p.44   わが国の政治建設の実践経験を総括して、一連の新思想、新観点を提出し、中国特色社会主義民主発展の新常態を作り上げた(形成了)。
    (1)党の指導を堅持し、人民を主人とし、法により国を治め様々なことを統一し、党の人民指導が国家のガバナンスに有効であることを保証する。多くの龍がいるが首がない(指導者の不在 訳注)、バラバラで団結がない(一盤散沙)現象は徹底して防ぐ。まさにここに新常態がある。
 中国共産党の指導は中国特色社会主義のもっとも本質的特徴である。共産党がなければ、新中国はなく、新中国の繁栄富強もない。中国共産党の指導とは、人民が家の主となること(人民実現当家做主)を支持し保証することである。党が全体を掌握すること(總攬全局),各方の指導中心作用と協調し、人民代表会制度を通して、党の路線、方針、政策と決定策の処理が、国家の工作の中で全面的に貫徹され、有効に執行されることが堅持されなければならない。国家政権機関が憲法法律に従い主動的に、責任を独立して負い、一致協調して工作を展開することが、支持・保証されねばならない。(中略)
 (2)国家のすべての権力が人民に属することを堅持し、人民が法により民主選挙を実行することを保証し、また人民が法により民主的に政策を決める(民主決策)、民主管理、民主監督を実行することを保証し、選挙時なんでもいいといい(漫天許諾)選挙後は誰もきにかけない(無人過問)といった現象を全力で防ぐこと。まさにここに新常態がある。
 (中略)
p.45  (3) 民主制度を健全にすること、民主形式を豊富にすること、これらをさらに重視すること、各層各領域で公民が秩序を保って政治に参与することを拡大すること。まさにここに新常態がある。
(中略)
  (4)人民の主体地位を堅持し、人民代表大会制度の理論と実践を創新し、人民代表大会制度の根本政治作用を発揮すること。まさにここに新常態がある。
 人民代表大会制度は人民を主人とする主要形式である。
p.46  中国国家のガバナンスシステムとガバナンス能力を支える(支橕)根本政治制度である。人民代表大会制度を堅持しより完全にし、重要領域の立法をさらに強化して国家の発展を確かなものにする、重大な改革は法によるものとし、改革の政策決定と立法の政策決定とをさらにうまく結合する。”一府両院(人民政府、人民法院、人民検察院のこと。法院とは裁判所である。人大による一府両院への監督が存在する一方で、党もまた監督する二重構造になっていること問題はいくつか考えられるが、人大の機能強化が新常態の内容として入っていることをここでは注目しておきたい。訳注)”は、人大が生み出したものであり、人大に対し責任を負っており、人大の監督制度を受けることで完備させる(健全)。人大の討論を、重大な事項制度を決定し、各クラスの政府が重大な決定政策を実行に移す前に報告する場として完備させる。人大の予算決算審査監督、国有資産監督職能を強化する。各クラスの国家機関は人大代表との関係を強化し、人民大衆との関係を強化せよ。無心に人大代表、人民大衆の意見や建議を聞き取り、社会の関心に対して積極的に対応し、自覚して人民の監督を受け、真摯に工作中の欠点や誤りを正さねばならない。
   (5)中国共産党が指導する多党合作と政治協商制度を堅持より完全にし、社会の各種の力量の協商と協調を強化し、協商民主の広範で多層な制度としての発展を推進する。まさにここに新常態がある。
(協商民主で選挙民主とは異なる形での民意の吸収の方法が議論されている。そこには多様な形式が存在するようだ。協商民主については日本語の研究論文も散見されるので詳細はそうした専門論文に譲る。訳注)
 (以下略)

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