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コロナが中国の医療保険と地方財政に与えた影響 2020-2022 

ゼロコロナ対策と医療保険
 2023年2月に中国で起きた白髪運動では、中国の医療保険がコロナで受けた負の影響が、医療保険改革につながったとの指摘があった。最初に「医療保障事業発展統計快報」を読んで、どのようにコロナが記録されているかを確認する。
 読み取った結論を最初に述べると、医療保険については2020年に取られた企業納付金の削減措置は大きな影響があった。ただそれを除くと、コロナが医療保険に与えた影響は意外に小さい。収支統計から確認できることは、2021-2022年と医療保険の収支は急激に改善している
 では巨額のコロナ対策費はどこに影響を与えたのか。主として地方政府が負担し、地方財政の更なる悪化をもたらしたのではないか。というのがここでの仮説である。事実、地方政府の巨額のコロナ関連支出と地方財政の悪化が伝えられつつある。   

まず2019年の「快報」にはコロナに関する記載がなかった。これに対して2020年「快報」では最後に九番目に以下のように記載された。
九.感染予防と納付軽減
 企業の負担を減らし、工業と産業の復興を支援するために、職工医療保険単位からの納付金(缴费)の徴収を段階的に軽減した。2-9月の間975万社の医療保険単位への軽減額は累計で1649億元に達した。そのうち企業向けの軽減は1500億元以上である。全力で感染予防を行うため、各地区の医療保険部門は、新型コロナ肺炎患者を一定期間収容治療する組織のための資金194億元をあらかじめ確保した(预拔)。1年間の新型コロナ肺炎患者の治療費用は28.4億元であり、そのうち医療保険基金は16.3億元を支払った。
(コメント)雇用主に対して総額で1649億元の巨額の納付軽減措置が取られたことがわかる。これは医療保険の収支にマイナスの影響がある。しかし政府がどの程度、このマイナスを補ったかは書かれていない。また軽減措置に関する記述は2020年だけである。以降の年には軽減措置がどうであったかの記述がない。コロナ患者の治療費用の記述もこの2020年だけである。逆に2021年以降詳しく書かれる検査に関する記述はまだない。

2021年の「快報」からは、頭から3番目に「感染予防」の項目が建てられ、ワクチン接種とPCR検査のことが記述される。ただ2021年には、そのコストは書かれていない。
三.感染予防
 基金収支のバランスを保つとともに、新型コロナ肺炎の治療と新型コロナウイルスワクチン接種とを実現するために、2021年末までの全国では累計で28.3億回ワクチンを接種した。PCR検査(核酸計測)費用を合理的に引き下げるため、単独検査では一人40元はかかるところを、混合検査により一人あたり10元に費用を抑え、人々と政府の負担を有効に軽減した。
(コメント)ここでワクチンの接種費用やPCR検査費用の経費が、医療保険から支出されたことが、示唆されている。対象者は誰で、どの医療保険からどのように支出されたか、個人負担はなかったかなど、疑問は残る。

2022年の「快報」で、三番目の項目に「感染予防」が書かれている。ここで2021-2022年のあいだの、検査に伴うコストの総額が示されている。そのコストは地方政府にも出させたとあるが、地方政府と医療保険との分担の詳細は書かれていない。
三. 感染予防
 新型コロナ肺炎の治療と新型コロナウイルスワクチン接種とを持続的に行うため、地方(政府)を指導して規定により治療とPCR検査費用を支出した。医療保険基金のPCR検査の支出は年間で43億元だった。2021-2022年の新型コロナウイルスワクチン接種費用は全国で累計1500余億元だった(原注 医療保険基金と財政補助の合計)。ワクチン生産企業とたびたび協議することで、(中略)3種の技術路線で生産されるワクチンの価格は1回16元前後に統一された。医療サービス価格管理部門の職責を果たすため、各地を指導して新型コロナウイルスのPCR検査と抗原検査の価格管理を実行し、PCR検査は単独検査は一人16元以下、多人数混合検査は一人5元以下、大規模検査は一人3.5元以下、抗原検査は調剤検査を含め一人6元以下になるようにして、人々の負担と社会の感染防止コストを引き下げた。
(コメント)ここでワクチン接種費用の総額が2年間で1500余億元に達したことが示されている。しかし地方政府、中央政府、医療保険基金そして国民。それぞれの負担の詳細は不明な点が多い。この報告書で一つ明らかなのは、一人当たりコストを下げることへの強い関心である。他方でこの報告書には感染予防のため、居住区や都市を封鎖するといった措置を採用したことを、どう評価するかといった論点への言及は見られない。

年間      2020   2021   2022
基本医療保険     
収入      24638.61 28710.28 30697.72    
支出      20949.26 24011.09 24431.72  
間差        3689.35  4699.19  6260.00                      
間差対収入    14.97% 16.37%  20.39% 
職工基本医療保険
収入      15624.61 18698.03 20637.18  
納付金     14796.47 17778.07 19494.57
支出      12833.99 14863.02 15158.30
間差        2790.62   3835.01   5478.88                  
間差対収入    17.86%  20.51%  26.55%            
城郷居民基本医療保険
収入        9014.01  9742.25  10060.55
支出        8115.27  9148.07    9273.42 
間差       898.74   594.18     787.13   
間差対収入    9.97%   6.10%     7.82%
資料:「医療保障事業発展統計快報」各年
注)職工基本医療保険に生育保険含む  単位:億元

ゼロコロナ対策と地方財政
ゼロコロナ政策経費は主として地方政府が負担したのではないかと考えている。医療保険の方は幸い破綻を免れただけでなく収支を改善しているが、地方財政は支出が急激に膨らみ、債務を拡大して財政再建がむつかしくなっている可能性はある。
 しかし最初に事例として分析を試みた広東省全省一般公共予算では意外な事実が判明した。2022年について分析したところ、コロナに関連する経費の増加は、ほかの予算の圧縮により事実上賄われていた。この分析が、分析対象を変えたときにも妥当するかは、今後検討するしかない。ゼロコロナと、地方財政との関係については、予断を持たず慎重に数値を分析するしかないであろう。

中国の地方政府債務 警戒ラインに 日本総研 2022/08/26
ゼロコロナ 中国の地方財政を圧迫 Bloomberg 2022/09/08
中国の財政赤字 1-11月7兆7500億元で過去最大 Blooomberg 2022/12/21
地方政府のコロナ対策費 CNN 2023/01/17   広東省3年で1468億元 2022年は711億元 北京は約300億元 福建省3年で305億元 2022年130.4億元
姫田小夏 広州市の財政が底をついている Diamond Online  2023/01/20
     多くの病院が機能を停止した
地方政府のコロナ対策費 2022年3520億元 Reuters 2023/02/15
    広東省711.4億元 江蘇省423億元 上海167.7億元 北京約300億元


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