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アセットファイナンス asset finance

アセットファイナンス
 資産証券化について、今日はそれをアセットファイナンスと呼んでいいかを問題にします。大事なことは、アセットファイナンスという言葉に、手元資産を売って資金繰りをつけるとか、中小企業が主として頼る手法であるなど、消極的な響きがあることです(写真は鬼子母神堂)。
 アセットファイナンス。銀行のサイトでは、保有資産を活用した資金調達とでてきます。これは積極的な言い方です。しかし事業そのもの評価ではなく、保有資産の評価である点や、新規設備投資のための資金の話しではない点など、消極的な響きがあります。
 この問題を考えるには、問題を歴史的に俯瞰する必要があります。近年話題になったのはアセットを活用した資金調達asset-based financeです。さらに、資産証券化asset securitizationも問題になりました。同じアセットの文字を冠していますが、この三者(asset finance, asset-based finance, asset securitization)はどう分けて、説明できるでしょうか?
 asset finance from market finance 2022年10月7日閲覧 
 資産担保貸付asset-based lending CFI 2022年10月7日閲覧
   証券化securitization CFI 2022年10月2日閲覧 
    資産担保証券asset backed securities Investopedia 2022年10月2日閲覧
    アメリカの住宅金融と金融の証券化 2022年8月27日投稿

資産証券化とsales and leasebackの違い
 まず最後の資産証券化asset securitizationによる資金調達の問題は新しい、と思います。教科書的にはそうなのですが、企業が行き詰まったときは、手元にある資産を売却して、企業の存続を図ること自体は、実際には過去にもありました。昔から行われていることと、新しいこととが混じっているのです。そこで概念上の理解、整理を進める必要があります。
 在庫、売掛金、工場、建物などの保有資産ですね。企業が行き詰まったときに、これらを売る。あるいは場や建物については事業を継続するために、sales and leasebackという(身内に形だけ)売ったうえで借りて利用を続ける手法が使われたことがありました。
 資産証券化(この場合も売った資産を借りて利用を続けます)はこのsales and leasebackとどう違うのか。まず①問題となる特定の資産が生み出す収益力を問題にしています。責任財産というのですが、それが特定されて、その収益力が問題にされて証券化がおこなわれ、証券は投資家に売却されます。特定とは担保はその責任財産だけという意味です。ノンリコースともいいます。そして②アセットはしっかりと特別目的会社に売却され、③この企業とは無関係の第三者の投資家の資金が動員されます。つまりこの方法には、行き詰まったから資産を身内に売るということではなく、新たな資金調達方法の側面があります。

参考 リース会社に設備を転売してリース契約に切り替える
 sales and leasebackの「現代的」手法として、リース会社に設備を転売して、自社保有の設備をリース契約に切り替える。その代わりとして、転売代金を当座の運転資金として受け取るという手法があります。

証券化
    注目したいのは既存資産証券化には、資金繰りにとどまらない目的があることです。かならずしも資金ぐりだけでなく、資産の回転を速くすることが目的であり、資産効率を上げることが目的の一つになっています。証券化は、それなりに手間やコストがかかる手法です。現在のような低金利の世の中で既存資産の証券化が必ずしも縮小しないのは、資産効率の改善というメリットがあるからだと考えます。
 これから行う事業資金の調達である、事業の証券化(具体的には開発型の不動産事業資金調達やプロジェクトファイナンス)の場合は、親会社のバランスシートから外すことも大きな目的(事業開始により親のBSを大きくしたくない、事業のリスクを親に負わせたくない)―動機だと思います。
 証券化市場の残高調査(2019年3月末)2019年5月31日公表 これによると金融緩和が進む中、RMBS(住宅ローン債権、アパートローン債権などの流動化)、ショッピング・クレジット債権の流動化は残高を毎年増やしています。なお2019年3月末でこの調査で判明する残高は20兆2246億円、前年同期比5.7%増、RMBSの比重は87.7%である。また残念ながら2018年度以降の数字は現在公表されていません。

伝統的アセットファイナンスの手法 ファクタリング
 他方でネットでアセットファイナンスasset financeを調べると、ネット上のおおくのサイトでアセットファイナンスの筆頭に分類されているものは、売掛債権の買い取りであるファクタリング(企業の立場では売掛債権の売却)です。
 ファクタリングはリスクが買い取る側に移ることもあり、手数料が割高だとされています。ファクタリングが、資金繰りに困った中小企業が最初に頼る手法であることも事実です。
 アセットファイナンスの説明がファクタリングの説明になっている例
  アセットファイナンス(fatoring-site  biz)
 現在、アセットファイナンスを言葉で検索すると、ファクタリングを筆頭に入れたサイトが多数あります。実態をいいますと、これらはファクタリング業者が仕組んだサイトが多数を占めます。ファクタリングは正常な商行為であるとして、ファクタリング業者に誘導する仕掛けです。これは私の意見では、ネットの情報が歪んでいる一つの例です。
 ファクタリングに対する注意喚起(金融庁) 高額手数料を取る悪質な業者がいるので注意が必要。
 ファクタリング 三井住友ファイナンスリース ノンリコースであることが説明されています。
 保証ファクタリング 一般的に買い取りファクタリングをイメージしますが信用保証料を払う形で保証会社は保証料を支払うものがあります。
 保証ファクタリング 三菱UFJファクター

新たな手法 ABL ABS
 他方でこの10年以上ですが、話題を提供してきたものは、在庫ファイナンス(在庫は売掛金に比べ流動化が困難とされてきました)といわれるものがあります。在庫あるいは売掛金を担保に貸し付けしようとするものでABL asset based lendingともいいます。ファクタリングに注意喚起する金融庁が、ABLの活用を呼び掛けていることを以下で確認してください。アセットファイナンスとして、このABLや証券化であるABSなど債権流動化手法を近年話題になっているのです。
 金融庁 ABLの積極的活用を呼びかけ 2013/02/05
 ABLについて(金融庁)
 ABLの3つのポイント(topcourtlaw)
 最後に資産担保証券ABS asset backed securities。これでよく話題になるのは、小口債権を集合債権にして、流動化証券に仕立てた証券です。これは過去に行なわれた貸付が生み出した債権を流動化するものでした。
    ABS asset backed securities(SMBC日興証券)
 ABSについて(PIMCO) 

大手銀行におけるアセットファイナンスの説明
 実際にアセットファイナンスは以下のように大手銀行の説明では使われています。
 アセットファイナンス(みずほ銀行) 大手の都市銀行であるみずほ銀行がアセットフィナンスとして説明することは 売掛債権の流動化であり 事例として挙げているのABL asset backed lendingです。
 債権流動化(三井住友銀行)同様に三井住友銀行の場合ですが、今度はアセットファイナンス自体が項目として建てられていません。資金調達の中にストラクチュアードファイナンスがあり、それを開けると債権流動化という項目があります。さらにそれを開けると売掛債権流動化(ABCPスキーム)があらわれ、その説明のなかに、債権流動化を言い換えてアセットファイナンスといってます。
 債権流動化/アセットファイナンス(三菱UFJ銀行)三菱UFJ銀行の場合は、債権流動化をアセットファイナンスと言い換え、さらに「アセット活用型ソルーション」といい、それぞれに企業に最適なものを提供するとして、例としては、ABCP、ABL、ABFを上げています。
 小口債権を集合債権にするABSの仕組みが活かされていると考えます。
 これは昔からあるアセットファイナンスとは大きくことなるものではないでしょうか。 

商業手形の割引、フォーフェイトはどう考えるか
 以下の2つも資産の流動化と言えばそう言えるように思います。しかしアセットファイナンスとはいいません。これはどう考えればいいでしょうか?
 約束手形(商業手形)の割引(資金調達Bank) 手形の割引は日常的に行われている短期金融手法です。満期まで利子を差し引いて現金化するこの行為。これをアセットファイナンスに入れている資料はみあたりません。
 フォーフェイティング(JETRO) これは輸出業者が輸入業者に宛てて振り出す信用状付き荷為替手形を銀行に買い取ってもらうことを指します。ファクタリングと同じで、万一問題が起きても、銀行側に輸出業者に対する買い戻し請求権はない(ノンリコース)です。こちらも、アセットファイナンスに入れた資料はありません。

消極的に耳に響くアセットファイナンス
 まずアセットファイナンスという言葉には、消極的ニュアンアスが否めないと感じます。資金繰りが悪化した企業が、手元の売掛債権などを売って、資金繰りをなんとつけて、運転資金を確保する。そうした消極的な言葉のイメージがつきまとうということです。事業が評価されているわけではなく、手元の売却可能な資産の価値が評価されているーということでしょうか。
 ただ日常的に行われる、担保貸付、手形の割引や、フォーフェイテイング、はどうすべきでしょうか。事業評価の面もありますし、アセットファイナンスの側面もありますね。ここではそこまでも、アセットファイナンスに入れていおきます。
 ABSなどの新たな手法を使った債権流動化問題は、アセットファイナンスから分けてはどうかというのが、現在の結論です。
 他方で、プロジェクトファイナンスをどうしましょうか。これはこれから展開される事業資金の調達が、証券化の手法を使って始まってることを示します。これはこれから行われる事業の収益あるいはキャッシュフローを見込んでの証券発行です(このようにキャッシュフローを予測しやすい事業が選ばれます。高速道路とか、発電所など。)。これもアセットファイナンスから分けておきます。
 また証券化というスキームをとる動機としては、オフバランスシート化があることはすでに繰り返し指摘した点です。ある特定の事業を抜き出して、資金調達をするということがポイントです。
 言葉の使用法としては、この三者(asset finance, 資産担保貸付asset-based finance, 資産証券化asset securitizationあるいは証券化)は、以下のように整理されるのではないかと考えています。
 まずアセットファイナンスには英語の意味として、消極的なニュアンスが否めません。そこでこの言葉を売掛債権流動化やプロジェクトファイナンスなどからは切り離して説明する。証券化の手法を使うものとして、売掛債権流動化とプロジェクトファイナンスを説明する。コーポレートファイナンスと対比する概念として、プロジェクトファイナンスを説明する。ーこれが現在のところの三者をまとめた説明になります。

 アセットファイナンス    既存資産の担保差し入れ融資
               (資産担保貸付含む)    
               売掛債権の売却(ファクタリング)
               資金繰りと言った消極的イメージがある
 コーポレートファイナンス  企業全体の信用力を問題にしている
               典型は大企業が行う無担保借入れ     
 売掛債権流動化       SPCなど使い証券化の手法使うもの
               証券化はアセットファイナンスと分ける
               資金繰りのほか、資産の回転の狙い  
 プロジェクトファイナンス  いわゆる事業の証券化
               オフバランスシートの狙い

 なお銀行のサイトではプロジェクトファイナンスは以下のように説明されています。
 プロジェクトファイナンス(日本政策投資銀行) 対象プロジェクトのキャッシュフローに依拠したファイナンス手法としています。
 プロジェクトファイナンス(三井住友銀行) 対象事業のキャッシュフローを返済の原資とし、債権保全のための担保も対象事業の資産に限定する手法(ノンリコースともいいます)としています。
 電力料金であるとか賃貸料であるとかがイメージしやすいですが、ポイントは将来のキャッシュフロー収入が安定している施設の建設などについて、その事業資金を調達する。将来、入って来る収入を当てに事業資金を調達しています。
    プロジェクトファイナンス(Investopedia) 


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