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影の銀行体制 金融規制にとっての含意 FRBNY Staff Report July 2009 抄訳

Tobias Adrian and Hyun Song Shin, The Shadow Banking System: Implications for Financial Regulation, FRBNY Staff Report no.382, July 2009 閲覧 2022年10月11日 

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 現代の金融制度の顕著な特徴は、銀行業と資本市場との間のますます親密な結びつきにある。マクロ的に慎重な(macroprudential)規制の成功は、シャドーバンキングシステムの中で生み出される外部性を内部化できるかどうかにかかっている。現下の金融恐慌の前、世界経済は信用供給が豊富だという意味で「流動性で洗われているawash with liquidity」と描かれた。金融恐慌はこの特別の比喩を枯渇させた。この意味で流動性の本質を理解することは、我々を資本市場を囲んで築かれた金融制度における金融仲介の重要性と、信用供給の規制において金融政策が演じる決定的役割とに導く。
    重要な背景は、とくに合衆国における信用供給において資本市場の重要性の成長である。伝統的には銀行が信用の支配的供給者だった。しかし彼らの役割は、市場をベースとした機関、とくに証券化過程に関わる機関によりますます置き換えられている。

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図表1   2007年第2四半期(単位:兆ドル)
    GSE政府支援企業               3.2
 GSE モーゲージプール       4.5 
 Finance co.金融会社   1.9       商業銀行   10.1  
 Broker-Dealer                     2.9  貯蓄機関          1.9
   ABS資産担保証券発行者  4.1  信用組合          0.8

 Market Based                    16.6       Bank Based    12.8

 図表1は、合衆国について、銀行が保有する全資産と、証券化プールあるいは主に証券を発行することで資金を得ている組織との(資産の)比較である。2007年の第2四半期末(現在の恐慌の直前)において、後者のグループの資産はすなわち市場をベースとするものの資産は、銀行をベースとするものよりかなり大きかった。
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    市場をベースとするシステムの増加する重要性は、図表2から読み取れる。この図は合衆国における、家計部門、非金融企業部門、商業銀行部門、証券ブローカー=デイーラー部門の四つの部門の成長を図示している。すべてのシリーズ(各部門の統計数値)は1954年3月を1に基準化されている。

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     我々は経済のその他の部門と比較して、証券部門の驚くほど急速な成長を見る。図表3は水平軸が長期であるほかは、図表2と同じシリーズである。図表3から我々は証券部門の急速な成長は1980年頃始まったことを見る。
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     この証券部門の離陸は、合衆国金融制度の構造変化により説明できる。とくに居住モーゲージ市場の性質の変化と、証券化の重要性の高まりにより説明できる。

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    1980年代前半まで銀行は、住宅モーゲージの主要保有者だった。しかし銀行をベースとする保有は市場をベースとする保有に置き換えられた(図表4)。図表5において、銀行をベースとする保有には、商業銀行、貯蓄(金融)機関そして信用組合の保有が加算されている。市場をベースとする保有とは残りのもの、GSE(政府支援企業)モーゲージプール、民間製のモーゲージプールそしてGSE保有自身である。市場をベースとする保有が今では全住宅モーゲージ11兆ドルの3分の2を占めている。(中略)

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    証券化は貸付を包装して売却する行為として紹介される。証券化は銀行貸付に伴うリスクを分散することを意図しているー資金余力のある投資家が損失を吸収しリスクはシェアされると。しかし実際には証券化は、リスクを銀行部門に集中するように機能した。これには単純な理由があった。銀行やその他の仲介機関は、短期利潤にスパイスを加えようと、そのレバレッジを増やすこと、すなわちさらに負債を増やすことを望んだ。そこでリスクを等しく国中に分散する代わりに、銀行やその他の仲介機関はそれぞれの証券を借りたカネで買うことになった。その結果、証券化により、リスクは分散されるどころか、すべてのリスクが銀行自身に集中される、ひねくれた効果(perverse effect)をもつことになった。


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