生成AIが証券アナリストの仕事を奪う

1980年代の7年間は金融の世界にいた。東京霞が関を舞台に外資系の証券会社で株神話、土地神話が生まれた。だれもが浮かれてあのまま好景気は続くものと思われた。新米のわたしでさえ、虎ノ門に所狭しとあったカフェに立ち寄り、千円もするブルーマウンテン・コーヒーを飲んでいた。それほどよかったのである。

証券部門では100人ほどの職員がいた。スイス銀行東京支店。そこの証券部の中に20人ほどで構成される調査部があった。調査部の体制は部長を筆頭に副部長が3名。その下に株式アナリストがいて、その下にリサーチアシスタントがいた。アナリストが投資家に向けて作成する株式レポート。そこには特定の銘柄に対して買い・売りといった推薦が載っていた。

わたしは株式レポートも担当したがほとんどは経済レポートを担当した。エコノミストが書くレポートの中で経済指標とグラフをコンピューターを使って出力するというものだった。わたしはコンピューターを使った仕事が得意だった。ありとあらゆるグラフを作成してエコノミストに渡した。そうやって5年はあっという間に過ぎた。

先日、六本木にある政策大学院でセミナーがあった。金融における生成AIというタイトルだった。発表者はゴールドマンサックスに勤務する中国籍の女性だった。彼女はゴールドマンの環太平洋地区の技術担当。

セミナーは約1時間ほどだった。内容は前半と後半があった。前半では生成AIとは何か。金融分野における開発の現状を発表していた。開発プロセスのはじめのところが説明されており、機械学習をさせるところも一部説明されていた。

後半では生成AI、つまりChatGPTがどんなことができるのか。使うとどんなメリットがあるのか。それを説明していた。例として3つ。ひとつは証券アナリストのレポート作成支援。もう一つはうまく理解できなかった。そして3つめはフィナンシャル・アドバイザーのポートフォリオ出力がスライドで映し出された。

そしてどのような課題があり制約要因は何なのか。また倫理的あるいは政策上の懸念事項は何かということが発表されていた。

わたしは前半のところで生成AIはまだ発展途上であること。また金融分野で使えるのにはまだまだ未完成であることと理解した。発表自体が不足している部分があった。というのは、開発工程の全体像が発表されていなかったことによる。おそらくは開発をしながら使っていこうということだ。

発表時間が残り少なくなったころ、わたしにしては珍しく質問箱に投稿した。私の質問はこうだった。発表の中で生成AIの出力にアナリスト・レポートとポートフォリオがあった。ということは証券アナリストとファイナンシャル・アドバイザーの仕事を支援する。やがてはそのひとたちの仕事を奪うのではないか。彼らは奪われた後はより低い職位の仕事につく。または仕事が保証されていないような仕事につく。そういったひとたちをどう救うか。そういう内容の質問をした。

実際に投稿した文章は以下である。
Thank you for the presentation. This looks like a solution as well as a problem. AI may replace equity analysts and financial advisors. How do you save those workers who will lose jobs for lower and less secure jobs?

この質問に対する発表者の回答はともかくとして生成AIが証券アナリストの仕事を奪う可能性はある。というのは、この発表の数日前にある講演会をYouTubeで視聴していた。

講演会の内容はTalks at Googleの中にあり、発表者はアメリカの元労働省長官であったロバート・ライチ博士。彼はカリフォルニア大学バークレーの教授をしている。彼がGoogleの会場で発表した内容の中にこうある。

生成AIは問題であるとともに解決策でもある。問題は2点ある。それが発表の10分20秒を過ぎたところから語られている。

ひとつは将来、多くの労働者がより低い給与でどうやっていい暮らしができるかということ。そしてもうひとつはある職種についたひとたちが低い職位の仕事をせざるをえなくなり、その仕事がいつまでも安定していないこと。つまりいつ失われるかわからない仕事をせざるをえない状況に追い込まれる。そのひとたちをどうやって救い出すかというものだ。

わたしはこの元長官の懸念は生成AIの倫理リスクとして十分に考慮したほうがいいと考えている。証券アナリストの仕事は危ないかもしれない。

わたしが調査部にいたころには生成AIなどというものはことばさえなかった。コンピューターを使った仕事でさえ新しかった。バブルははじけたがそこには多くの証券アナリストがビジネススクールにいくという選択肢があった。そこではキャリアチェンジをするチャンスさえあった。

しかしいまアメリカのビジネススクールは2年間で2500万円以上する。私費ではとてもいけない。いったとしてもいい仕事を東京ですることは皆無に近い。

しかも証券アナリストの仕事さえも生成AIによって危うい状況になる可能性が出てきた。実際に起きてみてから慌てればいいが、現在東京で証券アナリストの仕事をはじめたばかりのひとは関心を持って将来のことを考えておいた方がいいだろう。

読者にとって参考になりますように。