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【こ】コリアンダー

僕はいまマレーシアのイポーというところに住んでいて、滞在歴はすでに4年と8ヶ月になる。
僕が赴任しているのはコンドームの製造工場で、世界60カ国ぐらいに輸出を行っているので、品質監査や生産機械の設置業務、単純な観光などで、たくさんの人が工場を訪れる。得意先だけではなくて、役人や技術者、業者さんや通訳の人などたくさんの人たちと食事をいっしょにしてきた。

イポーはマレーシアの中でも「美食の街」として知られていて、週末になると観光バスで遠方からたくさんの人たちが食事を楽しみに訪れるほどだ。

美味しいレストランがたくさんある中で、どんな料理をゲストに食べてもらうかというのは、僕の大切な仕事のひとつだと思っている。
マレーシアで美味しいものを食べてもらえば、それはとてもいい思い出になると思うからだ。食事の記憶というのはとても大きい。それだけでその国が好きになったり嫌いになったりするような気もする。

いっしょに食事をする前に、「なにか食べられないものや苦手なものはありませんか?」と必ず聞くようにしている。
アレルギーなんかもあるだろうし、世界中からお客様が来るので、宗教や信条上食べられないものなんかもあるかもしれない。

僕の経験上だけの話だけれど、この回答に対して、国や人種ごとに傾向があるような気がして、これがなかなか面白い。

ヨーロッパの人たちは「ベジタリアンだから肉は食べられない」とか、逆に「美味しいステーキが食べたい」とかそういうことを言う人が多かった。
「マレーシアはなにが美味しいの?」とか「エスニックな味付けの料理に興味がある」とかそういう人はあまりいない。
その割に出された料理は、食べられるものだったら何でも食べる。なんというか、食に対する態度が全く違うような印象だ。

中南米の人たちは「なんでも食べられるから大丈夫」っていう人が多かった。その言葉を鵜呑みにして、高級中華を連日食べてもらっていたら、3日後ぐらいに「ステーキがどうしても食べたい」っていう話になって、ステーキ屋に行ったら美味しそうに食べていた。僕はあんまり美味しいとは思わないステーキだったけれど、普段の食事での牛肉の消費量が全然違うのだろう。

東南アジアの人たちはもっと「なんでも大丈夫!」な人が多かった。もともと中華系が多いので、自国の料理も似たようなところがあるのだろうし、食に対する興味が最も強いのはこの人達な気がする。
また酒をたくさん飲むのはこの人達だという印象がある。ヨーロッパ人も飲むけれど、記憶があやふやになるまで酒を飲むっていうのはこの人達だ。僕も含めて。

一番面白いのは日本人で、いろんなことを言ってくる。一番多いのは「お任せします」っていうとても日本人らしい、こっちにとっては一番困る回答である。
「辛いものがダメでお腹を壊しちゃうんです」とか「ゲテモノは苦手で・・・」とかいうネガティブ派もいれば、「好き嫌いは全然ないので、とにかくマレーシアで美味しいオススメをお願いします!」っていうポジティブ派もいる。「イポーってもやしが有名ですよね。それを食べたいです」っていう事前調査派(これは本当で、もやしはイポー名物なんです。日本と比べるともっと太くて歯ごたえがあって美味しい)、「ビールが美味しい店がいいです」っていう、マレーシアがイスラム国家であることを忘れている日本居酒屋派、「美味しい日本食屋さんはあるんですか?」というわざわざ海外まで来てなに言ってるのかわからない派まで様々だ。

いろんな日本人がいるけれど、「パクチー(コリアンダー)が苦手で、食べられないんです」という人はとても多い。

彼らの話を聞いてみると、パクチーがほんの少し入っているだけで、その料理の味を全て支配されてしまって、食べられなくなってしまうというニュアンスだったりする。

基本的にパクチーというのは「薬味」であって、主菜ではない。

日本蕎麦にネギが添えられているのと同じように、その食事の味や香りを引き出すために使われたり、独特の風味がある川魚料理やお肉などの臭い消しに使われたりするもので、マレーシアでもそのまま食べる人はあまり見たことがない。

つまり他の料理と合わせて楽しむものであって、それ自体の味を楽しむものではないのである。

こういうことを説明した上で、仲がいい人だったり、食に興味がありそうだったりする人には、顔色をうかがいながら、料理と一緒に食べてみることを勧めている。

僕のマレーシアでの経験だけだけれど、ほとんどの人は「あれっ?」という顔で食べて、そのあとパクチーが食べられるようになる、もしくはパクチーが好きになってくれたりする。

その後に、マレーシアでよく食べているインドカレーには必ずパクチー(コリアンダーパウダー)が入っているんですよ、って伝えるとちょっとびっくりしたような顔になったりする。

この状態を見ていると、パクチーは「食わず嫌い」の代表的なものなのではないかと思う。

パクチーが持っている「臭い」というイメージに支配されたまま、ひとつまみだけそのまま食べてみて、それで嫌いになっちゃった人がとても多いのはないだろうか。
生姜だって世界を代表する薬味だけれど、最初に生のまま齧ったら嫌いになってしまうだろう。そういうのと同じだ。

僕は人生において、特に人間関係において、この「食わず嫌い」というのはとても損をしてしまっていう状態なんじゃないかと思っている。

人生は間違いなく「自分の人生に影響を与えてくれるような人」にどれだけ出会えるかによって大きく変わる。

こういう人はそんなにたくさんいないから、こういう人に出会おうと思ったらとにかくたくさんの人と会うしかない。

容姿だとか学歴だとか会社だとか未既婚だとか嗜好だとか金髪だとかTATOOだとかそういうものに偏見を持っていると、自ら出会いのチャンスを捨てているのと同じだ。

同時に、せっかく出会ったのに相手から拒絶されないように、自分を磨いておくことも重要だ。言葉遣いに気をつけておくとか、ちゃんと風呂に入るとか、破れた靴下を履かないとかそういう簡単なことなんだけれど。

その上で自分に必要がない人とは距離を置けばいいし、必要だと思ったらもっと深く付き合えばいいだけの話で、難しく考える必要はない。

人間はひとりひとり全然違うので、全員に好かれることも不可能だし、全員に嫌われることも不可能で、こういうシンプルなことを難しく考えすぎちゃってる人が最近なんだか多いような気がする。

僕はこのパクチーが大好きで、日本でもよく食べていた。ただしすごく値段が高くて、スーパーでもたくさん買えるようなものではなかったような気がする。記憶では20センチぐらいのパクチーがほんの3本位入っていて250円ぐらい。
春雨サラダにちょっと入れて風味を楽しむぐらいの感じだったんだけれど、こちらに来たら30センチぐらいのパクチーが10本ぐらい束になって50円ぐらいである。
薬味って言い切ったけれど、家庭ではこのパクチーを生のままサラダにして、オリーブオイルと塩胡椒とレモン汁で味をつけて主菜としてもりもり食べている。

僕は「嫌いな人」ってホントにいないんだけど、ちょっと変わった人が好きなのかも知れない。相手がこっちをどう思ってるか知らないけど。

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Hiroshi Hizawa

コンドーム屋でマーケティング・広告宣伝を担当したのち、現在はマレーシアの製造工場で社長。座右の銘は「人生面白いか面白くないかのどっちか」。好きなものは競馬、日本酒、巨人軍。あいうえお順に文章を書くチャレンジをしています。
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