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【き】キラキラ星

僕はいまマレーシアのイポーというところに住んでいる。

日本人がロングステイをしたい国ランキングで、マレーシアは13年連続第1位に輝いていて、治安もいいし物価も安いため、僕のまわりにも定年を迎えたあとの人生をマレーシアでのんびり過ごしている方々がたくさんいる。

朝の涼しいうちから夫婦でゴルフをやって、ハーフで切り上げてブランチ、その後昼寝をしたり本を読んだりして、夕方また涼しくなってきてからゴルフをハーフやって、ビール飲んで夕食をとって寝るっていう夢のような生活を毎日している方々がホントに実在するのだ。

イポーという場所は、マレーシアの中でも美食の街として知られていて、中華料理やインド料理などが、すごく安くてものすごく美味しかったりする。
決して日本では味わえないであろう食事がホントにたくさんある。
ポピュラーでとても美味しいワンタン麺なんかは100円ぐらいだし、年金をしっかりもらっている世代の方々であれば、余裕をもった生活ができるはずだ。

マレーシアにはイスラム教徒のマレー系の他に中華系とインド系の人たちが住んでいる。
マレー系の人はイスラム教徒なので「基本的に」お酒は飲まない。「基本的に」と書いたのは、イスラム教徒の中にもいろんな人がいて、信心深い人もいればそうじゃない人もいるということだ。

中華系とインド系は人によっては酒を飲む。日本人と同じだ。
飲む人はものすごく飲む。僕もたいがいだと思うが、インド系の強い人はホントに強い。中華系にはあんまり負けたことがないけれど。

一昨日も中華系の酒飲みと2人でウィスキー「Glenmorangie」1リットルを空けた。19時半からの飲み会で、彼は21時以降の記憶がないと言っていた。僕は会社を2時間遅刻をしただけで済んだ。

年に何回か会社のスタッフと酒を飲む機会がある。Chinese New Yearだったり年に1度の会社の大宴会だったりするんだけれど、この時に女性陣はバッチリメイクして、年齢やスタイルを全く気にすることなく、おしゃれでセクシーな格好をしてくる。

うちの会社の購買担当でコン(Khong)さんという中華系の女性がいる。僕と同じ歳で、いつも明るくゲラゲラ笑っていて、声がでかくて、モウマンタイ(無問題)が口癖のムードメーカーで、職場にひとりこういう人がいると雰囲気がとてもよくなるっていう典型的な人だ。

この人の酒がとにかく面白い。
職場でも大きな声が更に2倍ぐらいになって、いい感じに酔っ払ってくると他人にも酒を勧めまくる。
「ほらもっと飲め!モウマンタイモウマンタイ!」っていう調子だ。

僕にも挑んでくるので、徹底的に受けたあとに必ず返杯をする。散々飲んでそろそろ限界という時の彼女を見たいからである。

コンさんは「もうそろそろ限界」と感じると、両手を両耳の近くでヒラヒラさせながらキラキラ星を歌い始める。
眼を右と左に動かしながら「Twinkle Twinkle Little Star♪♪♪」って始まるのである。

今ではこれはいわゆる彼女の持ち芸になっていて、みんなこれが出るのを楽しみにしている。

あまり酒が強くないスタッフにとっては、これが出たらもうコンさんから飲まされることがなくなるので、戦争終結を意味する合図でもある。
また、これはパチンコ屋の蛍の光のようなものでもあって、そろそろ宴会が終わって帰り支度を始めようというシグナルでもあるのだ。

僕はとにかくこれが見たくて、宴会が中盤に差し掛かるとできるだけコンさんのそばにいって酒を飲むようにしている。
「隣りに座っていい?」
「モウマンタイモウマンタイ!」である。

マレーシアに来た最初の頃は、コンさんがキラキラ星を歌い出す意味がわからなかったので、面白くてまだまだ酒を注いでしまっていた。

限界に達した彼女は、僕にひとつお願いがあると言った。

「明日午後からの出社でもいいかしら?」

もちろん「モウマンタイ!」である。

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