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疲弊するコンテンツマーケティングの現場を憂う

僕はウェブマーケティング領域における、ここ数年トレンドのひとつでもある「コンテンツマーケティング」でメシを食わさせてもらっている。そのため、日々発信される世の中のメディアでもこの部分に関する記事はよくチェックしている。本日チェックした記事があまりにも対照的だったので、少し考えてみたいと思いnoteに書いてみることにした。

コンテンツマーケティング=コンテンツSEO?

まず、「コンテンツマーケティング」について定義的な面も含めて何をすることなのかまとめておく。コンテンツマーケティングとはまさしく言葉通り、「コンテンツ」を用いて「マーケティング」活動をしていくこと。中でも「プロモーション」における寄与を期待されている。コンテンツとは、「テキスト(文章)」、「画像」、「図版」、「音声」、「動画(アニメーション)」を中心に機能的なものを組み合わせたものまで広範囲に含む。ウェブ上のリアルタイム反映のアンケート機能なんかを用いた取り組みなんかもひとつのコンテンツマーケティングといえるだろう。

しかし、2019年時点でのコンテンツマーケティングの捉えられ方は「テキスト記事を用いて検索導線を強化する」という本来は「コンテンツSEO」といわれるものとほぼ同義とみなされる傾向が極めて強い。BtoC領域ではここ数年、サービスへのタッチポイントとしての検索導線は存在感が着実に弱くなってきている。そのため、SNSさらにはウェブを超えオフラインに至るまでをカスタマージャーニー描いてタッチポイントごとに訴求ポイントを変えるような試みも出てきている。そうした訴求をおこなう中で、発信していくコンテンツをその根幹とみなすようになってきている。

一方、BtoBの場合はだいぶ勝手が異なる。購買プロセスの適切なタイミングで適切なコンテンツを投下して動機形成をして購買につなげていくということ自体に変わりはないが、購買プロセスにおける社内の意思決定者が複数いることや、情報収集業務での業務習慣などを加味することになる。

一昔前のように、営業パーソンが飛び込み訪問したり、リスト屋から入手したリストを元にテレマーケティングしたり、という時代ではなくなった。そのため、定期的に開催される展示会への出展やウェブでの検索導線を使ってサービスの認知向上や情報提供をおこなうことになる。ここ数年は展示会自体も乱立気味になり、数年前よりも費用対効果が悪化傾向にある。そのため、検索導線を強化する取り組みとしてコンテンツSEOが用いられているというわけだ。

人材難も重なり疲弊する制作現場

先の段落ではBtoBにおけるコンテンツSEOの強化に関する取り組みが増えているとしたが、自身の肌感覚からしてもニーズの多さは強く実感しているところだ。それはBtoB領域の記事を企業の求める品質で納品できるプロダクションが少ないことが大きく関係しているように思う。

BtoB領域での記事では主に、以下3つのスキルが求められる。

1)文章作成能力
正しい日本語を選定し、読みやすい流れを意識した文章を書けるか

2)専門領域における理解力
アピールする商材に関連する周辺知識、経験の有無もしくは理解能力

3)マーケティング視点での構成力
検索流入だけでなく、商材への動機形成できる記事構成を考えられるか

1)~3)のうち、2)と3)を持っているライターの数は決して多くない。専門領域がニッチ、高度なテクノロジーに関係する分野の場合は極めてその数は少なくなる。ちなみにここ2年ほど、僕は情報セキュリティ関連企業のお仕事を頂くことが多いが、その際のライター選定は極めて厳しいことになっている。執筆できる人も一定数いるが、1)~3)までを網羅できている人の場合、高単価となり、企業側の想定を大幅に超える。特に2)の専門領域を正しく説明できるほどに理解しているライターが少ないのだ。その結果、どういう形態をとるかといえば、ITの世界、仕組みなどを正しく理解できているライターを最優先に選定し、企業側もしくは僕から参考情報を提供し、執筆してもらっている。その上で、1)や2)の部分を編集機能が補うという流れだ。

BtoBの場合、さらにプロダクション側にとってはお客様のお客様にあたる企業に取材に行くこともあるため、基本的なビジネスマナーや商慣習といった部分への理解、コミュニケーションで相手から情報を引き出す能力といったことまで必要となる。さらに言えば、記事の単価によっては写真撮影までをライターが請け負うこともままある。

こうしてまで大変な作業で生み出した記事が必ずしも検索導線の強化に寄与するわけではない。諸事情で専門領域の理解力に欠けた記事になった結果、読まれないようになることもあれば、きっちりやりきったにも関わらず、検索エンジンのアルゴリズムで正しい評価を受けられないなんてこともある。競合がすでに多くの記事を作っているレッドオーシャン状態の場合、評価を受けるのは極めて至難だ。10本記事を作成して1本が流入に貢献できればよいほうというのは放言に聞こえるかもしれないが、肌感覚からの現実としてそう感じている。

お気楽に見られがちな自社内編集部の存在

こうした状況に対し、先進的な企業では自社内で内製化する取り組みが進んでいる。自社内に編集部を設けることで2)の専門領域の部分はカバーできるものと考えるからだ。さらにいえば、マーケティング業務経験者に担わせれば、3)の部分も対応できると考えるのだろう。マーケティング部門に時給単位で雇用できるパートライターを複数抱えている、なんて話も聞く。

しかし、本来は理想型であるこうした取り組みもうまく回らないことがある。それを健康問題を絡めてわかりやすく問題展をあぶり出しているのが以下、ダイヤモンド・オンラインの記事だ。

なかなかにインパクトのある「腐った玉ねぎ体臭」という見出しになっているが、この記事で語られているオウンドメディア運営現場の疲弊は実体験者ならば大きく頷いてしまうだろう。詳細はぜひ記事を読んでもらいたいが、自社内でオウンドメディアを複数運営していて採用した人材がすぐに離脱してしまう。その理由を過度な業務量と充実感が得られないこととしている。

これはおそらく、経営陣が本気でこのオウンドメディアを重要だとみなしていないから起きている問題だ。おそらく、社内でも周囲からは記事をつくる執筆チームぐらいに軽く扱われていたのではないだろうか。さらに言ってしまえば、「こちらは真面目に業務に取り組んでいる横で『編集部ごっこ』ですか。お気楽なもんですなぁ。」なんて声すらあったかもしれない。

しかし、オウンドメディアの編集部を自社内に抱える場合、編集部は社内の多くの部門、関係者との連携を余儀なくされる。特に「商材を売る言葉」を持っているセールス部門、「商材のコンセプトメイキング」から実開発まで携わった開発部門、商品企画部門などには深い協力関係が求められる。しかし、「編集部ごっこ」をしているなんて軽く思っている人は、決して快く協力しないだろう。部署を横断するというのは、コミュニケーション力が卓越しているか、企業としてその重要性を認識していない限り、縦割り社会構造が染みついた日本では難しい。その結果、間に挟まれた人は業務量以上に疲弊を重ね、虚無感が追い打ちをかけてしまう。

企業のオウンドメディアでの発信は本当に必要か?

先のダイヤモンド・オンラインの記事で、人材離脱が続く状況に対し、経営トップは「そのうちなんとかするから」との一点張りだったという。これは社内に編集部を置き、発信することの重要性を認識していないことを如実に物語っている一言だ。記事の最後では退職を決意したとして締められているが、退職をするか、社外の力を借りるかぐらいしかこの状況で打開策はないだろう。今日、オウンドメディア、コンテンツマーケティングについて報じられたもう一つの記事を紹介する。

ヤフオクを使ったリユース販売を主事業とするマーケットエンタープライズが過去最高益を達成したとする記事だ。

当期においては2017年6月期、2018年6月期の戦略的投資期間中に育成してきたサービスが収益に貢献するに至った。具体的には、農機具・建機・医療機器といった専門性が高い商品の取扱規模拡大、オウンドメディア運営の収益化や通信領域(子会社のMEモバイルが展開)の伸長が挙げられる。積極的なマーケティング活動、サービス内容のブラッシュアップ等を推進した結果、当初の想定を上回る大幅な成長を遂げた。(提供元:フィスコ、2019年8月16日 8時04分) ※太字は著者によるもの

太字の部分にあるように、「オウンドメディア運営の収益化」が伸長に貢献したとされている。マーケットエンタープライズの業務内容からするとおそらくBtoC向けのオウンドメディアだとは思うが、記事内では「農機具、建機~専門性が高い商品の取扱規模拡大」とあるので、そこに関係するメディアの可能性もある。いずれにせよ、オウンドメディアはやり方次第では事業への貢献に加え、単独での収益化すら見込める魅力があることを示している。

しかし、コンテンツマーケティングという手法が大きく普及して数年を経た今、大きな曲がり角に来ているのは否めない。一時期報道されて話題になっていたが、大手企業運営のオウンドメディアがクローズを余儀なくされる、という話もチラホラ出てきている。今後もその傾向は一定あるものだろう。そこで退却し、別の手法に移るのか、それとも踏ん張りどころと考えてとどまるのか。これは各企業の経営判断によって変わってくる。

しかし、ウェブマーケティング周辺に15年近く関わっている立場から俯瞰的に考えると、企業がオウンドメディアで発信をしていくのは一時期のトレンドではなく、時代の流れからは必然だと考える。しかし、やり方自体は一度大きく見直す時期が来ているように感じる。今後は蓄積した玉石混合のコンテンツを選り分け、優れたものを活用していく取り組みが進むことになるはずだ。

※最後になりましたが、冒頭の画像にダニエルさんのものを利用させて頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。


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