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第三話:親の愛

「愛着障害」というものがある。母親をはじめとする養育者との愛着が、何らかの理由で形成されず、情緒や対人面に問題が起こる状態。

以下に、ボウルビィの愛着理論と、竹内の行動遺伝学に関する記述を引用する。

母親は子供の安全基地

ジョン・ボウルビィ(John Bowlby)の提唱した「愛着理論」

愛着理論では、幼児の愛着行動は、ストレスのある状況で対象への親密さを求めるために行っていると考えられている。幼児は、生後6ヶ月頃より2歳頃までの期間、継続して幼児の養育者であり、幼児と社会的相互作用を行い、幼児に責任を持つような大人に対して愛着を示す。この時期の後半では、子供は、愛着の対象者(よく知っている大人)を安全基地として使うようになり、そこから探索行動を行い、またそこへ戻る。親の反応は、愛着行動の様式の発展を促す。そしてそれは、後年における内的作業モデルの形成を促し、個人の感情や、考えや、期待を作り上げる。離別への不安や、愛着の対象者が去った後の悲しみは、愛着行動を行う幼児にとって、正常で適応的な反応であると考えられている。こうした行動は、子供が生き延びる確率を高めるために生じたと考えられる。
*wikipediaより

動物と違って、人は自立できない状態で生まれてくるため、生き残りをかけて、親の愛を得ようとするんだ。そして、親が見守る中で、いろいろな冒険をする。それが妨げられると、将来、人との関係性において大きな問題を引き起こすことにもなるってこと。
2歳までの記憶、思い出せと言われても、普通では無理。あなたはこの間、両親からしっかりと愛され、安心できる安全基地はあっただろうか。

武内ゆかり「行動遺伝学」

母親からよくグルーミングを受けた子は将来おとなしい傾向に育つ傾向にあり、一方、グルーミングの回数が少なかった子は大人になってから不安傾向が高かったり攻撃的な性質を示す[Caldji et al.,1988]。さらに母親のグルーミングの影響は、子ラットの学習認知機能の発達にも影響を及ぼす[Liu et al.,2000]。母親交換の実験によりこれらの傾向は遺伝的要因によるものではないことが示された[Francis et al.,1999]。すなわち、母親が子を世話する頻度によって、その子の一生涯の行動パターンが決定付けられる
子ラットの不安傾向が高くなるという現象のメカニズムについては、視床下部-下垂体-副腎皮質系といわれるストレス反応の内分泌軸を司る神経ペプチドである副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)の役割が注目されている[Liu et al.,1997]。幼少期に母親からあまりグルーミングを受けなかった個体を調べてみると、視床下部室傍核におけるCRFmRNAの上昇や扁桃体におけるCRF受容体の上昇が確認された。それとは対照的にグルーミングを良く受けた個体ではCRFに抑制的なフィードバックをかけるグルチコルチコイド受容体が海馬で上昇しており、CRFの抑制がかかりやすい状態になっていることも示された。このように初生期の環境が個体の行動パターンに深刻な影響を与え、ことに母親の子に対する世話の良し悪しが脳内の神経機構に永続的な変化をもたらすことが実証されたわけである。

これは、ラットの研究だけれども、幼い頃に母親の愛情を感じられないとホルモンの出方が変わってしまうような脳内神経の変化が起き、生涯、不安で攻撃的になるという。

先の、ボウルビィの話を加えると、幼い頃、母親が子どもの「安全基地」となるかがとても重要だと解る。

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愛着障害が病気を引き起こす

宗像は、この愛着障害が病気を引き起こすという。残念ながら、私は参加できていないのだが、2016年3月8日に開かれたヘルスカウンセリング学会有資格者の集う講師研修会のプログラムを示す。

愛着障害から見た病気
・病気*とは、甘えられなかった過去を再解決するためのエネルギー
 (宗像恒次)
 *心身の調子が悪く、通常行っていた活動が出来なる恐れがある状態
 (健康行動科学からみた病気の定義)
・養育者への愛着障害(甘えられなかったこと)* が慢性ストレス性格**
 →慢性ストレス→慢性炎症→慢性病の原因
 *E J M Bowlbyによれば、愛着とは「情緒的結びつき」、
  宗像恒次によれば、「甘えられること」
 **自己抑制、対人依存、感情認知困難、問題回避、自己解離、
  自己憐憫、自己否定
子どもにその問題がある場合は、親が自分の愛着障害の克服にチャレンジしましょう。すると、その子どもが持つ世界に共感でき、子どもの「いいところ」を認めることができ、尊敬できるようになれます。その時、子どもは自らの愛着障害を自ら克服するチャンスが訪れます。
SATの代理顔表象化法によって情緒安定化自信度が80%を超えたら、愛着障害を解消して「自分を信じられる能力」を高めるために、「親子バニシングツウィン療法と幼少期療法」を身に付けましょう。

病気は、親に甘えることができず、その愛を感じることができなかったという過去の問題を、自分に気づかせ、解決するためのエネルギーなのだと宗像は言っているのだ。
いまでこそ、私は「病気は身体からのメッセージ」と受け取っており、あるがままの自分を生きていないことへの警鐘なんだと捉え、生き方を変えるという選択をするようになっているんだけれども、それを知らない時は、本当によく患った。
幼い頃は、自家中毒の診断をもらったこともある。小学生のある日、自分の呼吸が気になり始め、これを止めたら死ぬんだろうかという妄想に駆られたこともある、動悸、息切れ、心臓神経症。大学の時は尿管結石で七転八倒したし、入社前後は十二指腸潰瘍に悩む。さらには、自律神経の様々な症状を経験した、私の若年時代。
それらすべては、30歳代前半で解決しているが、38年もサラリーマンを続けているせいか、身体の一部に、まだ慢性疼痛を感じている。
そんな経験をシェアしたくて、2001年に創ったウェブサイトが「心と身体の談話室」

私が経験した症状を知りたければ、覗いてみられるといい。

私の親は、二人とも教員で、私が小学校に上がるまでは共働きをしていた。朝、親戚の家に連れて行かれ、夕方迎えに来てくれるまで、私はおばちゃん家で過ごす毎日。おばちゃんは優しかったけれど、私はその家に一人で「いい子ちゃん」をしていたと『第一話:「あるがままの自分」を生きる』にも書いている。2歳までがどうだったかは覚えていないけれども、私には愛着障害があったと思う。弟はいるが6歳も年が離れており、小学校に上がるまで、本当に独りぼっちで、自立脅迫もあったと思う。おかけで、なんでも一人でやってしまう、依存心の低い人間に育ったのだけれども、親に対する愛を求め続け、それをうまく充足できなかった私は心に傷を残した。そこには母親の厳しい躾も関係していると思う。母親の気に障ることをすると、いつも家の外に出され、締め出しを喰らった過去の辛い思いが、時々顔を出した。父親の死に目には会えていないが、母親は病院のベッドの上で、私たち兄弟の見守る前で息を引き取った。けれども私は、その瞬間、言葉もかけられず、触れてはいけないように思えて、母の手すら取ることができなかったのだ。

愛着障害の克服

先に書いた身体症状の元はストレスであることを、いまの私は知っているし、自覚している。だから、60歳になったいまでも、健診でほぼ引っかからない身体で過ごせていることを付記しておく。ストレスと病気の関係は、また別のところでお話するので、ここでは、病気の根っ子に「愛」のエネルギー不足があるのだ、ということだけでも知っておいてほしい。
愛着障害は子供に伝搬する。しかし、たとえ、そのような愛着障害の子供になってしまったとしても、親自身が、自分の愛着障害を克服することで子への接し方が変わり、子自身も気づいて変わっていくことができると、宗像は救いの手を差し伸べる。

私は、当時心理カウンセラーと称していた初級ヘルスカウンセラーの資格を取るのに1年半を要している。毎月、ヘルスカウンセリング学会主催のセミナーや、地域勉強会に通い、何度もカウンセリングの練習をした。その度に、自分の心にひっかかる問題が湧き出してくる。それを仲間に癒してもらい、自分自身が行動を変えて問題解決を図っていく。引っかかった問題が解決できていないと、クライアントの話を聴いている時に、それが想起されて邪魔をするのだ。私にとって、先の母親との問題が大きかった。

ある時、私は意を決して母親の胎内に入ってみた(自己SATセラピーでの胎内イメージ法)。2つの胎嚢が見え、自分の入っている胎嚢の向こうに、もう1つ、大きな胎嚢が見え、そこに複数人のきょうだいが見える。狭くて1人が苦しそうにしているのに、胎嚢が違うから私にはなにもできないと、不甲斐なく悶えている自分の姿が見える。ここで、どうにもできなくなった私は、仲間に助けを求め、全員を助け出してもらう。実際には、私が自分の入っている胎嚢を押し、向こうのきょうだいたちに、1人が苦しんでいることを伝え、気づいてくれたのだが、それから、順番に産道を通って、おなかから外に出る。みんな一緒に母親の胸に抱かれ、生まれ出た喜びをかみしめる。母親の愛を十分に感じ、そのみんなと大きくなっていく姿を想像する。最後には母も一緒に天に上がって光になる。ここまでしてやっと、私は母の愛を目一杯感じることができ、母親の顔を慈しみ深い観音様としてイメージすることができたのだ。母親は長いこと骨髄腫を患い、最後は頬も痩せこけて逝ったのだけれど、死化粧をしてもらった顔が、まさにその観音様に重なった。この記憶があれば、私はもう愛着障害で揺れることはない。
*いま、ヘルスカウンセリングでは、このように情動反応が大きく出る方法を採ってはいない。

幼い頃、親の愛をしっかりと感じられることがいかに大事なことか、私の例で感じてもらえただろうか。三つ子の魂百までという諺があるように、その頃は、子供のやりたいことを、できる限り見守って、安全を確保しつつやらせてあげてほしいと思う。そして、安全基地に戻ってきたときには、ギューっとハグして、母親の愛をいっぱい表現してほしいと思う。それだけで、子供はスーパーマンになれるから。

宗像恒次から教わった「愛」の話も、今回で三話めとなる。時代が変わる過渡期にあり、人の精神性が高まっている。以前なら、こんな話をすると、なにかおかしな宗教にでもハマったのではないかと敬遠されていたかもしれない。この「愛着」の問題は、あまり知られていないかもしれないけれども、人の性格形成に大きく影響するので、これから子供を持つ親世代、特にお母さんには知っておいてほしい。

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