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第十二話:夫婦愛-ゆるぎのない関係性を築く

アサーションスキル

私がヘルスカウンセリングを学び始めた頃、グループカウンセリングやソーシャルスキルトレーニングに特化した研修があった。対人コミュニケーション技術の1つとして教わった「アサーション」。これは、自分の思いを相手に率直に、誠実に、粘り強く伝える方法で、自分の本当の気持ちを抑圧せず、お互いの気持ちや感情を大切にし、あきらめたり引いたりしないで、いいアイディアがひらめくまで努力することが大事だ。

「SAT法を学ぶ」の中で、宗像は、

アサーションスキル(assertion skill)とは,「その場にあった自分の気持ちを意識でき,自分も相手も尊重しながら,それを上手に自己表現できる技能」

であると定義しいる。

伝統的な日本文化では,善意と思いやりをもって相手の気持ちを察し,自分の感情を抑えて波風立てない言動をとることがよりよく生きる知恵とされてきた。これまでの工業化社会では,社員は忠誠をもって会社組織に従い,指示や期待に応えるよう滅私奉公して報酬を得る時代であった。

しかし,これからの情報化社会は,社員一人ひとりが自分で感じ・考え,独創的な知恵やアイデアを発揮し,市場のニーズをつかみ商品開発やサービスを生み出していく時代なのである。

つまり,波風立てない言動に神経を費やし,指示や前例を重んじて企画や会議を進めるという職場風土の企業は衰退し,反対に,既成観念にとらわれない自由な発想や意見交換が許され,仕事を通して社員の成長や夢をかなえるキャリア支援が企業の発展につながる

と、すでに12年前に、いまの時代のあり方を説いていた。

日本人には慣れないアサーションだが、リスニング(傾聴)とこれができるようになると、人間関係は驚くほど好転するので、ぜひ会得してほしい。
私は、このことを50歳になってから教わり、家に帰って妻の顔を見た途端「ごめんなー」という言葉が口を突いて出た。
「なにがごめんなの?」
「いや、最近俺って、自分のこと何も話してなかったよね。だからごめん。」
「本当だよ、恐かったもん」
「恐かったって?」
「だって、何も言ってくれないから、何考えてるのかわかんないじゃない」
「そっかー、本当にごめん」
たったこれだけで、その頃感じていた夫婦の距離感が一瞬にして縮まった感じがした。

実は簡単ではないアサーション

宗像は、このアサーションが「イイコ」(自己抑制)の多い日本人では難しいのだという。「アサーションの基本姿勢」と、それを妨げるものを、宗像の言葉を借り、対比して書いておく。

・率直さ
本当の気持ちを意識でき,抑圧しないで,しかも感情的にならず上手に表現する。

自分の気持ちを抑圧しないで表現しようとすると,見捨てられる怖さや否定される怖さから率直になれない。
これは,育成史のなかで,「自分が満足するように生きていいのよ」という無条件の愛で包まれる実感のメッセージを親から受け取っておらず、見捨てられる恐怖や自己否定の恐怖が出てきてしまう
あるいは,学校や会社で自己主張することを「生意気だ」「今に見ていろ」といった反応を得てきたことが原因である。
率直になることを阻む社会環境が日本にはあった。

・誠実さ
自分と相手のどちらの要求や感情も大切にし,お互いに我慢しないで表現する。

日本人は相手の感情に誠実であろうとするが,自分の感情に誠実でないのが弱点。
生真面目さに共通する姿勢だが、誠実であることにこだわるあまり、燃え尽きてうつ状態になってしまう人もいる。

・粘り強さ
たとえ,すぐに受け入れられなくとも引かないで,代案や条件を調整したり,時間をおくなど現実的一致を見出すまで,「ひらめき」を活用した粘り強い努力を続ける。

過去の見捨てられ体験や自分で状況を変えることができなかったという無力感があると大抵は,NOといわれると現実的な落としどころに行き着くまでにあきらめて自分を抑え,結論を相手に委ねてしまう傾向がある。

第三話に書いたが、私は教員だった両親に、いつもまわりと比較され、「人の模範たれ」という厳しい教育の元で育った。だから、幼い頃の私は、ありのままの自分を押し殺し、親の言うことに四六時中ビクビクし、母親の癇に障ると家の外に放り出されていたものだから、見捨てられる恐怖や自己否定の恐怖バリバリの幼少期だったため、率直さなど出しようもない。
それでも、時々本当の自分が顔を出し、社会人になってからも、自己主張をする人ではあったんだけれども、宗像が書いているように、「日本社会では嫌われる」を経験し、うまく自己表現できずに生きていた。

とってもイイコ

・条件つきの愛を受けてきたことで、本音を出すことに、嫌われ、傷つけられる怖さがある。自分を出すことで傷ついたトラウマがある。
・本音を出したことで人を傷つけた罪意識を持っている。
・本人、あるいは親が母に十分甘えられなかった、父が冷たい。

こんな成育歴があると、人は「イイコ」に育つという。
だから、人に嫌われないよう、仲間はずれにならないよう、周りに合わせ本音を抑える。いつも不安で怖く、自分らしさが無いと感じる人になるという。
生きづらいものだから、さらに「とってもイイコ」になろうと努力する。生真面目になり、完全主義になり、環境次第ではうつ病になる危険を併せ持つ。愛されるために、必死に自分を抑えて合わせてきたのに、それでもまだ愛されない。不安神経症に陥りやすく、こんなに抑えて合わせてきて、自分はいったい何だったんだろうと思い、これまでの自分を変えたいと「成長痛」が生じる。
さぁ、いま、そんな状態にあるあなたは、変わり時!
スキルを学習し、トレーニングすると同時に、イイコになったトラウマをSATセラピーで癒すと克服できる。それが例えば第五話に書いた、代理顔表象化。自分の応援者を持つ方法だ。

もう1つ、自分の気持ちを抑え続ける人が引き起こしがちな反応パターンも紹介しておきたい。人間関係を壊さないようにした我慢が裏目に出るということになるので注意されたい。

まわりくどい間接表現・・・いやな顔をする、陰口、ためいき
関係性を切る・・・すっぽかす、忘れる、付き合いをやめる
鬱積した感情が爆発・・・怒りや不満が吹き出る
身体化・・・体を壊す、病気になる


宗像は、「アサーションのための7つのアドバイス」を挙げてくれた。

1.自分に起こっている気持ちや感情を自覚し,本当の要求は何かを明確にする
2.相手に認められるためではなく,自分に誠実であるために言う
3.相手の思いや気持ちについてその言葉を繰り返し確認する
4.相手の要求に肯定し,気持ちに答えること
5.相手に話すとき主語は常に"私は"にする
6.感情的な言い方ではなく,感情中立的に相手を認め尊重しながら,必要ならば何度でも繰り返し言い続ける
7.相手をよく観察し,言語的・非言語的メッセージを合わせる

まず、自分が相手に何を伝えたいと思っているかを明確にし、相手に認められよう、受け容れられようとして言わないということ。相手の思いも尊重して聴きながら、私は○○と思うと伝えることず大事なのだ。

宗像は、さらに研修では、こんなふうに具体的にして教えてくれた。

「わたし表現で、ただ言うだけ」のスタンスに徹し、「相手がそれを認めなくてもよし」とする。
相手から認められないとわかっていても、自分が満足するためだけに言う。
相手に認めさせることは、相手を支配することにつながりかねない。
また相手の認知を欲する、つまり依存する姿勢につながる。


第一話:「あるがままの自分」を生きる で、DNA気質のお話をした。宗像は「『運命愛』は取り戻せる」の中で、こんなことを書いている。

性格気質の違う相手は,遺伝子が違うのですから,常識の範疇で理解できるような相手ではありません.人種が違うくらい違います.この性格は遺伝子の違いですが,相手の性格を変えることは不可能と思って下さい.パートナーの心の傾向を理解し,それにあった期待をする努力が必要

人はよく、自分はこう思うのだから、相手も当然そう思うはずだ、などと考えがち。でも、それが大きな間違いであり、相手の気質の特徴を理解し、互いがそれに合った期待をすることが必要なのだ。これは、どんな人間関係にでも応用でき、冷めきった夫婦間であっても、「運命愛」を取り戻せると宗像は説く。

また、第三話では「愛着」の話をし、第十話では「人生のオリジナル脚本説」を紹介した。

依存心は誕生してから後の生育環境のなかで培われます。両親の顔色をうかがいながら,周囲の期待に添う生き方をせざるをえないような環境で育ったとしたら「周りの望むようなイイコでいれば自分を愛してくれるけど,そうでなければ見捨てられるかもしれない」そんな恐怖と不安が,自分次第ではなく,周り次第という依存的あるいはイイコという〝生きグセ〟をつくっていきます.


さらに遡り、自分がまだ母親の胎内にいる時の話。

母親が妊娠中に,夫や親族の顔色をうかがいながら,周囲が期待するイイ嫁,イイ妻としての生き方をせざるをえないような環境に置かれていた場合,子宮の交感神経は緊張し,ノルアドレナリンなどの不安系化学物質が放出されます.それが情報として胎児の脳に伝わり,本人のあずかり知らないところで,依存的な生きグセが母親からしっかり受け継がれるということがあるのです.
依存心や自己抑制心が,胎内のアドレナリン分泌によって,胎児の脳に記憶され,イイコの生きグセが世代間で伝達されていく.

そして、第十一話では、運命愛の関係を助けるオキシトシンの話をした。

自分が採ってきた人生のサバイバル脚本に気づき、オキシトシンやコミュニケーションスキルであるアサーションを使い、あばたもえくぼの恋に浮かれた状態が覚める3年後からも、夫婦睦まじくあってほしいと私は願う。今生共に、自分の人生課題を解決しようと選んだ相手なのだから。


私はいま、今回書いたようなスキルトレーニングを随時行っている。
場所は名古屋・丸の内のNAYUTA BLD(ナユタビル)
イベントはFacebookグループ「ナユタオープンフォーラム2019」に公開されるので、注意しておいてほしい。

直近は9/2「人を動かす聴き方の極意~SAT傾聴講座・基礎編~」

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