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当社の利益が吹っ飛ぶ、赤字企業のM&A

スマレジ社が株式会社ロイヤルゲート(以下、RG社/決済端末「PAYGATE」を開発)をM&Aしてから2年が経ちました。当社にとって初の大型M&Aしかも買収先は赤字企業と、リスクの高い選択でしたが、本日開示の決算説明資料記載のとおり単月黒字化まで漕ぎつけることができました。

株式会社スマレジ 2024年4月期第3四半期決算説明資料より

これまで本件の成果を公に報告する機会を作れていませんでしたから、ちょうど2年の節目において、M&A検討時から今日に至るまでのリアルな様子や、黒字転換の背景、その一方で感じた反省や教訓などを振り返りました。当社の取り組みのご報告を兼ねて、今後同様のM&Aを検討されている企業の方に向けて参考となれば幸いです。

スマレジ社のM&A戦略

まずはじめに当社のM&A戦略について触れておきます。当社にとってM&Aは成長率向上のための重要な戦略のひとつと位置付けています。いま単一事業を基本としていますから、方針は非常にシンプルでおおよそ以下の3点で表現できます。

  • 直接的なシナジーがある

  • 基本は100%買収

  • 子会社よりも吸収合併

直接的なシナジーがある

当社IR資料に記載のとおり、直接的な事業シナジーが見込まれる企業を対象としています。

株式会社スマレジ 2024年4月期第3四半期決算説明資料より

具体的にはスマレジ顧客獲得スピードの向上やターゲット領域拡大に寄与する案件か、または顧客単価向上(つまりアップセルやクロスセル)に寄与する案件です。
また例外としてシステム開発会社などITエンジニア獲得のための案件も対象としていますがこれは本流ではありません。

基本は100%買収

意思決定の1本化を目的とし、可能な限り100%買収を目指します。最初から100%でなくとも段階的に株式を取得する事前合意があればOKです。
これは子会社設立も同様で、たとえば「協力関係にある企業と50%ずつ出し合い合弁会社を作る」という戦略はとりません。

子会社よりも吸収合併

現時点で当社はまだまだ小さな会社であり小回りの利きやすい組織です。その利点を最大限に活かすため、対象となる企業を100%子会社化するだけではなく吸収合併も必ず併せて検討しています。

これら基本方針を踏まえ、RG社のM&Aについて振り返ってゆきます。

Build or Buy

〜 いちから作った方がよいのか買った方がよいのか 〜

私たちは2011年のスマレジ立ち上げ当初から、米Square社のようなキャッシュレス決済とPOSシステムがシームレスに一体化されたサービスを高く評価しており、いつかは実現したいと考えていました。なぜなら一貫したソリューションにすることでユーザーにとっての利便性が向上するうえに、キャッシュポイントが増え価格設定の自由度が上がるなど、メリットが非常に多く直接的なシナジー効果がおおいに期待できるからです。
しかしその実現には、決済端末(ハードウェア)の開発やセキュリティ認証の取得、カード会社等との諸々の交渉など、とても参入ハードルが高く社内で新規に立ち上げるのは困難な状況でした。当社はソフトウェア開発が得意であるものの、ハードウェア開発のノウハウがまったく無かったため、特に決済端末の開発コストが重すぎました。
当然ながら1から作るより出来上がっている企業をM&Aしたほうが早いため、いくつかの決済会社に買収を打診しては断られ、という状況が続いていました。

検討開始・交渉・契約

〜 最も不利な条件での大逆転。貫いたのは“自社の強み”の訴求 〜

そんな中、2021年に先方よりお声がけがあり、当社はM&Aに向けて本格的に始動し、RG社の入札に挑みました。すでに検討中の企業が複数社ある中で当社はもっとも後発。限られた時間の中で当社が提示した金額は最安値だったようです。
そんな不利な状況でも最終的に当社との契約が決まったのは「スマレジならPAYGATEを大きく成長させることができます」と、POSとキャッシュレス決済事業の相性の良さを信じ、訴求し続けたことにあったと思います。
オーナーには、たとえこれから手放す事業であっても、譲渡先で成功してほしいという想いがあります。そんな先方の気持ちと当社の想いが合致し成約に至ったのだと思います。実際に株式譲渡するタイミングでの前オーナーとのハードな交渉もありましたが、総じて狙い通りに進められました。

PMIスタート

〜 想像の上を行く? “赤字グセ”の実態 〜

2021年12月。いよいよ株式譲渡が実行され、RG社はスマレジの子会社となりました。全くカルチャーの異なる2社が突然一緒に仕事するとなれば、当然困難と驚きの連続です。
官報にて開示されているとおり、RG社は6億円以上の赤字企業でした。当時のスマレジ社の利益がほぼ吹っ飛ぶぐらいの赤字額です。このままではRG社どころか当社自身も体力がもたない。そんな危機感から、買収当日すぐにRG社へ訪問し全社員に向けて挨拶をしました。1日でも早く利益を出すこと、1円でも多く利益を出すことを強調しました。
PMIにおいて「100日プラン」は本当に重要で、それは子会社となった社員の意識改革にも大いに役立ちました。
「赤字グセがついている」。赤字を何年も続けていると危機感が薄れ、いつのまにか当たり前のようになっている状況は、短期間で一気に改革するしかありません。
カルチャー面だけではありません。業務においても当時は属人的かつアナログな作業ばかり。請求書はExcelで手作り、売掛が全く合わない会計処理。個々人のタスク管理が全くされておらず、顧客からの申し込み後、半年間放置されている営業案件すらもありました。根拠のない予算が多く、利益がでない案件がたくさんありました。

途方もない状況ではありましたが、M&A後初の決算も控えており悠長にしている暇はありません。実務においては、経理担当者を大阪から東京に2週間派遣し、とにかくRG社の業務を引き継いでいきました。

サービスの肝、プロダクト開発部門

〜 先手を打って炎上回避。「赤字企業を買う」という覚悟 〜

一方、今後の事業展開において最重要と言っても過言ではないプロダクト開発部門はと言えば、「開発での失敗は一生モノの傷になる」という大きなプレッシャーと危機感を感じていました。
そんな背景から、開発部門では営業やCS部門に先立ち、とにかく先手先手で策を講じました。早々に関係チームのリーダーと連携し受け入れ体制の準備を進めたほか、RG社員一人ひとりと面談を実施。面談では、赤字グセを拭うためにも、今後要求する高いレベルに着いて来れる人だけ残ってもらう気持ちで、厳しい内容も隠さず伝えていきました。
マネージャークラスの社員も当たり前のように手を動かし、働きぶりを背中で見せ続けたスマレジエンジニアの影響力は大きかったようで、自然と組織に馴染んでくれたRG社員もいました。でも、結果的にはほとんどのRGエンジニアが退職。赤字企業を買うのであれば、最終的に旧会社の社員が全員退職する可能性も含めた”覚悟”が必要なのだと実感した出来事でした。

販売戦略

〜 原価が曖昧だからどこまで値引きしていいのかわからない 〜

販売戦略を見直している中では、価格設定や個別値引きが曖昧なことに気づきました。スマレジ社は初期費用を軽くする反面、月額利用料をしっかり頂戴する、ARR重視の戦略をとっていましたが、RG社では初期費用(ハードウェア端末販売)収益を優先し、月額利用料や決済手数料を薄利にする傾向にありました。
短期的には初期費用売上はボリュームが大きくキャッシュフローが良いように思えるのですが、中長期的に見るとそれよりも月額利用料をしっかり積み上げる方が財務的に安定しますから、初期費用の粗利はあてにせず、月額利用料と決済手数料だけで適正に利益がでるよう価格を全面的に見直しました。
曖昧だった原価を厳密に再計算し、その上で利益を設定することで、値引きの下限値を決めることができ、利益の出ない商談は降りることを徹底し赤字商談の撲滅に成功しました。
同時に仕入れ先であるカード会社さんを訪問し、将来の販売数量をお約束するかわりに仕切り価格を下げてもらう交渉も行いました。

そして今回の目玉であるPOS(スマレジ)とキャッシュレス決済をセットにしたパッケージを作り、重点的に営業展開しました。
キャッシュレス決済サービスは差別化が難しい商品ですから、単独で販売するよりPOSとセットにしたほうが確実に商品価値が上がります。
スマレジ既存ユーザーさまへのアップセル提案の進行とともに新規のPOS商談時にはかならずセット提案することを義務付け、早々に大きな成果をあげることができました。

オペレーション部門

〜 相次ぐ退職による組織崩壊も、思い出話になることを信じて... 〜

買収から半年後の2022年7月には、RG社を吸収合併し一社に統合しました。旧RG社の役員は退任して頂きました。幹部はじめ社員には全員残って欲しかったものの、経営幹部層がすでに退職し始めており、スマレジ社の社員が(スマレジの業務と兼務で)キャッシュレス決済事業の業務にも介入するという激務に突入しました。

営業部門では、既に「スマレジ・PAYGATE」というパッケージサービスを販売開始していました。ありがたいことに市場の反応は上々だった一方で、申し込み数が一気に増えオペレーションを担うチーム(通称オペチーム)が崩壊してしまいます。RG社時代の規模しか対応できない(スケールできない)オペレーション体制のままであったことに加え、実作業も驚くほど自動化されていなかったことが主な原因です。

突如業務負荷が増えてしまったことで、次々に旧RG社員が退職。激務のなか退職が増えると、残されたメンバーの負荷がさらに上がる。「最後の1人にだけはなりたくない」というのが本音だったのかもしれません。なんとか組織の立て直しを図るため、各部門から集められたスマレジ社員を期間限定でオペチームに派遣し、まずは業務の仕組み化を進めていきました。2〜3ヶ月ほどは業務負荷も高く「年内には立て直して、年明けには思い出話になるといいね」と話しながら皆で終電に向かうような日々が続きました。ようやく今、こうして“思い出話”にできたのは、当時のメンバーの尽力のおかげです。

組織崩壊の前に手を打つことはできなかったのかという点については、もちろん反省も大いにあります。元々カルチャーが大きく異なる組織だったからこそ、子会社化された時点でもっとコミュニケーションを重ねるべきでした。それは飲み会などを通じたライトなコミュニケーションだけでなく、業務におけるもっと“本質的”なコミュニケーション。「RG社員はどんな仕事をしているのか?」「なぜその仕事をしているのか?」と言った深い業務理解をもっと早く効率的にできていたら、退職者を減らしもう少し楽になった部分もあったのではないかと思います。この反省を活かし今後のM&Aではより効率的にPMIができる体制を作ってゆきます。

運命的な事業責任者との出会い

〜 偶然出会った、最後の頼みの綱 〜

この地獄の無限ループに終止符をうつための専任キーマン(責任者)が欲しい。しかし旧RG社の幹部層はすでに退職済み、スマレジ社幹部層はスマレジの業務で皆忙しい。
そんな責任者不在の、先の見えない状態が数ヶ月続いていた中、知人の紹介で「スマレジ社で決済事業をしたい」という人と出会いました。詳しく聞くと前職等でキャッシュレス決済事業の責任者を長く担当していたと言う。
おいおい、こんな偶然があるだろうか!
すぐに部長として入社してもらい、先述のオペチームも含めた旧RG社の業務を引き継ぐ営業組織の立て直しを担当してもらいました。業界の知見を持っている彼と出会えたのは願ったり叶ったり、まさに頼みの綱でした。

この新部長が入社したころは、旧RG社のマネージャークラスの社員の退職が相次いだこともあり、判断ができる人がいないために業務が逼迫、社員が疲弊し退職が続くという悪循環が起きていました。そこで、まずはやること・やらないことの判断軸を明確にして要望の見極めをすること、個々人のタスクをしっかり管理することなど、当たり前の基本をとにかく徹底しました。また、業務が増えていく中での無茶な要望ではありましたが、残業時間を削減し社員の体調管理を優先すると、明らかに各人のコンディションが向上。若手社員の成長もあり、約1年ほどかけて状況はかなり落ち着きました。現在はと言うと、より円滑な組織運営のためにリーダークラスの必要性も生じてきており、体制強化と採用には引き続き注力していく必要がありそうです。

M&Aから2年、とうとう黒字化が見えてきた

〜 確信し続けた “事業シナジー” が黒字化に繋がった 〜

赤字企業のM&Aは大きなリスクを孕んだ決断でありましたが、交渉当時に見込んでいたPOSとキャッシュレス決済の事業シナジーはしっかりと的を得ることができ、地道なコスト削減も相まって、目標のMRR 1億円の大台も見えてきました。

話は遡りますが、実はスマレジとPAYGATEは時を同じくして誕生しています。当初はPAYGATEも業界に先駆けた先行優位性を背景に、販売が好調だった時期もあったようです。しかしその後はスマレジが安定成長を続ける一方で、RG社は赤字経営から抜け出せませんでした。決済端末というハードウェア開発にコストがかかった上に先行投資を回収しきれなかったこと、決済業界の変化の速さに対応しきれなかったこと、後続の競合他社との差別化を図れなかったことが主な要因です。

今回当社が打ち出した「スマレジ・PAYGATE」というPOSレジとキャッシュレス決済端末のパッケージプランは、先述のRG社時代の失敗を克服し、SaaSならではの形でキャッシュレス事業に参入するきっかけとなりました。

組織体制や営業・開発における課題はまだまだ山積みですが、ひとまず無事に単月黒字転換に成功したことは、当社にとっても大きな自信となりました。引き続き決済事業での収益向上を図るとともに、今後もPOSレジとシナジーのあるM&Aを視野に入れた事業展開を進めていきたいと考えています。

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