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日本人に伝えたい、アリババのこと

今年9月10日にジャックマーは退任した。
セレモニー(正確にはアリババの年会)は6万人収容のスタジアムで行われ、その場には自分もいて、遠くからだったけど、歴史的な瞬間を目の当たりにすることが出来た。

ジャックマーが当日発する言葉、仕草を逃さないように、その光景を脳裏に焼き付けるように見入った。

正直に言うと、このイベントに参加することで、勝手に自分の中の何かが大きく変わるんじゃないかと期待していた。
結論から言うと、このイベント自体は自分自身を大きく変える経験ではなかった。
当たり前である。アリババが設立されてから20年間は、本当に激動の歴史で、自分はその最後の数か月しか共有していないただのルーキーだ。
創業メンバーが感じるようなことを、当日感じることが出来ると期待していた自分がとても恥ずかしい。

今回の年会を通じて一つ感じたこと、それはアリババの歴史において、多くの外国人が大変重要な役割を果たしたということである。
彼らの言葉は、外国人としてこの地で戦う自分に、より容易に消化することが出来た。

アリババ創設期に、最初にジョインしたアメリカ人であるBrianを、日本で知っている人は多くないと思う。
アリババの国際化は、彼の功績と言っても過言ではない。そしてその後今に至るまでアリババで働く彼が(辞めてアリババに戻ってきてを何度かされているが)、今どんなことを想っているのか、知りたくてしょうがなくなっていた。

そこで今回、アリババグループの現Vice Presidentであり、アリババにジョインした初めてのアメリカ人で、自分が所属しているAlibaba Global Leadership Academyの創設者で、自分が最も尊敬するアリ人(アリババではアリババカルチャーを表すような人を阿里人と呼ぶ)の一人であるBrian A Wongがジャックマー退任日に投稿したLinkedinの記事を、本人の許可を頂いたので、以下日本語で翻訳しシェアすることにした。

彼のインサイトから、あまり日本では伝わっていない、アリババやジャックマーの温かさみたいなものが、少しでも伝われば幸いである。


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シリコンバレーに伝えたい、アリババのこと

20年間の功績、時代のレガシー

20周年を迎えた今日は、アリババにとって大きな意味をもち、今までのアリババの歴史を再度深く思い起こさせるには絶好の日だ。
特にアリババ創設者ジャックマーにとっては、今日は全人類で一番意味を持つ日かもしれない。
彼は先日アリババの全てが始まったアパートを再度訪れている

アリババにジョインした最初のアメリカ人である私にとっても、この日を迎えてとても感動的な気分で、この20年間で信じられないくらい豊かな経験をさせてもらったことを改めて感じている。

私は、この場を借りて、1999年に創設されてから、アリババが中国及び世界に与えたインパクトについて、いまの私の想いをシェアしたいと思う。

アリババは2018年度1年間で、4000万以上の新たな職を作りだし、GMV(流通総額)は8300憶ドル(約90兆円)を超える。
より重要なことは、約976億ドル(約10.5兆円)の収入は農村部の住民があげたものであり、約半分のタオバオのショップオーナーは女性であり、更に17万4千以上のショップは、身体が不自由な方によって運営されており、彼らの収益は116.6億元(1765億円)を超えるということだ。
世界銀行や国連等の国際機関は、アリババのデジタルプラットフォームが成し遂げたことと、そのソーシャル世界へのポジティブなインパクトに驚き、また多くの世界的に著名な大学やシンクタンクは、アリババが技術を通じて、中国の発展に如何に貢献したか、
今まで中国の発展から取り残されていた農村部のエリアの発展にどのように貢献したかを調べるためにアリババに実際に訪れた。

しかしながら、実際に中国で生活をしていない人にとっては、アリババのこれらの貢献は、簡単に見落とされがちであり、実感することは容易ではない。

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もしあなたがアリババのことに興味があるのであれば、あなたはジャックマーのことを知っているに違いない。
歴史上最大のIPOを成し遂げた会社の創業者である。彼の成し遂げたことは、すでにたくさんの本に記録されている。(例えば Alibaba’s world: How A Remarkable Chinese Company Is Changing the Face of Global Business )。
アリババの業績面での実績はもちろん注目されるべきだが、アリババ創設にあたってのジャックマーのビジョンは、当初から変わっておらず、
それはアリババの技術を使ってもらうことで、旧来のシステムの中では陽を浴びることのなかった小さなビジネスをしている人々に力を与え、メインストリームで仕事のチャンスを与えるというものだった。

この信念のもと、ジャックマーとアリババはこの20年間で世界が発展するような新たなパラダイムを作り出し、これを実際に目の当たりに出来たことは、私の驚くべき特権であった。

虎に乗る

ジャックマーがアリババを創業した時のことを思い出すと、彼はまるで「盲目の虎の上に乗っている、盲目の人」のようだった。(注1)
私が1999年にサンフランシスコで初めてジャックに会った時、彼は会った30以上のベンターキャピタル全てに、出資を断られたと言っていた。
しかしながら、彼は落胆しているようには見えなかった。
当時投資家たちは、ジャックは出資に値しないとみなしていた。なぜなら当時中国のインターネットユーザーは1千万人以下であり、ジャック自身もビジネス経験がない元英語教師というパッとしない経歴だったからだ。
皮肉にも、それらの要素が彼の存在をより一層ユニークにし、のちにたくさんの好機をもたらした。

アリババの旅は、新たなデジタルエコノミーのレッスンでもある。
データがどのように今日最も貴重なコモディティとなったのかを、認識させられるものでもあった。
当時中国は、多くの伝統的な小売業のインフラが整備されておらず、その結果として、Eコマース業界では、ニューエコノミーの恩恵を受け、リープフロッグ現象(注2)が起こった。

伝統的な経済では、ビジネスはゼロサム思考に特徴がある。
原油等といった極めて貴重な資源は、そのような資源を抱え込むことで莫大な価値を創造できる。しかしながら、ニューエコノミーにおいては、データは再生可能であり、簡単に共有でき、同時に複数人に消費され、より多くのアプリケーションが出てくれば、更に価値が高まる。
したがって、ネットワーク効果(注3)によって、価値はどんどん大きくなる。
結果として、より価値のあるものが全ての人のために創造される。
最も重要なことは、透明性が高く効率的なデジタルプラットフォームの創造によって、スモールビジネスのオーナーが、経済システムに参加するコストやハードルが下がり、恩恵を受けられることである。

(注1)ジャックマー自身が当時の自分のことを、このように例えている。
(注2)ある技術に関して先進国が段階を踏んで、徐々に発展してきた中、発展途上国等がインフラの未整備等が理由で、その成長段階を飛び越えて、一気に段飛ばしで成長すること。中国で当時固定電話や、PC等が普及していない中で、安価なスマホが一気に普及し、スマホを通じてインターネットに多くの国民がアクセス出来るようになった事例は、この現象の一つとしてよくあげられる。
(注3)その参加者が増えれば増えるほど、それ以上にサービスの価値が上がること。


アリババはここ数年、長い間シリコンバレーからは見落とされきたあるエリアに、重点的に投資を行い、データを活用した、ニューエコノミーを持ち込もうとしている、

アフリカである。

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アフリカのDigitalization

最近の世界経済フォーラムにおける記事の中で、私はジャックがいかにアフリカの発展と、彼の見た20年前の中国に類似点を見出しているかを強調した。
20年前の中国の状況を思い出してみる。中国は多くの人口を抱える一方、未発達なインフラ、一人当たりGDPは年800 ドル (8万7千円程度)程度で、Eコマースはまだ存在していなかった。
今日中国には8億人以上のインターネットユーザーがおり、一人当たりGDPは9000ドル(97万円)を超える。
eMarketerによれば、中国は世界のEコマースの54.7%のシェアをほこり、これは第2~6位国の合計の2倍近い。

過去20年に渡って、小売り、物流、データなどのインフラが中国国内において整っていないことを、アリババは逆にチャンスと捉えて、そのチャンスをつかんで、デジタルペイメント、デジタル物流に代表される先進的なデジタル技術を融合し、先進諸国を超えていった。
今度は、私たちが中国で学んだことを、インフラが整備されていない他の国々にシェアする番である。

アリババビジネススクールのeFounders Fellowshipプログラムを創設を通じて、私たちはエマージングマーケットの起業家を教育し、トレーニングし、育成している(アフリカだけで119人が受講している)。
そしてジャックマー財団はアフリカの起業家のために、 African Netpreneur Prizeを設立し10年間で、10億ドル(約1080億円)を地域の優秀な起業家におくることをきめた。

その中の一人の生徒Uju Uzo-Ojinnaka、彼女はアリババ杭州キャンパスでのトレーニングについてリンクドインに感想を投稿している。

10日間のトレーニングで、とっっても多くのことを学んだ、そしてその研修は、私たちのアフリカは可能性に満ち溢れているというメッセージで常に溢れていた。。。次は私の番だ。私たちのアフリカのために。

アリババは、2037年までに新たに1億人に職の機会を提供しようとしている、これがエマージングマーケットの次の起業家への助けとなればと思う。

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(↑一番左がBrian本人)

ほとんどの人がジャックマーについて理解していないことがある、それはジャックは決してお金儲けのために会社を始めたわけではないということである。

「愛」の拡散

ジャックはLQ(Love Quotation)を通じて、チームをモチベートさせる。
彼はLQのチャンピオンだと思う。
LQとは「全ての個人に、自分の根っこにある部分を再度認識させ、その上でそれを各自に表現させる能力」だと私は考える。

IQやEQは、戦略を立てたり、チームを率いるどんなリーダーにも重要であり、そのようなリーダーが率いる会社も「良い会社」にはなり得る。
しかしながら、LQは「良い会社」と「偉大な会社」を決定的に分けるものだと考える。
LQの高いリーダーのもとで働く組織は、自分たちと社会問題の関係性、その社会問題を解く上で自分たちはどのような役割を担っているかを日々確かにしながら働くことが出来る。

いくら稼いだか?だけではなく、そのサービスを通じてどれだけの人が何かを成し遂げることを可能にしたか?におもきを置く企業、組織において、共感思いやりは、それを可能にする重要な要素である。
それらの要素は、世界をよりよくしたいと願う企業の、彼らの提供するサービスの質を、より高めることが出来る。

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ここに、私たちが伝統的なビジネスパラダイムをいかに超えたかを表す一例として、アリババの信念がある。
Business Roundtableでは、企業の目的を

企業は株主のために存在する

と定義している。
一方で、20年経って、ジャックの以下の信念は広く知れ渡っている。

顧客第一、従業員第二、株主第三

アリババはこの時代に、社会に貢献し、サステイナブルで、グローバルなビジネスをどのように実践したら良いか、将来の起業家たちが参考に出来得るフレームワークの一部を、私たちに示していると思う。

将来、より多くのリーダーや組織が、LQの重要性を認識してくれることを私は望んでいる。

道はつづく

デジタルプラットフォームは、人々のマインド、行動、そして経済全体をポジティブに、積極的に変えるために使われている。
そこには、新しく、未知である故の、デジタル世界のリスクがある。
しかしながら、私たちが恐れるリスクよりはるかに大きな、この世界を劇的に良くするベネフィットがあることをアリババは証明している。

ジャックマーと、彼の作り出した会社は、すでに世界に大きな爪痕を残している。長い間、そして慎重に考えられた、後継者への引継ぎプロセスを経て、ジャックはエグゼクティブ・チェアマンの座から退任し、2015年からCEOを勤めているダニエルチャンへと継承した。

ジャックは引き続き、アリババの不可欠な一部であり、取締役の一員で、アリババパートナーシップの生涯メンバーである。彼は今後、より慈善事業に力を注ぎ、アリババの歴史に爪痕を残し続けるだろう。

この素晴らしい贈り物を、本当に有難うジャック。
私たちがこれから次の20年で何を成し遂げることが出来るか、本当に楽しみで待ち切れない。
(Brianによる英文の原文はこちら

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