高井浩章 幻のデビュー作と娘の名推理

「オススメ理系本」という投稿の準備で本棚を漁っていたら、ずっと開いていなかった本の間にトンデモナイものが挟まっていた。

高井浩章の幻のデビュー作である。

タイトル画像がその書影。世間では「おカネの教室」が処女作ということになっている。経歴詐称の証拠を握りつぶそうと思ったが、記者・高井の良心がそれを許さなかったので、ここに概要を公開する。

隠匿場所になっていたのは物理学者ロジャー・ペンローズの迷著もとい名著「皇帝の新しい心」(みすず書房)である。

(1994年刊。マンデルブローなカオス感がグッド)

この本は「強いAI(人工知能)」、当世流に言えばシンギュラリティ論に対して、ペンローズ御大が「そんなモンは無理やで」と強力に反論したもので、当時はとても話題になった。タイトルは「強いAI論なんて『裸の王様』や!」という威勢の良い皮肉である。

学生時代にホフスタッターの「ゲーデル、エッシャー、バッハ」(なつかしいな、おい)にハマって以来、「知能とは何か」という問題に関心を持っていた私にとって「ど真ん中」な本で大変面白く読んだのだが、中身はまあ、トンデモ本の類である(というと信者に怒られるのだろうか?)。

トンデモではあるが、量子力学とカオス理論と脳の微細構造をごった煮にして、
「人間に自由意志はあるのか」
「脳はただの『肉のコンピュータ』か」
という刺激的なテーマに切り込んでいる大変面白い本だ。
興味がある方はもうちょっと薄くて安いペンローズの量子脳論の本を読んでみてもいいかもしれない。あくまで「いいかもしれない」ぐらいのオススメ度だが。

閑話休題。幻のデビュー作問題に戻る。
奥付によると版元は「サンタ出版」、2001年12月発行の初版本である。

2018年刊の「おカネの教室」より17年も前に出ている。
しかも、ミッフィーちゃんの画像の無断使用の疑いが濃い。
表紙を開くとタイトルとともに、「さく・え」は「サンタクロース」とある。筆名はともかく、「え」はどう見てもディック・ブルーナだ。剽窃の容疑がより濃厚になった感がある。


お手製シール絵本

と、この調子で続けるのが苦しくなってきたのでネタバレします。

これは2歳になる直前の長女にクリスマスプレゼントとして贈った自家製の絵本だ。自家製とは、既成のシールとでっち上げたストーリーでオリジナル本を作ってしまうという力技である。
タイトルのオレンジに塗りつぶしたところには長女の名前が入っている。ミッフィーちゃんが長女、という設定だ。

大阪勤務時代の最寄り駅だった江坂の東急ハンズには、品ぞろえの良いキャラクターものシールコーナーがあった。つらつら眺めているうちに、
「絵心がない自分でも、これでミニ絵本が作れるんじゃないか」
というアイデアが浮かんだ。

我ながらナイスアイデアだったが、シール選びを始めてみると、これがけっこうな難題。まあ、そんな用途を想定してシールは作られていないので、当たり前なのだが。
何十枚と並ぶシールをながめては、アタマの中でストーリーを試作する。「これで行ける」と選んだのが、このミッフィーちゃんのシールだった。
シールにフィットする手のひらサイズのノートも一緒に買った。

今、読み返してみると、2歳児向けのゆるふわストーリーに、ちょっとした伏線と笑えるオチをつけ、文体もミッフィーちゃんの絵本シリーズに寄せ、ページ数もピタリと合わせてある。
我ながら、馬鹿馬鹿しいほどの、完璧な仕事だ。
物好きな方向けに、最後に全ページを掲載しておきます。

現在19歳の長女はこの絵本を「覚えていない」そうだが、2歳の長女には大好評で、調子に乗ったお父さんは次の年も同じようなシール絵本を作った。
2作目はスヌーピーがキティちゃんの家に遊びに行こうとして数々の危難に遭遇するという冒険譚だった。画像は割愛します。

その後、我が家のクリスマスプレゼントは「子どもがサンタクロースにリクエストの手紙を書く」というありがちなスタイルに変わり、サンタクロース=私から長女に絵本が届くことはなくなった。

と、ここで終わればただのほっこりストーリーだが、ここまでは「伏線」である。

まさかの「サンタバレ」

時は流れ、10歳の長女は2人の妹を持つお姉ちゃんになった。
ある休日、長女が突然、私のところにやってきて、

「おとうさん、『ん』って書いてみて」

と言ってきた。
なんでやねん、と思いつつ、渡された裏紙に「ん」と書いて渡した。

しばらくすると、長女が戻ってきて、

「サンタクロースって、おとうさんでしょ?」

と勝ち誇った顔で言った。
手にしていたのは、3歳の長女に贈った「サンタクロース」の自家製絵本と、さきほど「ん」と書いた裏紙。

まさかの筆跡鑑定!

親心と、特徴的な手書き文字の汚さが、8年越しのブーメランとなって「サンタバレ」につながってしまったのだ。
この頃、長女はマンガの「名探偵コナン」にハマっていた。
薄っすらと感じていた疑惑を、コナン君ばりの推理と尋問で見事に解き明かしたのだった。

動かぬ証拠に観念した私は長女に真実を告げ、2人の妹には内緒にすること、サンタさんへのお願いの手紙は続行して「サンタ神話」の持続に加担することを要請した。「こっち側に来い」ということだ。

長女も共犯者となって、高井家のサンタ神話はその後数年命脈を保った。
だが、不思議なもので、次女、三女とも、長女と同じ10歳の時に「サンタ=お父さん」という真実にたどり着いた。

次女はロジカルに考えて結論を下したようで、すぐさま共犯者に引き込み、両親プラス姉2人の布陣で三女のファンタジーを守った。
だが、4対1の鉄壁のディフェンスも崩れる日が来た。
「蟻の一穴」は、長女と同じく、マンガだった。
三女がある日、このコマを開きながら「やっぱりサンタさんなんていないよね?」と詰め寄ってきたのだ。

さくらももこ先生…。ええ、そうですよね、子供だまし、ですよね…。

高井家の惨事から得るべき教訓は以下の通りだ。
・「サンタさん」は手書き文字など証拠を残さない
・「サンタバレ」するまで「ちびまる子ちゃん」を解禁しない

なお、私は何とか神話の維持を図るべく、「プレゼントを置いていく後ろ姿を撮影して娘に見せる」という作戦を思い付き、ドン・キホーテでサンタの衣装まで買ってきたことがあった。
この作戦は、実行前に友人から「無駄な抵抗はやめなはれ」と止められた。

だから、今も、我が家の押し入れのどこかに、袖を通していないサンタの衣装が眠っている…。

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以下、幻のデビュー作です。オレンジはすべて長女の名前。
仮名遣いが怪しいところがありますが、私家版なのでご愛敬。


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高井浩章

高井浩章 雑文帳

徒然なるままに。案外、ええ事書いてます

コメント2件

幻の処女作の全文公開!!素敵なお話ながらも面白ろかったです(笑)
ありがとうございます!素敵な、間抜けなお話です(笑)
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