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うっかりサンタと娘の名推理

本棚を漁っていたら、ずっと開いていなかった物理学者ペンローズの迷著『皇帝の新しい心』に愉快な本が挟まっていた。

タイトル画像はその書影だ。
版元は「サンタ出版」で編集は「サンタの友社」。
2001年12月発行の初版本のようだ。

奥付

表紙を開くとタイトルの下に「さく・え」は「サンタクロース」とある。
いや、「え」はどう見てもディック・ブルーナだろう。

プライバシー保護のため画像処理済み

お手製シール絵本

早々に種明かしを。
これは自家製のシールを使った絵本だ。
画像のオレンジで塗りつぶした部分に長女の名前が入っていて、ミッフィーちゃんを長女に見立てたお話になっている。
「サンタクロースが特別に絵本を書いてくれたよ」という設定で、2歳になる直前の長女にクリスマスプレゼントとして贈った。

大阪勤務時代の最寄り駅だった江坂の東急ハンズには、品ぞろえの良いシールコーナーがあった。つらつら眺めているうちに、「絵心がない自分でも、これでミニ絵本が作れるんじゃないか」と思いついた。

とはいえ、そんな用途を想定してシールは作られていない。
何十枚と並ぶシールをめくり、頭の中でストーリーを試作した。
「これで行ける」と選んだのが、このミッフィーちゃんのシールだった。
シールにフィットする手のひらサイズのメモ帳も一緒に買った。

読み返してみると、2歳児向けのゆるふわストーリーに、ちょっとした伏線と笑えるオチをつけ、文体もミッフィーちゃんの絵本シリーズに寄せ、ページ数もピタリと合わせてある。
我ながら、馬鹿馬鹿しいほど完璧な仕事だ。
最後に全ページを掲載しておきます。

現在19歳の長女はこの絵本を「覚えていない」そうだが、2歳の長女には大好評で、調子に乗ったお父さんは次の年のクリスマスにも同じようなシール絵本を作った。
2作目は「スヌーピーがキティちゃんの家に遊びに行こうとして数々の危難に遭遇する」という冒険ものだった。画像は割愛します。

その後、我が家のクリスマスプレゼントは「子どもがサンタクロースにリクエストの手紙を書く」というありがちなスタイルに変わり、サンタクロースからシール絵本が届くことはなくなった。

と、ここで終わればただのほっこりストーリーだが、以上は伏線である。

まさかの「サンタバレ」

時は流れ、10歳の長女は2人の妹を持つお姉ちゃんになった。
ある休日、長女が突然、私のところにやってきた。

「おとうさん、『ん』って書いてみて」

なんでやねん、と思いつつ、渡された裏紙に「ん」と書いて渡した。

長女は子ども部屋に行き、しばらくして戻ってくると、

「サンタクロースって、おとうさんでしょ?」

と勝ち誇った顔で言った。
手には「サンタクロース」の絵本と、私が「ん」と書いた裏紙。

まさかの筆跡鑑定。

汚い手書き文字が8年越しで「サンタバレ」のブーメランになるとは。
長女は当時はまっていた「コナン君」ばりの推理と尋問で、薄っすらと感じていた疑惑を見事に解き明かしたのだった。

動かぬ証拠に観念した私は、長女に「サンタ神話」に加担することを要請した。「こっち側」に来い、と。
長女が共犯者となった数年後には、次女が論理的に考えて「サンタなんていないよね」と言い出した。すぐさま「こっち側」に引き込み、両親プラス姉2人の布陣で三女のファンタジーを守った。

そのまた数年後、4対1の鉄壁の防御も崩れる日が来た。
トドメを刺したのは『ちびまる子ちゃん』だった。
三女がある日、このコマを開きながら「やっぱりサンタさんなんていないよね?」と詰め寄ってきた。

身も蓋もない

現役サンタの皆さんへ。
サンタさんは手書き文字など証拠を残さないように。
サンタバレするまでマンガは厳選するように。

不思議なもので、三姉妹はそろって10歳でサンタの正体に気づいた。大人の階段を上り始めるお年頃なんだろうか。

なお、私は何とかサンタ神話の延命を図るべく、「プレゼントを置いていくサンタの後ろ姿を写真に撮って娘に見せる」という作戦を思い付き、近所のドン・キホーテでサンタの衣装を買ってきたことがあった。
この作戦は、実行前に友人から「無駄な抵抗はやめなはれ」と止められた。

だから今も、我が家の押し入れのどこかに、袖を通していないサンタの衣装が眠っている。

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以下、お父さんサンタの絵本です。
オレンジ部分はすべて長女の名前。
仮名遣いが怪しいところは、私家版なのでご愛敬。


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