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「おカネの教室」ができるまで⑧ついに完結

So white...

ロンドンでの私の平日のルーティーンはこんな感じだった。

5:00~6:00 起床。東京と電話会議
6:00~8:00 朝食、ニュースチェック
9:00ごろ  自宅を出る
       (9:30過ぎオフィス着)
17:30~19:00 オフィスを出る
18:30~19:30 帰宅
23:00ごろ  就寝

実にホワイトである。新聞を作っている人というより、配っている人のような早寝早起きだ。
ローテーション仕事を一人で回すようなポストなので、毎日登板状態なのだが、それでもホワイトだ。
残業もそれほど多くないし、会食や出張がなければ、平日でも夕食後に1~2時間は執筆時間が取れる。
プラス、土日はほぼ休み。夏と冬のまとまった休暇は旅行三昧だったが、これだけ時間があれば、あとは「やる気」の問題だった。

(ロンドン時代の自宅の書斎兼子供勉強部屋からの夕焼け。夏は10時くらいまで日が沈まない)

「あ、これ、本になるかも」

執筆を再開したのは、体育館での講義の場面あたりだった。ここでカイシュウ先生が、それまでの講義内容を総括し、それを格差問題の核心を突くピケティの仮説につなげる。
「おカネの教室」の講義のハイライトともいえる場面で、完成後に試読してもらった友人のファンドマネジャー、平山賢一さんからは「読んでいて、これにはのけぞりました」という感想をいただいた。
それはそうだろう。書いていた自分が、のけぞるほど驚いたのだから。

誇張ではなく、「作中人物任せ・筆任せ」のキング方式で書いていたら、3人の会話の中から、突然、「ピケティの不等式」が飛び出してきたのだ
もちろん、私は「21世紀の資本論」を読んでいたし、長年関心を持ってきた格差問題には、どこかで触れたいと思っていた。
しかし、この場面で、この上ないほど自然にピケティとストーリーがつながるとは、まったく予想していなかった
書いていて、「カイシュウ先生、やるな!」と感心するとともに、ふと、「これ、本になるかも」と思ったのをよく覚えている。
内輪ネタ満載の家庭内連載として書いてきた読み物に、初めて将来の出版の可能性を感じた
今でも、ピケティにつなげた離れ業は、私ではなく、カイシュウ先生のお手柄だと思っている。
キング方式、恐るべし。

7年の長期連載に幕

そこからは、一気呵成だった。
ネタバレなので詳しく書けないが、「もう1つの謎解き」のシーンでも、作者の予想を裏切る展開となり、「おお、そっちだったのか」と驚かされた。
この場面は、完全に作中人物たちにストーリーテリングの主導権を握られてしまい、作者は書記兼第一読者という状態であっという間に書きあがった
のちに何度もリライトを重ねたときも、このパートはほとんど書き直していない。

文章がもっとも光り輝くのは(いつだって、いつだって、いつだって)インスピレーションに導かれて書いたときだ。

以前引用したキングの言葉は、真実だった。

ついに完結!

残るは「お金を手に入れる6つ目の方法」の謎解きのクライマックスと、エピローグだけとなった。
プロットも無しに進めてきたけれども、さすがにここまでくれば、私には着地点が見えてきた。
それでも、3人組は最後まで、いくつかの嬉しい誤算、作者の思惑を超えた言動をみせて、書く喜びを堪能させてもらった

そして2016年10月某日。
ついに約21万文字、原稿用紙換算で400枚超の「おカネの教室」の初稿が完成した。
プリントアウトすると、最終回を待ちわびていた次女がさっそく読んで、「よし!6つ目の方法、合ってた!」と喜んでいたのを覚えている。
その晩は、完成を記念して、ウエストアクトン名物、アタリヤの極上ネタで手巻き寿司パーティーとなった。

(問題の手巻き寿司。少々値は張るが、ロンドン郊外ウエストアクトンの駅前には日本と同等以上のネタを提供するアタリヤという日本食材店がある)

7年半近い長期連載を終え、達成感とともに、3人組と「お別れ」する寂しさが湧き上がった。
だが、そんな感傷はまったくの勘違いだった
その後、翌17年春のKindle版のリリースと、そのさらに1年後の書籍化に向けたリライトで、3人組とはまだまだ濃密な「お付き合い」が続くのだった。

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ご愛読ありがとうございます。
ここで一区切りとして、近日中に1~8をまとめたシリーズ1の総集編を作ります
今後は、シリーズ2「おいでよKindleの森 風雲・個人出版編(仮)」、シリーズ3「商業出版はつらいよ 地獄のリライト編(仮)」と続く予定です。筆任せですので、多分、ですが。
シリーズ2ではKindleの個人出版KDPの体験記、シリーズ3では私家版・Kindle版・書籍版とリライトを重ねてどうコンテンツが「練られて」いったか、を軸に展開します。多分

乞うご期待!

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