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「外さない書き方」の指南書 『東大作文』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に5月9日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

ベストセラー「東大読書」の姉妹作の売り文句は、「『伝える力』と『地頭力』がいっきに高まる」。ずいぶんと欲張りなタイトルだ。看板に偽りはないのだろうか。

『「伝える力」と「地頭力」がいっきに高まる 東大作文』東洋経済新報社
西岡壱誠/著

四半世紀近く記者稼業をやっているので、一応、作文については「プロ」を名乗って良いと思うが、そんな私から見ても、本書の作文術は納得感がある。無意識にやっている手順やテクニックが言語化されていると感心した部分も多かった。面倒がらずに実践してみれば、「伝わる文章」を書くのが苦手な方には、かなり効果があるだろう。

少し俯瞰すると、「読者に興味を持ってもらう文章の書き方には一定のパターンがある」というのが本書の一貫した主張であり、「その型さえ習得すれば、『外さない文章』は誰にでも書ける」と訴える。

これはその通りで、せっかく面白いネタでも、書き方が悪ければ伝わらない。裏返すと、「書きたいこと」が味気なければ、文章と構成がいくら達者でも、面白くはならない。
型を身につけるのは、「書いて伝える」ことのスタートラインであり、そこに立つための第一歩を、これでもかと丁寧に解説している。「東大生は」というフレーズが頻発するのは、ご愛嬌といったところだろう。

この手法が売り文句通りの効果を上げられるかは、「型」という仏に魂を入れられるかにかかっている。魂に当たるのは、本書が繰り返し力説する「双方向性」だろう。

文章とは書き手と読み手のコミュニケーションであり、それは書き手が読み手に情報を与える一方的なものではなく、読み手を巻き込み、共同作業で「読む前」とは違う場所に達するのが本来の姿だと著者は主張する。
この本質を意識した作文術こそが、「伝える力」であり、双方の立場を考慮できる想像力が「地頭力」の土台となる。

この視点と考え方に、私は基本的に同意する。そして、その達成に決定的な役割を果たすのは、「読解力を持った読み手」だ。
ここで環が閉じる。
著者の姉妹作は、コインの裏と表のように、切り離せない一体感を持っている。併読を勧めたい。

本書は、本文中でも言及されるように、「東大作文」のノウハウを駆使して執筆されているという「メタ性」を持っている。
個人的には、紹介されるノウハウは「少々あざといな」という感がなくはない。だが、「型」すら身についていないのはただの「形無し」で、それは個性ではない。まずは一つの「型」を習得するのは手順として正しい。

そして、いつか、著者が本書のノウハウを超越するような、個性を解放した「型破り」の1冊を世に問うのを楽しみにしている。

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