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賢者が説く、しなやかな生存戦略 『反脆弱性』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に7月29日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

著者ナシーム・ニコラス・タレブは、ユニークな実践知を提唱する当代の賢者の一人といって良いだろう。

ベストセラー「まぐれ」では、生物としての人間が進化の過程で獲得した「世界の切り取り方」が、現代社会、特に経済・金融分野では有害なバイアスとなり、意思決定やリスク管理などで重大な誤りを招くという論を展開した。
続巻の「ブラックスワン」の書名はいまや「予想不可能だが、現実になると甚大な影響を及ぼすイベント」という意味の用語として定着しつつある。

「反脆弱性」はブラックスワンのような事象が起きても耐えられる人生の生存戦略の指南書であり、哲人タレブの思想の集大成と言って良いだろう。柱となるのは、世の中の事象を「三つ組(トライアド)」と呼ぶ枠組みでとらえる思考法だ。

『反脆弱性――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』ダイヤモンド社
ナシーム・ニコラス・タレブ/著 望月衛/監修 千葉敏生/翻訳

三つ組は「脆弱」「頑健」「反脆弱」から成る。
本書内で紹介される例を挙げれば、会社に依存する「企業の従業員」は脆弱、歯科医師など専門職は「頑健」、そして職人や売春婦といった数千年単位生き延びてきた絶対的なニーズを持つ仕事が「反脆弱」となる。
日本人なら、地震で倒れる木造家屋が「脆弱」、コンクリートのビルが「頑健」、そして何百年も風雪に耐えてきた五重の塔のようなしなやかな建造物が「反脆弱」と言えばイメージがつかみやすいだろう。

タレブは、脆弱であることはもちろんのこと、頑健さもある種のリスクに対して弱さを持つと強調する。頑健である分、柔軟性や身軽さに欠け、変化への対応が後手に回る恐れがあるためだ。
そして、最善の生存戦略として、人生にどう「反脆弱性」を取り入れていくか、寓話を挟みながら解説する。それは、大衆にリスクを押し付ける寄生虫のような既得権層から身を守る手段にもなるという。

シニカルでうねるような文体と次から次へと繰り出される「知の洪水」は歯ごたえ十分。読後には、常識を疑う懐疑精神や既得権層に対する反骨精神、そして徹底した個人主義賛歌のシャワーで、世界の見え方が多少なりとも変わること請け合いだ。

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高井浩章

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