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綴り方

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2019年4月の記事一覧

君がいない空の下で

君がいない空の下で

空の上から君がいなくなってもうすぐ2年が経つ。

私は生きているよ。

頑張って生きているよ。

君がいなくなった空の下で。

君に見てもらえなくても。
君に言葉が届かなくても。

生きているよ。

 

君がいなくなった代わりに君はそばに来てくれた。

いつでも言葉を交わせる。
いつでも体温に触れられる。

手を伸ばせば繋がれる距離にいるのに、心はどこまでも遠い。

近くにいるのに届かない。

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割り切れる数字ばかりの算数のドリルみたいにいかない人生

割り切れる数字ばかりの算数のドリルみたいにいかない人生

いくら言葉を重ねても。

いくら心に響いても。

変わらないものは変わらない。

 

生きるのが苦しいとき、逃げる以外の方法がわからない。

 

めまいがしそうなほど誰かの気持ちで満ちている世界で、かきわけて進めるほど強いはずがなかった。

 

私は私でしかない。
だから尊いのだと人は言う。

オンリーワンなのだと。
一番でなくても、一流であればいいのだと。

私は私でしかない。
だからもう

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曇天の旅路

曇天の旅路

新しい場所。

どんな場所だろう。

どんな人がいるのだろう。

自分に何ができるだろう。

新しい場所に旅立つとき、多かれ少なかれ誰もが何かしらの期待を抱く。

せっかくの旅立ちが晴れの日でなかったのは残念だが、天気に文句を言っても仕方がない。
垂れ込める分厚い雲、上等だ。
雲を裂いて空を渡り、雨もはねのけ、誰も知らない世界を見てやるのだ。
この目で。
この足で。
必ずたどりついてみせる。

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世界の質量は決まっている

世界の質量は決まっている

創造とは循環することだ。
創造者よ、循環せよ。

世界の質量は決まっている。

0が1になることも、1が0になることも、2が10になることもない。
あるのは1が一になり、一がoneになる営みだけだ。
世界は必要なときに必要な人の前に必要な形となって現れる。
その営みを人は創造と呼ぶ。
何かを生み出すということは世界の形を変化させるということにすぎない。

初めから決まっている。
世界はこれだけの質

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死に惹かれ、死の匂いに戦慄する

死に惹かれ、死の匂いに戦慄する

 死を感じる場所に昔から心を惹かれてきた。たとえば霊安室、たとえば火葬場、たとえば刑場。死と密接に絡み合うそれらの場所は、想像力の格好の的だった。煌々と明かりの灯る深夜の病院を見上げて、平時であれば立ち入ることのない禁忌の場所を思った。

 反面、死の匂いのする景色を見ることはひどく恐かった。斎場から出発する霊柩車。遺影を持った親族のなす列が送迎のバスに吸い込まれていく。確かに人の重さを感じる白い

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12月の鎮魂

君を捨てた。
ひどくあっさりと。冷酷に。

君が使い物にならなくなったからだ。
嫌いじゃない。
できれば一緒にいたかった。

君を見初めた日、私達は幸福だった。

今は小さな袋の中で眠る君のすすり泣く声が、どこにいても耳から離れない。

何のために生まれてきたのか。
何のために生み出されたのか。
少なくともこうやってあっさり捨てられるためではなかった。

君の涙を食べた。

生まれたての君は胸に希

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まずは少し濡れたスポンジになる

まずは少し濡れたスポンジになる

 とある昼下がり。
 都内某所。

【自己啓発セミナー:今、何かを始めたいあなたへ~挫折しないために必要なこと~】

「あなたたちは乾いたスポンジです!」

 開口一番、登壇者は言った。ガタイがいいというよりは小太りで、緑のポロシャツはよれよれだ。歳は三十前後といったところか。黒縁のメガネが妙によく似合っている。
 要するにどこにでもいそうな青年だ。彼が会社員でも、個人事業主でも、医者でも、作家で

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朝の空も夜の空も平等に価値がある

朝の空も夜の空も平等に価値がある

朝の空に希望を歌い、夜の空に記憶を辿る。

同じ空を見るということ。
同じ時間を生きるということ。

本物は本物であるほど作り物めいている。

スクリーンみたいな空。
だけどスクリーンではない本物の空。
あの向こうが無限に広がる空間ならば、私は空に何を見ているのだろう。

何もない広い空間。

たまたま地面に足がついているけれど、たまたま君が隣にいるけれど、本質的なところで私は宇宙をただよう塵と何

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ちゃんと生きたところで

ちゃんと生きたところで

あなたがいなくなってから何日が経ったのだろう。
あるいは何週間、何ヶ月。何年かもしれない。
それすらも計算できなくなってしまった。

あなたがいなくなってから生きることが雑になった。
かろうじて会社には行く。社会のためになら生きられた。
でも自分のために生きることがどうしようもなくむなしい。
コンビニ弁当とペットボトルが散乱する部屋。冷蔵庫の出し入れすら億劫だ。風呂はシャワーで済ませる。シーツがめ

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文章は人生

文章は人生

誰にも責任を負わない文章は誰にも響くことはない。

文章を書くとき、もうずっと逃げ続けている。
今この瞬間。
こうやって一文字書き記すたびに、一歩ずつ逃げている。

結局恐いだけなのだ。
何が? 批判されることが? 評価されないことが?
違う。
自分がただの普通の人であると思い知らされることが。
ありふれた、どこにでもいる、つまらない人間でしかないのだと認めることが。

だって、共感ってそういうこ

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地上から5メートル

地上から5メートル

自分らしく生きる。
だとか。
マイペースに。
だとか。
自分だけは自分のことを認めてあげましょう。
だとか。

もう聞き飽きた言葉が、救いを求めて訪れたネットの海にあふれかえる。
教科書みたいな言葉。
私は唯一無二、私でしかいられないのに。
一般的な悲劇みたいに言わないでよ。

この叫びすら届かないのに。

数字は数字だ。
それ自体に意味はない。
ルーレットで与えられたものなら、誰も苦しみはしない

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春は遠い

春は遠い

4月。

冬物のコートをまとって外へ出る。
冷たい空気が頬をさした。

静まりかえった住宅街。
コンクリートの塀が続いている。

川沿いの道へ出ると、咲き始めた桜が青空に映える。
芝生で輪になる花見客を橋の上から見下ろす。

何か大きなニュースがあったようだ。
ごった返す駅前と、散乱する号外。
目の前に差し出されるそれを、見なかったふりをして通り過ぎる。

あなたは過去をとどめ置かない人。
今と未

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