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選ばれなかった無数の物語を拾い集めて

強烈な夕日が瞼を直撃してじくじくと痛みが走った。

何かが駆け抜けていく感覚がする。

生きている限り常に強いられる無数の選択の選ばなかった方の道の続く未来に思いを馳せたところで意味はないけれど、選んだ方の道から少しずつ逸れていったらどんな世界にたどり着くのだろうと空想する。

そうして空想の果てに出来上がるものが物語なのだとすると、きっとその物語はすぐ傍にあるような、見えないけれど隣で一緒に歩んでいるような、心強いパートナーのような存在になりえるだろう。

手の届かないものより届くものに惹かれるのだ。
少しばかり悪戯心を起こせばいつでも行ける場所に憧れるのだ。

それでも物語はどこまでいっても物語で、我々が生きなければならないのは紛れもない現実である。
道を外れれば物語の中にはワクワクするような冒険が待っているけれど、現実世界に生きる我々にはピンチに助けてくれるヒーローもいなければ、相手の弱点を突く作戦はたいてい成功しないし、アイコンタクトだけでわかりあえるような人間関係などめったに存在しない。

現実を生きる我々は選んだ道から逸れないように細心の注意を払って、ときおり湧き上がる悪戯心に打ち克ちながら、空想を積み上げた物語を摂取して慰めるより他はない。

三年前に戻ることはできなくても、三日前に戻ることはできるかもしれない。
放置していれば広がっていく傷口を今ならまだ止められるかもしれない。
三日分の物語はワクワクするような冒険でありえても、三年分もの物語は破滅へ向かう一方通行の道となる。

強烈な夕日は毎日毎日、世話を焼くように瞼に問いかける。
「拾い忘れた選択はないか?」
瞼を閉じて答える。
「死ぬまでは誰にもわからないよ」

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