見出し画像

世界の質量は決まっている

創造とは循環することだ。
創造者よ、循環せよ。

世界の質量は決まっている。

0が1になることも、1が0になることも、2が10になることもない。
あるのは1が一になり、一がoneになる営みだけだ。
世界は必要なときに必要な人の前に必要な形となって現れる。
その営みを人は創造と呼ぶ。
何かを生み出すということは世界の形を変化させるということにすぎない。

初めから決まっている。
世界はこれだけの質量しか持ちえない。
それ以上でも以下でもない。

世界を循環させて、人は創造する。

マジックミラーの向こう

秋の深まった日の夕方、人通りのない道を君の待つ家に帰ろうと歩いていた。

前方に車が一台。
そして車を取り囲む複数人の男たち。

人を見かけで判断してはいけないとはいうけれども、彼らはこんな細く薄暗い道で決して出会いたくないと思うような風貌をしていた。

車に寄りかかって何かを話している。
胸がざわつくような、こういう人種独特な話し方。

何も見ていないフリをして彼らの傍をやり過ごそうとした。
そしてそれは成功した。

彼らはニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらをちらちらと見ていたけれども、それだけだった。

一瞬だけ好奇心が勝って、彼らの車に視線がいった。
マジックミラーのような構造になっているのだろう。
窓から中の様子は見えなかった。
そしてすぐさま視線を離した。

無事に君の待つ家へたどり着いた。
でも、君はいなかった。
そして二度と帰ってくることはなかった。

警察から聞いた話を総合するに、あの日、あの男たちが取り囲んでいた車の中に君はいた。

窓に目をやったあの瞬間、もしかしたら君と目が合っていたのかもしれない。

マジックミラー越しに君は何もかも見ていた。
素通りする私のことも。

どれだけ恐怖しただろう。
どれだけ絶望しただろう。
私の背中をどんな思いで見送ったのだろう。

君のところに行きたい。

ああ、もう、こんな世界なんて。

世界の質量

世界の質量は変わることなく、世界は循環し続ける。

私の感情も、君の不在も飲み込んで。

世界は回る。
今日も絶えず変わりゆく。

愛した人と、愛した人のいた世界はもうない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?