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今後のACAに期待する事

2020年、コロナウイルスの影響は世界のMMA(総合格闘技)市場も激変させた。業界最大手のUFCを筆頭に世界中のMMA団体が、イベントのキャンセル、もしくはマッチメイクの改変を余儀なくされた。


また、コロナウイルスは各プロモーションの契約選手層にも変化をもたらした。世界的な渡航規制により、(団体の資産規模にもよるが)一部の選手は海を跨いでの試合を組めない状況になっている。UFCに至っては、渡米が難しい国外選手のマッチメイクを組めるよう、アブダビに専用施設を作ったほどだ。


さて、ACA(Absolute Championship Akhmat)はどうか。

個人的な見解として、ACAにとってこの一年は飛躍の年であったと思う。

さらに言うと、「飛躍の年」というより、業界での「プレゼンスを高めた一年」だったと感じた。

2020年12月12日現在までで、ACAが催した興行は11大会。世界的にコロナウイルスが拡大した3月までに2大会、その後、4~6月までのイベントを全て凍結させ、7月から9大会を開催した。この数字は、北米、アジアのプロモーションと比較しても多い部類に入ると思う。そして、12月はさらに2大会が予定されている。


今年、ACAに起きた環境の変化を見てみよう。

実は今年、多くのACAチャンピオン達は、ACAとの契約を終了している。ライトヘビー級王者のDovletdzhan Yagshimuradovは昨年の12月、自身のタイトルを防衛したのを最後に、北米のBellatorと契約した。また、ヘビー級王者のMukhamad VakhaevはACAを離脱しフリーとなった。次の契約先に関して正式な発表はないものの、自身のInstagramを見るに、北米のUFCもしくは、PFL・Bellator辺りが次の所属先であると予想される。


ここで、タイトル戦線の空白期間を設けないのがACAの強みだ。

ACAは本拠地のロシア(チェチェン,グロズヌイ)の選手達を中心に分厚い選手層を保持している。さらに、ブラジル、ポーランド、そしてカザフスタンを始めとした旧ソ連圏諸国に強烈なネットワークを持っている。他国のプロモーションが渡航規制に苦しむ中で、ロシア国内や近隣諸国との間でマッチメイクを組めたという、地政学的な強みがACAをさらに強化させた。


ちなみに、私は今後コロナウイルスがどのように終息するか、しないかに関わらず、業界最大手はUFCであり続けると思う。それは、団体の施策、選手層の優劣に関わらず、米国の経済規模が世界一であり続ける限り、米国のUFCに世界中から優秀な人材が集まり続ける事には変わりないからだ。


その上で、ACAの今後にさらに注目していきたい。

まず、重量級(ヘビー級~ミドル級)。ここはACAのストロングポイントの一つでもある。ロシアの重量級というのは非常に層が厚い。それは、ロシアという国では、サンボ、レスリング、柔道...etc のようなコンバットスポーツが非常に盛んで、一般的に層が薄いといわれる重量級においても豊富な人材が集まるからだ。現在、ACAヘビー級の王者は米国のTony Johnson。ライトヘビー級は空位。ミドル級王者はACAの総本山、チェチェンのSalamu Abdurakhmanov。ここから、どのようなストーリーが生まれるか、注目したい。

中量級(ウェルター級~ライト級)に関しては、ロシア新旧世代の熾烈な争いが続く。特に今年9月に行われたライト級王者決定戦、Abdul-Aziz Abdulvakhabov vs Alexander Sarnavskiyの一戦は、2020年のベストバウトと個人的には思っている(この一戦は、YouTube上にノーカットでUpされていますので、是非ご覧いただきたく思います)。また、ロシアの選手達は一括りの「ロシア」という訳ではなく、チェチェン系やスラブ系、アジア系などの人種に分かれており、そのような切り口から見るのも興味深い。


軽量級(フェザー級~フライ級)に関しては、ロシア vs ブラジルの激突が繰り広げられている。既にフェザー、バンタム2階級はブラジルが獲っている(フェザー級王者:Felipe Froes、バンタム級王者:Daniel Oliveira)。今月の12/18に、フェザー級タイトルマッチとして、前王者Marat BalaevがFelipe Froesに挑戦するが、そちらの行方も気になるところ。ロシア vs ブラジルというMMA大国伝統の戦いは、ACAの魅力をグッと引き立ててくれる。


ロシア国内のMMAの中心的存在であると同時に、私個人としては、ACAの持つ独特の雰囲気が好きだ。時として、北米のMMAジャーナリスト達は薬物検査に関するコンプライアンスや政治的な問題を引き合いに出して、ACAを批判する。多くの方々の意見を目にして、確かにそれはその通りであると感じる。しかし、実を言うと、私はあまりそれは気にならない。世界は綺麗事では動いていないからだ。

これからもACAスタッフ達が創る、「Less Show More Fighting」な世界観を楽しみにしてる。


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